「なんで毎回同じミスをするの?」
「いいよ、あとは私がやっとくから」
やってしまった。感じ悪い。余裕がなくなるといつも強い言葉を使ってしまう。こんなつもりじゃないのに。
こうなると仕事場の空気は一気に凍りつく。ここでジョークのひとつも言えればいいんだけど、いま、私が言ったらすべて皮肉なブラックジョークに聞こえる。
仕事ばかりしていると、自分が冷たい人間に思えてくる。実際にそうなんだろう。自分は仕事ができる方だとは思わないけど、できない人が「自分はダメだ」みたいな風にSNSで吐き出すのはイライラする。
上司がキツイ、できる人はいいよ、意識高いねー笑、ジブン三流大学なんで…
知らねーよ! 全部言い訳じゃん。ひとつも笑えないんですけど。
「あー寒いー」
仕事場の空気も冷たかったが、外に出ると一層寒さが増す。
自分が冷たい人間に感じたら、私はいつもお笑いライブに行くと決めている。特定の推しがいるわけでもなく、その日に行って入れそうなライブに当日券で入ることにしている。
「どうもー、始まりました『デタラメライブ』。オープニングMCのマカロニピッツァでーす!」
芸人さんはオープニングから会場を温めて、ネタに入りやすいようにする。私の心もゆっくりと溶けていく。
ネタが始まると、みんな個性あふれる技術で私たち観客を笑わせてくる。自分が選んだ道で、自分が面白いと思ったものを全力で表現する。舞台の上では言い訳もできない。
私は現実を忘れるぐらい笑い転げた。
「やー、ありがとうございました〜」
気づけばもうエンディングの時間になっていた。最初とは別のコンビがMCに立っている。
「なんか、今日のお客さん温かいねー」
やめてよ。温かくしてもらってるのはこっちの方じゃない。
「そうですねー、みなさんこんなに笑っていただいて」
笑いに来たんだから、当たり前じゃない。
「なかなかいないですよ、こんなに笑ってくれるお客さん」
芸人さんはそうやってすぐ持ち上げる。
「ホントに、今日と同じネタでも笑いゼロの時とかあるからね」
そうなのか…。
「少しでも笑い声があると安心する」
ふーん、笑えばいいんだ。笑うと温かいんだ。いいこと聞いたな。
明日から、仕事場でも笑ってみよう。もっと余裕ができたら、みんなを笑わせてみよう。そうすれば少しは温かい人に見えるかもしれない。
1/12/2025, 12:24:03 AM