銀砂を一面に散らしていた黒は、
やがて薄く青を帯び、
柔らかく光を帯びる白を経て、
日が上る時には赤橙を染める。
或いは、
灰白を点々と散らす青が、
端から強い赤に飲み込まれ、
緩やかな紫を緩衝に、
とぷりと黒に移ろい行く。
昨日と今日の境は見えず、
今日と明日の境も触れられない。
それでもどうして、
一昨日まで在った筈のモノは、
明後日には此処に存在しない。
<今日にさよなら>
薄黄色の毛布が無いと眠れない子だったという。
大きくなるにつれてサイズが合わなくなり、
蓄積した汚れが落ち切らず酷い有り様になったけど、
それでも毛布が無いと泣き喚いたそうで、
ある時それは縫いぐるみへと加工された。
小学校位までは抱いて、大きくなる頃には枕元へ押し遣られた。
それでも、他の縫いぐるみや玩具とは異なり、
手放すことだけはしなかった。
やがて大学に進学し、一人暮らしを始めた際も、
唯一その縫いぐるみだけは実家から持ち出した。
相変わらずねぇと笑う両親に、曖昧に微笑み返す。
なにか特別好きだった訳じゃない。手触りも、デザインも、もしこれがお店に並んでいたとて私は通り過ぎたろう。
ただ生まれた時から側に居たモノは、既にほぼコレだけだと思えば、捨てるのも手放すのも惜しかった。
他に欲しがる人が居るでもない、多分、棺まで連れていくだろう。私の、人生の見届け者として。
<お気に入り>
2/18/2024, 1:19:03 PM