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7/7/2024, 9:15:31 AM

昔、私が子供だった頃。
一時期だけ遊んでいた友人がいた。
その子は物知りで、そのくせ最近のことは
よく知らない子だった。
だからこそ、初めにその子が未来人なんだと
そっと打ち明けられた時に笑った覚えがある。
その子は色々な未来を語ったけど
全て夢物語じみていて
その子は色々な過去を語ったけど
どれも私達の知る歴史とは違ったから。
何よりその時私達の生きていた
その時代のことを何も当てられなかったから。

その子はいつしか居なくなり
私もやがて大人になった。
夢物語じみた進化を遂げた世界で
間違いの全てが正しく修正された世界で
遠足に行く我が子を見送る。
あの時の子によく似た子供を
これからタイムマシンに乗る子供を。
あの、何一つ正しいモノが無いと証明された
私が子供だった時代の時間へと。

‹友だちの思い出›


今はどうだか知らないが
わたしが子供の頃は
恐竜絶滅の一説に
隕石というのがあった
図鑑の挿絵にあったそれは
大抵昼間の景色に火球の降る
コミカルに見えて相当に
恐ろしいだろう光景で

でもあるいは
そうあるいは
それが夜の景色だったなら
もしかすると
それはたいそう美しい
流星雨に見蕩れて絶命できたのかもと

‹星空›

7/5/2024, 10:25:49 AM

私の友達はかみさまみたいだった
何でも知っていて何でも教えてくれた
「ちょっと長生きしているだけだよ」と
私と同じ目線で頬をかいていた
私はその子が大好きで
村の人達もきっと皆大好きだった

ある日その子は言っていた
「分からないことだってあるんだよ」と
何が分からないのと聞けば
「秘密なんだよ」と
困って笑っていた

ある日その子は言っていた
「今晩は決して誰も外に出てはいけないよ」
その子はいつも正しかったから
みんな暗くなる前に家に帰って
固く固く鍵をした
また明日と手を振ったら
その子は静かに頭を下げていた

そうしてその村は滅んだ
とある落胤の潜んでいたその村は
誰も彼も家の中で
家族とともに焼かれ死んだ

それを見ていた

事実を知ったあちらの家と
知って焼いたあちらの家が争い
やがて諸々巻き込んで
平和に統一された国になる

その途中経過となる景色を見ていた

私が目に掛けた者は安楽の地へ行け
やがては平和な国に幸せに生まれ変わる
知っている
全て知っている
それでも遠く濁る悲鳴に耳を塞ぎたかった
「本当に正しかったのかな」
涙は出ない
未来を導くのに不要な機能は無い
それでも泣きたかった
今すぐに村へ駆け火を消して参りたかった
「あの子たち、今だって幸せだったのに」

‹神様だけが知っている›




舗装された道を歩いていた
とても歩きやすい道だった
真っ直ぐな道に果てはなく
景色は種々の葉に覆われていた

葉には時々茨が混じり
ともすれば腕を撫で
悪戯に道を這う
けれども道は広く
前をきちりと見て歩けば
いかにも傷は浅く
痛みもすぐに忘れる

時々葉々の隙間から
鮮やかな色が見える
それは例えば甘く香る花であり
例えば燦然と輝く星であった
美しいそれらは道を逸れるよう誘い
けれども踏み出す勇気はなく
遠くなるそれをただ見送った

ある時
ある時それは目を引いた
惹きつけ焼き付け虜にした
あまりにあまりに鮮やかな
その色はあまりに美しい

揺れた身体を茨が撫で
私は初めて躊躇した

このまま道を歩いていけば
色に裂かれた心が痛む
けれども道を外れれば
茨に裂かれて体が痛む
そも色の下に辿り着けるかも
その後この道に戻れるかも
或いは色の先へ道を作れるかも
全て全て分からない

足は進む勝手に進む
自ら動かねば道に沿う
躊躇い悩み前を見横を見
悩んで悩んで悩んで
私は

‹この道の先に›

7/4/2024, 10:04:09 AM

「……いい曲よね。好きよ、その歌」
「うん、うん…でもね、私、そうならなくても
 良いと思うの」
「例えば、私の見ている空の『青』が、
 君にとっての『赤』かもしれない」
「例えば、君の見ている月の『白』が、
 私にとっての『緑』かもしれない」
「その時、互いの色を押し付けて
 世界を一つにしようとするよりも」
「そういう視界もあるんだって、
 否定も肯定もなくただ其処で終わるみたいに」
「無理に受け入れなくても、
 君や誰かが変わらなくても良いから」
「いろんな世界があるというただそれだけを」
「知っているだけでいいと」
「その方が、世界は平和になると思うの」

‹日差し›

7/1/2024, 10:52:04 PM

壁の向こうにはきっと、
見たこともない景色があって
例えば遥か遠く満ちる水面のような
静かで美しい光景があると
その子は本を抱いていた
色鉛筆の絵本を抱いていた

その人はその夢を哀れんで
白い壁に窓枠をつけた
遥か遠く満ちる水面
凪いだ海の写真を貼った

善行を成したとその人は言った
窓枠を見上げるその子の後ろで
良いことをしたと胸を張った

その子を閉じ込めモルモットにした
お前が言えることではあるまいに

‹窓越しに見えるのは›


指切りげんまん
嘘ついたら
針千本
拳骨万回
小指を切って
それでも繫ぐ赤い色
小指同士繫ぐ
赤い血の橋

‹赤い糸›


遠く遠く伸びる一本道
果ての新緑より尚高く
白く聳る嵐の巨塔

そんな夢を見る僕達の
空は酷く遠く狭い

‹入道雲›

6/29/2024, 9:32:05 AM

音が聞こえる

セミの鳴き声
草葉のざわめき
気化する打ち水
軽やかな風鈴
喚く室外機
賑やかな歓声
滴る汗
封切られたボトル

音が聞こえる
生命賛歌の音
命限りに叫ぶ音

あるいはこの季節を
超えられぬ音がする

‹夏›


家の扉を開けたら冒険の始まりで
魔王になって倒されたかと思ったら
王城で勇者の誉れを受けた
小さな隙間には四つ足の猫になって
伝説を確かめに空駆ける龍になる
穴に落ちたら学校の帰り道
一人の筈がナニカに追われ
車の下に隠れ逃げたら
オープンカーで海風を受けた
てんでバラバラめちゃくちゃで
怖くてびっくりすることもたくさんで

目を開けたら全部砂絵のスクリーン
脳味噌は現世をなんだと思ってるんだか

‹ここではないどこか›

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