朝日に金を帯びた切先が、真直ぐに振り下ろされる。
一時は危篤を叫ばれながら、五体満足で復活して見せた彼。戦神だと崇める民衆と、太陽だと沸き上がる兵士達と、私は果たして同じ色の瞳で見ることが出来ていただろうか。
綺羅綺羅しい演説も、勇敢さを彩る顔の傷も、彼らにとっては強靭の証明でしか無いのだろう。
次が必ず勝利の時だと、張られた低い声。そうだ、そうだろう。私は知っている。
呑み込むような歓声は、其処に滴る痛みの色を知りもしないが。
星が死ねば何となる。砕け消えぬ程の巨星であれば。
民を導く大きく光輝く星であれば。
ーーー其処に残る絶望は、彼の餞に足りもしない。
<たった一つの希望>
君と出会い
君の事を知った
君と目が合い
君と話した
君と同じ趣味で
君と共に出掛けて
君と食事をして
君と温もりを分けあった
君と、君と沢山の時間を過ごした
それでも、もっともっとずっと一緒に居たかった
<欲望>
銀の薄野を歩き
美しい竜胆を愛で
金剛石の河を渡り
火を灯す水晶を拾う
薔薇の香りに包まれて
甘い林檎を口にする
天蚕絨の二人席で肩を預けて
沢山の鳥や魚の音を聞きながら
広く暗くあまりに眩い世界を
「君と、綺麗なものが見たかっただけなんだよ」
薄墨で書かれた招待状
黒と白、煙たい花ばかりが美しく
君の最後の式のため
騒がしく人の多い駅を降りた
<列車に乗って>
ぱっと伸ばされた手は、漂っていた花弁を取っていた。
「藍色だ、珍しいね」
「違うよ、ここら辺じゃそれが普通の色」
「そっかぁ」
くるり陽に透かして遊ぶ指先、その繊細によく似合う。
空気に満ちる透き通るような甘い香り。
ふわふわと栗色の髪をかき混ぜた風は、僅か刺激の有る個性の強い甘さを引いた。
周囲の視線が何処に有るか、よくよく理解しきって口を開く。
「気に入ったなら、ソレに替える?」
「好きだね、その質問」
蒼の花、翠の花、黄の花、橙の花、辿った軌跡全て。
そして膨らんだ頬までがお決まりの。
「君がくれたからコレが良いの」
爛々と咲き誇る、紅の花弁を飾って。
どの花よりも華やかに、美しい光が笑っていた。
<遠くの街へ>
彼女はいつも真面目だった。
泣き言を言いつつも
魂が口から出ていようとも
どれほど遅くても、期限までには
必ず終わらせる人であった。
「だって、どんなに待ったって
私がやらなきゃ終わらないのよ」
「後回しにして後で詰むより
ゆっくりでも進んで
すっきり終わって休む方が
すごく気楽なのよ」
「まあでも」
かつん、とペンが手帳を叩く。
「見てわかる通り、しない訳じゃないわ」
急ぎの用件と、そうでもない課題の並んだ画面に、
書き散らされたメモ用紙と、丁寧な私物の手帳。
机の上の優先順位はばらばらぐちゃぐちゃで、
効率も何もあったものじゃない。
「結局皆、終わり良ければすべて良し。だからね」
<現実逃避>
GPSにカメラに盗聴機
別に良いよと彼女は言った
「私、お店は一人で回りたいの」
その代わりにね、と彼女は言った
「貴方も同じにしようね?」
GPSにカメラに盗聴機
一秒も一歩もズレを許されない生活を
「だって、貴方は私に求めたよ?」
<君は今>
とろりとろり薄灰のクリーム
刺したナイフはじっとり重く
かろうじて火の通った生地
ドライフルーツで誤魔化して
初めてには上出来で
美味しいとは言えず
一人分には大き過ぎるケーキ
椅子には埃が積もるまま
<物憂げな空>