愛颯らのね

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お題 放課後

遠くに聞こえるのは、吹奏楽部のきれいな音色と運動部の熱い声。誰もいない廊下に、私の足音だけが響く。
ちょっと前までうるさかったはずの学校とは思えないような雰囲気に何か特別なものを感じた。
ちょっとした恐怖心とか、この場所に今私しかいないっていう優越感とか、そんなもの。

優越感なんて言っても、教室に宿題を置いて帰っちゃったから取りに来てるだけなんだけどね。
(お、あったあった。よかったぁ。)
無事見つかった宿題たちを鞄に入れて立ち上がる。誰もいない教室というのも珍しいものだ。
とはいえ、誰もいないことを除けばただの教室なわけで、すぐに飽きて再び廊下を歩き始めた。

不意に無意識に目線が動いた。隣の校舎で誰かが動いたように見えたからだ。
何がおかしいって、そっちの校舎は旧校舎、つまり今はほとんど使ってないから人がいるのはおかしいはず。
どうにも気になった私は、意を決して旧校舎に入れる場所を探す。
(ここなら、入れるね。)
たまたま一か所、窓が開いてるところがあった。ご丁寧にふみ台まで置いてあって。

旧校舎の中は、今の校舎とは違い床とか壁が木でできていた。一歩歩くたびに、きしっとか、みしっとか音を立てている。
階段を上って、さっき人影が見えたあたりまで来た。そこには誰もいなくて、夕日によってオレンジ色に染まっていた。
何もないし、帰ろうと思ったときに廊下の突き当りから左にまだ道があることに気づいた。
(少し不気味だし、そろそろ帰りたいけど、せっかくここまで来たしちょっとくらい行ってみたいかも。)
恐る恐る曲がってみると、短い階段と、半開きになっている大きな扉があった。
扉の向こうからは冷たい替えが吹き抜けてくる。
覗いてみると、一人の男子が寝ころんでいた。
さっき見えたのは、このひとだろうか。
さて、覗き込んだはいいものの声をかける勇気はない。もともと私はコミュニケーション能力の低いほうだ。
それに加え、誰かもわからない人に何の用もないのに声をかけるなんて、
そんなことを考えていると、不意に心臓がどきりとした。
「なあ。」

「え?」
「お前だよ。さっきからなんか覗いてるお前。」
彼は変わらず寝ころんだまま、多分、というか絶対私に話しかけてきた。
「そんなとこにいないで、こっち、きたら?」
「は、はい。」
初めての屋上に、初めましての人。ドキドキしながらちょこちょこと彼のもとへ歩いた。
「なにしにきたの?」
あなたのことが気になってきましたなんて言えないよ!
「だんまりかよ」
ふっと笑った彼を見てとりあえず一安心と胸をなでおろす。
「え、えーと、あなたは何でここにいるんですか?」
「んー別に。」
「そ、そっか。」
どうしよう。会話が続かない。沈黙きまづい!
「お前、何年?」
「2年、です。」
「そっか。同い年か。」
え?同い年?
私の学校、そんな大きな学校じゃないけど、まだ知らない人いたのかな。
「転校してきたんだ、俺。もう3週間くらい前のことだけど。」
「転校生、か。」
それで知らなかったのか。
「なに?まだ話聞いてく?」
そう言いながら彼は起き上がった。
彼に興味がなかったわけではないので、うんうんと頷く。
すると彼は、「変な奴。」と言って笑った。
はて、そんなに変なことをしただろうか。

「また明日来いよ。その時話してやる。」
彼がそう言うのと同時に最終下校の音楽が鳴り始めた。
屋上で転校生に出会う。そんな非日常的なことが明日も起こるらしい。
次の日から彼のことを意識するようになったのは、言うまでもないことだろう。

10/13/2024, 12:52:16 AM