Open App
2/24/2024, 2:04:26 PM

動物の子供
人間の赤子
成体の小動物
群れる虫けら

『でも君達は わたしたちを
 ソレに数えてはくれないね』

手の中で押し潰された
名も知らぬ雑草の蕾

受粉を終えて
成熟を待つのみだった種子

嘯くような風と共に
綿毛が遠く旅立ち行く

<小さな命>

2/23/2024, 11:30:05 PM

ありがとうと言うと
ごめんねと返ってきた

大切にすると言うと
馬鹿だなあと返ってきた

好きだよと言うと
同じだねと返ってきた

忘れないよと言うと
思い出にしてと返された

いつまでもと言うと
死ぬ迄で良いと返された

毎夏君に会いに行く
墓石は何も応えないけど

<Love you>


向日葵、という言葉が並ぶ中に、
一人だけ、違う花の名を上げた子がいた。
「向日葵はお日様に向かって咲くのよ。
 それじゃあ別個体じゃない」
成る程、そういう考え方も有ろう。
とはいえ、その子の上げた名前も、
星空ならまだしも、連想は付きにくい。
「そう?直視出来るのなんて、
 木漏れ日くらいじゃないかしら」
常緑の隙間を埋め香り立つ金銀。
はらはらと落ちる小花。
やわらかな秋の日差しに、
確かによく似ていたのかもしれない。

<太陽のような>

2/22/2024, 11:32:31 AM

 中古ショップを覗いていた時のことだ。
 ふと、一つのゲームソフトが目に留まった。
 昔、何人かの友人が楽しんでいたシリーズだったと思い、当時は小遣いが届かなかったことも思い出せば、今となっては大したことの無い値札を付けたままレジへ向かった。
 家に帰り、押入れ奥から引っ張り出したゲーム機本体は、多少埃を被っていたが問題なく起動する。
 最初は多少のキャラメイクがあっただろうか、相棒はどのキャラにしようか、年甲斐なくわくわくしながらオープニングを見遣ると、『続きから』の文字が目に入った。
 どうやら前の持ち主は初期化せずに売りに出したらしい。『はじめから』にカーソルを移動させ、いやいや待てよと思う。どうせなら、前の人の冒険を少し覗いてみたい、と興味が湧いたのだ。

『久しぶり』
『待っていたよ』
『どうしたんだい、そんな顔をして』

「……ああ、そういうことか」

見覚えの有るキャラクター、の多分しないだろう顔。
郷愁を誘うドットの景色、が奥で崩れている。
きっと考えてつけた筈の名前、が途中で文字化けし。
多種多様な道具、はどれもカウントストップ。

登場しない筈のキャラクターと共に一通り巡って、電源を落とす。

チートに歪まされた世界は恐ろしく物悲しい。
瞬きほどの沈黙を黙祷の代わりに、
今度こそ新しい世界の構築を選択した。

<0からの>

2/20/2024, 2:12:15 PM

健やかなる日も病める日も
苦しい日も楽しい日も
辛く悲しい日も光溢れる希望の日も
その全て側で見届けられるなら

共感も相談も改善も出来ないけれど
ただ話を聞くことくらいは出来るから
時にはちょっと苛められることもあるけど
大体は強く抱き締めてくれるなら

その苦楽を少しだけ
喜怒哀楽を少しだけ
君の夢の代わりに貰っていこう
その不安を少しだけ
情緒不安定を少しだけ
君の薬の代わりに貰っていこう

抱き締め返すことも励ますことも出来ないけど
紛い物の真似事の心かもしれないけど
おんなじ気持ちだって肯定できたなら
子供の時と同じように
名前を呼んで笑っていてほしい 

<同情>



赤に黄に茶に鮮やかに色づき、
散る様も敷き詰められる様も美しく、
踏み歩けば高らかに歌い、
集め燃せば一時の暖、

「死んでも役に立つなんて良いよね
 汚いだけの人間とは大違いだ。」

身体の部品は誰かの不良とすげ替え、
血も髪も誰かの不足を補い、 
土にも海にも空にも帰らず、
胸元に輝く小さな石、

無為を有為にする最大限、

「でも、これでよかった?」

この身一つきりの墓守り
死者に果たして口はなく。

<枯葉>

2/18/2024, 1:19:03 PM

銀砂を一面に散らしていた黒は、
やがて薄く青を帯び、
柔らかく光を帯びる白を経て、
日が上る時には赤橙を染める。

或いは、
灰白を点々と散らす青が、
端から強い赤に飲み込まれ、
緩やかな紫を緩衝に、
とぷりと黒に移ろい行く。

昨日と今日の境は見えず、
今日と明日の境も触れられない。

それでもどうして、
一昨日まで在った筈のモノは、
明後日には此処に存在しない。

<今日にさよなら>



 薄黄色の毛布が無いと眠れない子だったという。
 大きくなるにつれてサイズが合わなくなり、
蓄積した汚れが落ち切らず酷い有り様になったけど、
それでも毛布が無いと泣き喚いたそうで、
ある時それは縫いぐるみへと加工された。
 小学校位までは抱いて、大きくなる頃には枕元へ押し遣られた。
 それでも、他の縫いぐるみや玩具とは異なり、
手放すことだけはしなかった。
 やがて大学に進学し、一人暮らしを始めた際も、
唯一その縫いぐるみだけは実家から持ち出した。
 相変わらずねぇと笑う両親に、曖昧に微笑み返す。
 なにか特別好きだった訳じゃない。手触りも、デザインも、もしこれがお店に並んでいたとて私は通り過ぎたろう。
 ただ生まれた時から側に居たモノは、既にほぼコレだけだと思えば、捨てるのも手放すのも惜しかった。
 他に欲しがる人が居るでもない、多分、棺まで連れていくだろう。私の、人生の見届け者として。

<お気に入り>

Next