与太ガラス

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1/13/2025, 1:18:50 AM

A「オレさぁ、最近ずっと同じ夢を見るんだよね」

B「えー、そんなことあるんだ。ちょっと怖いな」

A「なんか寝てても居心地が悪いっていうかさ」

B「夢って深層心理を映すとかって言うよね。なんか意味があるんじゃないの?」

A「つまんないんだよね」

B「え? つまんないの?」

A「先に進めないのが、嫌でさぁ」

B「先に進めない?」

A「いつも同じところから始まって、同じところで終わるんだよ」

B「おお、同じ夢だもんな」

A「なんか、リセマラしてるみたいでつまんないんだよ」

B「リセマラ? スマホゲームで最初にいいキャラが出るまでチュートリアルを繰り返す、あのリセマラ?」

A「解説ありがとう。そう、だから、あの夢の続きを見たいんだよね」

B「んー、それって、いまここで寝たら、その夢が見られるってこと?」

A「ああ、寝られたら、見ちゃうと思うよ」

B「じゃあさ、夢を見始めたら、寝言で教えてよ。あの夢きた! って。そしたらその寝言と会話して、次のステージに行かせてやるから!

A「やってみよう」

A「あ、あの夢きた!」

B「お、いまどこにいるの?」

A「なに言ってんだよ、いまお前と漫才やってるじゃんかよ」

B「ああ、現実じゃなくて、夢の中で」

A「え? だから、夢の中で、夢の漫才やってるよ」

B「そっかー、ごめんな、最近このネタばっかりやってるもんなぁ。つまんなかったかー」

A「なんか、リセマラしてるみたい」

B「リセマラ? スマホゲームで最初にいいキャラが出るまでチュートリアルを繰り返す、あのリセマラ?」

A「解説ありがとう。そう、だから、あの夢の続きを見たいんだよね」

B「あー、ごめんごめん! 一回起きて、一回起きて」

A「なんだよ、もう少しで続きが見られそうだったのに」

B「いや、このままだと僕も夢の中に閉じ込められちゃうから。お客さんを置いて迷宮に入ってくとこだったから」

A「またこの展開だよ、いつもここで終わっちゃう。なあ! あの夢の続きはどこで見られるんだよ!」

B「わかったよ、続きは楽屋で見よう。どうもありがとうございました〜」

1/12/2025, 12:24:03 AM

「なんで毎回同じミスをするの?」
「いいよ、あとは私がやっとくから」

 やってしまった。感じ悪い。余裕がなくなるといつも強い言葉を使ってしまう。こんなつもりじゃないのに。

 こうなると仕事場の空気は一気に凍りつく。ここでジョークのひとつも言えればいいんだけど、いま、私が言ったらすべて皮肉なブラックジョークに聞こえる。

 仕事ばかりしていると、自分が冷たい人間に思えてくる。実際にそうなんだろう。自分は仕事ができる方だとは思わないけど、できない人が「自分はダメだ」みたいな風にSNSで吐き出すのはイライラする。

 上司がキツイ、できる人はいいよ、意識高いねー笑、ジブン三流大学なんで…

 知らねーよ! 全部言い訳じゃん。ひとつも笑えないんですけど。

「あー寒いー」

 仕事場の空気も冷たかったが、外に出ると一層寒さが増す。

 自分が冷たい人間に感じたら、私はいつもお笑いライブに行くと決めている。特定の推しがいるわけでもなく、その日に行って入れそうなライブに当日券で入ることにしている。

「どうもー、始まりました『デタラメライブ』。オープニングMCのマカロニピッツァでーす!」

 芸人さんはオープニングから会場を温めて、ネタに入りやすいようにする。私の心もゆっくりと溶けていく。

 ネタが始まると、みんな個性あふれる技術で私たち観客を笑わせてくる。自分が選んだ道で、自分が面白いと思ったものを全力で表現する。舞台の上では言い訳もできない。

 私は現実を忘れるぐらい笑い転げた。

「やー、ありがとうございました〜」

 気づけばもうエンディングの時間になっていた。最初とは別のコンビがMCに立っている。

「なんか、今日のお客さん温かいねー」

 やめてよ。温かくしてもらってるのはこっちの方じゃない。

「そうですねー、みなさんこんなに笑っていただいて」

 笑いに来たんだから、当たり前じゃない。

「なかなかいないですよ、こんなに笑ってくれるお客さん」

 芸人さんはそうやってすぐ持ち上げる。

「ホントに、今日と同じネタでも笑いゼロの時とかあるからね」

 そうなのか…。

「少しでも笑い声があると安心する」

 ふーん、笑えばいいんだ。笑うと温かいんだ。いいこと聞いたな。

 明日から、仕事場でも笑ってみよう。もっと余裕ができたら、みんなを笑わせてみよう。そうすれば少しは温かい人に見えるかもしれない。

1/11/2025, 12:50:37 AM

 まずいことになった。何か手掛かりを探さなければいけない。

 照一郎博士の研究室は、板金加工の工場みたいなところで、八畳ぐらいのスペースに高性能PCから研究資料から雑多な工具までがぎゅうぎゅうに押し込められていた。

「君が来てから、研究は飛躍的に進歩したよ。若者を甘くみてはいかんな。未来は明るい」

 博士はロボット研究、いやヒューマノイド研究の第一人者で、このあと人類で初めてヒューマノイドを誕生させる天才科学者だ。そして僕は、その完成を阻止するために未来からやってきた。

「なぜ手袋を外さないんだ?」

 博士が僕に聞いて来た。

「博士、これは軍手ですよ。機械を扱うのに素手で作業しているあなたの方がどうかしています」

「ふん。私が生み出そうとしているのはヒューマノイドだぞ。繊細な部分を造形するのに手袋なんぞしていられるか」

 照一郎博士は、僕の実の祖父にあたる。この人がこれから作り出すヒューマノイドは、時を経て量産化が可能になり、人口が減少していくこの星において、様々な分野で人間を助ける存在となった。

 しかし、その技術はやがて軍事目的で利用され、人間と区別のつかないヒューマノイド兵器は、人類の脅威となったのだ。僕が未来から訪れたのは、このヒューマノイドの完成にストップをかけ、未来を変えるためだった。

 でも・・・僕の関心は、もはやそんなことではなかった。

 僕は博士に隠れて手袋の端を持ち上げた。わたしの地肌はうっすらと半透明になっていた。

 いわゆるタイムパラドックスというやつだ。何かのきっかけで僕の誕生に関わる鍵が改変されてしまったらしい。このまま未来に戻ったら、僕の存在はなくなってしまうかもしれない。

 どうしよう。どこで間違えた? もちろん過去の肉親に干渉しているのだから、そのリスクがあるのは当たり前だ。でも十分注意はしていたはずだ。

 博士が悩んでいた時に、この時代には発見されていない元素の構造を口走ってしまったからか?

 博士がいないときに来たセールスマンにウォーターサーバーの契約をさせられてしまったからか?

 それとも昨日博士が寝ている隙に、博士が隠し持っていたエロ本を盗み見てしまったからか?(父が持っていたのとジャンルが全く同じでげんなりしてしまった)

 それともさっき、博士の交際相手と思われる人に「この泥棒猫!」と叫んでしまったからか…?

 いや、そんなことで未来が変わるものか。変わる…のか?

「あのー、博士? さっきの女性を追わなくてもいいんですか?」

 未来に関わるとすればあの女性だろう。僕は祖母の顔を知らない。ちなみに僕の母も早くに亡くなったと聞いている。

「ん? あんな女より今は研究だ。あと一歩で完成というところまで来ているんだぞ」

 だめだこの人。ヒューマノイドのことしか頭にない。

「それより、TMCモジュールが見当たらないんだ。さっきあの女が癇癪を起こして、そこの部品箱をぶちまけて行っただろう。どこかに落っこちていないか、探してくれないか」

 正直、僕はヒューマノイドなんて完成してほしくはないのだが、ここにいる以上、協力する姿勢は続けなければいけない。それより僕の未来のことだ。

 僕はデスクの下にライトを当てながら考えていた。手が透明になり始めたのはついさっきだ。やはりあの女性が関係しているはずだ。こんなことをしている場合じゃない。

 僕は頭を上げ、博士に進言した。

「やっぱり僕、あの女性を追いかけます」

「あ、おいおい、待ちなさい」

 博士の声に耳を貸さず、僕は研究室を後にした。

 僕は全力で走りながら計算した。あの女性が研究室を出たのは15分前、彼女がまっすぐ帰るとして、駅まで13分。次の電車はまだ着いてないはず。僕の足なら間に合うだろう。

 計算している間も流れていく周りの景色に気を配る。天才博士の血を引く僕が本気になれば、全ての情報は止まって見える。

 キキー…!

 僕は公園の前で自分の両足に急ブレーキをかけた。一瞬だが公園の中にあの女性の姿を見た気がしたのだ。3歩戻って公園の中をのぞくと、やはり彼女がベンチに腰掛けていた。

「あの、晴美さんですよね」

 僕は恥も外聞もなく声をかけた。よく考えたら父の名前は|晴一《はるいち》だ。絶対この人、おばあちゃんだ。

「あなたは…! さっき泥棒猫って!」

「その件はすみませんでした。この時代に流行ってるって聞いて言ってみたかっただけです」

 やば、焦って「この時代」とか言っちゃった。

「何をしに来たの?」

「博士と、照一郎さんと仲直りしてくれませんか?」

「は? 何を言ってるの? あなたが私の目的に気づいて追い出したんでしょう?」

「え、どういうことですか?」

 そっちこそ何を言ってるんだ?

「はあ。もうこうなったから言うけどね。私は博士の研究を横取りしようとして近づいたのよ。博士もきっと勘付いてたわ。ヒューマノイドには決して近づけなかったし。それで口論になってたところに、あなたの『泥棒猫』でしょ」

 そういうことだったのか。何も知らずに僕は博士を助けていたんだ。でも、本当の想いは隠しているはずだ。

「まだ何か、隠してるんじゃないですか?」

 照一郎さんを好きになってしまってるんでしょ?

「なんだ。全部お見通しじゃない。勘弁してよもう」

 女性はカバンの中からTMCモジュールを取り出した。嘘だろ。それこの人が盗んでたの?

 僕はそれを受け取ったが、まだ肝心の用件は済んでいない。

「あの、あなたが博士と結婚してくれないと…」

 もう回りくどいことを言っている暇はない。

「冗談でしょ? 私は惚れてなんかいないわ。博士もハナから私のことなんて相手にしてないわよ」

 んー、博士の趣味じゃないのは僕も知ってる。

「ドラマの見過ぎよ」

 そう言って晴美さんは去って行った。嘘だろ。これじゃ僕は、未来に戻れない。未来に帰る鍵が、失われた…。僕は恐る恐る手袋の中を見た。

 あれ? 素肌が透けてない!? 元に戻ってるぞ!

 どういうことだろう。でもこれで未来に戻れる。僕の存在は否定されないんだ! 僕は急いで研究室に戻った。

「おお、でかした! まさかあの女が盗んでいたとは! これでヒューマノイドは完成するぞ!」

 博士はTMCモジュールを手に取り、自分の息子同然のヒューマノイドに、最後の仕上げを施した。

「君、名前はなんだったかな?」

「え、|晴人《はると》です、けど」

「そうか、じゃあ研究に貢献してくれた君の名前と私の名前から1文字ずつ取って、この子の名前は『晴一』にしよう!」

 え、それって僕の父さんの…。

 TMCモジュールを組み込んだ人類初のヒューマノイドは、僕の父と同じ顔をしていた。

1/10/2025, 12:27:28 AM

 なんとか流星群が地球に近づいていた。星のかけらが地球へと降り注ぐ。人の目には美しい天体現象だが、星のかけらにとっては最期に煌めく一瞬の輝きだ。

 誰かの死に際に願いを捧げるというのは、神や仏に祈るのと同じ風習なのかもしれない。

 流れ星が彗星から剥がれ落ちた星のかけらなら、我々人間もこの地球から生まれた星のかけらだろうか。

 あれはハレー彗星が話題になった頃だったか、その時分に恋仲だった人に

「彗星の別名はほうき星と言ってね、長い光のしっぽを出しながら通り過ぎるだろう? それがほうきの姿に似ているからそう呼ばれているんだ」

 などと高説を垂れたことがある。

「そのほうきの部分は彗星が撒き散らす塵で、流れ星の素なんだよ」

 私は得意になってうんちくを述べた。すると相手は

「ふーん、ほうきなのに塵を集めずに撒き散らすんだ。掃除の時間に遊ぶ悪ガキじゃん」

 と返してきた。

 向こうは変な意図もなく素直な感想を述べたに過ぎないが、私は自分が散らかした能書きを上手く回収された気分になって、屑籠に飛び込みたくなった。


※この物語はフィクションです。事実を元にしたエッセイではありません。

1/9/2025, 12:48:37 AM

 リリリリリリリン・・・!

 電話が鳴っている。スマホではない。部屋の中で、もはや置物とも化石ともなっていた固定電話が音を立てている。出てみればどうせ営業電話か無言電話か謎の外国語かだろう。すべて私宛の着信ではない。でもうるさいから音を止めるために出なければいけない。

 私は書斎を出て電話のあるリビングに向かった。

 ガチャっと受話器をあげると、余韻を残して音が止まる。

「お忙しいところ失礼します。世論調査のお願いです」

 男の声が言った。なんだ結局世論調査じゃないか。やはり私宛の連絡ではなかった。だが電子音声じゃないのは珍しい。男性の肉声だ。

「どういったご質問ですか?」

「実は【えん】についてお聞きしておりまして」

「円? はあ、円安についてですか? 私の商売とは直接関わりはありませんが、ニュースを聞くと困ったものだと…」

 言っている途中で相手が遮った。

「あ、その円ではなくて」

「え? ああ失礼。早とちりでした」

 向こうから勝手にかけてきた電話でなんで私が謝っているんだ。私はイライラして電話機と受話器を繋ぐクルクルの線を指に絡めた。

「えっと、漢字で書くとその円なんですけど、円そのものというか、輪です。輪っか」

「はあ。円ですか。丸い方の。それで?」

 聞いても要領を得ない。どういう質問なんだ?

「円って、なんだと思います?」

「はあ? 円は丸だろう。丸いもの、サークル状のもの」

「具体的には何を思い浮かべますか?」

「車のタイヤ。円だ」

「いいですね。他には?」

「一体何が聞きたいんだ?」

「円と聞いて連想するものです」

「カップやグラスの縁はたいてい円だな」

「そうですね」

「ボール、玉、えーと水晶玉」

「どちらかというと|球《きゅう》ですが、いいでしょう」

 いちいちめんどくさいな。その流れなら

「太陽、月、もちろん地球もか」

「大きく出ましたね。いいですよ」

「リング、そう指輪だ」

 何をさせられているんだ。

「おお、指輪! その通りだ」

 この男の何にヒットしたのかわからない。

「もういいだろう、なんなんだこれは」

「他にも、あなたのご家庭の中に、円はありませんか?」

 私は部屋の中を見渡してみる。

「皿も円だな、缶詰も上から見れば円だ。あとは時計、アナログ時計。ニンジンも輪切りにすれば円だ」

 目に入ったものを言っていく。意外と多いな。

「その調子です。もう少し」

 もう出てこないよ。と思いながら手元にある電話に目をやる。

「ダイヤル…」

 目の前の電話機に目を凝らす。

「はい?」

「ダイヤルの数字に指を入れるところも円だ」

「え、もしかして黒電話使ってます? この令和に?」

「仕方ないだろ。お題がring ringだったんだから。黒電話を使うしかないじゃないか」

「ちょっと何言ってるかわかりません」

 うるさいな。

「あとこの、受話器を繋ぐ線にも円がある」

「あのクルクルになってるやつ? どちらかといえば螺旋では?」

「いちいちうるさいな。リングと螺旋なら同じようなもんだろ」

「鈴木光司のジャパニーズホラー?」

「いいんだよ、そこは掘らないで。じゃなくて、このくるくるも縦に見れば円に見えるだろう」

「いい発想ですね。三次元を二次元にしている」

「もういいだろう」

「じゃあ物体から離れて」

「はあ?」

 物体ではない円? 哲学? 思想?

「輪廻とか? 円環思想?」

「ほら、まだまだ出てくる」

「興味はないが」

「ご家庭にある、そういう、円のような」

 家庭にある? 物ではない円…?

「家庭円満…てこと?」

 なんだこと変な恥ずかしさは。

「ありがとうございます。もう充分でございます」

 コイツ勝手に切り上げたぞ。

「一体なんだったんだ」

「こちらは円と聞いて一番に“幸せ”を連想する人がどれだけいるかの調査でした。残念ながら今回は失敗です」

「じゃあ最初のくだりで終わってたでしょ。大丈夫なんですか? 一個の電話にこれだけ時間かけて。最後、ほとんど【なぞなぞ】でしたし」

「一つだけ聞いて終わりだと失礼ですし、我々もつまらないので」

「じゃあただの暇つぶしじゃないか」

「楽しかったです。ありがとうございました」

 そう言って男は電話を切った。

 まったく、迷惑な着信だ。でも、

「円、リング、球体…」

 少しは頭の体操になったな。

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