「世界に一つだけ」と聞いて思いつくことは何だろうか。世界に一つの称号?珍しい能力?そんな問い掛けがなんとなく苦手だ。そもそも「世界」にこだわる必要もないし、わざわざそれを聞く必要もないと思う。そんなことを友達に言ったことがある。それを言ったら、
「捻くれてんねぇ相変わらず。」
と言われた。そんなこと言われなくても分かっている。俺は捻くれていて、周りと違うのも自分が一番分かっている。思春期の多感な時期だからといって女子の一挙手一投足が気になる訳でもない。別に女子が嫌いとかそういうことでもない。自分でもこの性格はめんどくさいと思っている。俺が女子なら俺のようなめんどくさい男とは話したくないし関わりたくもないだろう。だから友達が少ない。唯一話せる女子は幼なじみで、小中高と同じだからこのままラブコメ展開に!?ということもないだろう。俺と対照的に明るくて活発という訳ではないが周りと馴染めていて羨ましいとは思う。
「自分から話しかけないから馴染めないんじゃないの?」
「分かってるよ。それが出来たら苦労しないし友達くらい出来てるよ。」
「でもこういう慎重で周りと少しずつ話せるようになっただけでも進歩じゃないかな?」
そうだろうか。もしこれが俺の「世界に一つだけ」の才能なら、これはこれで有りかな…と思った。
<世界に一つだけ」
一緒にいるだけで安心する。柔らかくてモチモチしていて温かくていい香りがする。私よりも年上でおじさんだけど、シフトが被る度に私は年甲斐もなくただあなたと一緒に仕事をしている、という事実に胸が歳を重ねる毎に高鳴り、もっとあなたの声を聞きたくなります。怒られてばかりで呆れている部分もあるかもしれないけれどね。それでも私は何年経ってもずっとあなたの事が好きです。
<胸の鼓動>
文章を考えるのが好きだ。私が考えた言葉が、表現が、登場人物が私が書いた言葉で踊っている。一人でいることが多かったから、余計に本の世界にのめり込んだ。思えば、空想する事が日常的だったかもしれない。人を観察したり、読み終えた本の続きを考えたりする事が好きだった。周りからは、
「変わっている。」
とか、
「もっと皆と遊ぼうよ。」
とか声をかけられたりもしたが、私には本があった。たくさんの登場人物が友達だった。だから私は小説家になった。私が生み出した私だけの言葉で私にしか出来ない表現で、私を著した。本が大好きで、お話を考えるのが好きで、一人でその世界に浸れる瞬間が堪らなく愛おしい。
だから私は今日も大好きな時間に浸るために、画面の上を踊るように文章を書き込んでいる。
柱時計が嫌いだ。時を告げる規則的で偉そうな音と、文字盤を駆ける小さくも耳障りなチクタク音。だから、柱時計が置いてある祖母の家が苦手だった。定期的にまき直さなければいけない時計。時を告げる大きな音。泊まりに行くと必ず時計のある廊下を通らないように遠回りでトイレに行っていた覚えがある。自分の身長よりも大きな柱時計。見上げる度に目眩を起こしそうになる。祖母の話によると、この柱時計は亡くなった祖父が結婚記念日に買ってくれた大切な物なのだとか。
「時間の音が鳴るとね、おじいちゃんがいつでもそばにいてくれるって思えるのよ。」
なんて祖母は言って笑っていたが、私は柱時計が怖いと泣きながら訴えた事がある。幼い私は祖母にあやされながら、顔を知らない祖父の話を聞かされた。私が産まれる前に亡くなった事、若い頃の祖父はとてもかっこよかった事、力持ちで柱時計を一人で運んだ事等、たくさんの話を聞かせてくれた。そんな祖母が亡くなったのは私が中学生の頃だった。幼い頃よりも身長が伸び、柱時計に手が届くようになった私は、時計の上に手紙があることを見つけた。両親にそれを見せると、居間で箱を開けた。中身は今まで祖父が送っていたであろうラブレターがたくさん入っていた。日付は70年も前だった。祖母が亡くなってから、家族はあの廊下にある柱時計をどうするか話し合っていた。処分するにも重たく、かといって譲るにしても置くスペースが無い。迷った挙げ句、結局私の家で引き取る事にした。
苦手な柱時計は私が大人になった今も新しい時を告げながら大きな出で立ちで生活を見守っている。
昔よりは平気になったが、やっぱり私は柱時計が苦手である。
<時を告げる>
人と話すのが苦手だった。この声のせいで、よく馬鹿にされていたから。
ー男なのに声は女みたいなんだな。
そういわれたから僕は口を開かない貝殻のようにつぐむしかなかった。マスクをして、誰とも話さないようにしていたら周りから人が消えた。誰とも話さない、誰にも心を開かない。いつの間にか人との付き合い方を忘れたまま大人になった。声変わりの時期になっても僕の声は女のように高いままであった。家族はこんな声でも素敵だといってはくれたが、内心気持ち悪いと思っているに違いない。僕の目を見ないで話すからだ。唯一こんな声を褒めてくれた友達がいた。
ー安心する優しい声だね。
その友達とだけはよく話すようになったが、今は何をしているんだろう。僕の嫌いな僕の声。貝殻のように閉じた心と口をゆっくりと開かせてくれた僕の唯一の友達。
<貝殻>