ゆらゆらと風にそよぐカーテンが幼い頃を思わせる。カーテンを頭にのせては「花嫁さんごっこ」をしていたあの日。両親に連れられて行った親戚の結婚式で見たキレイな真っ白い花嫁は、私の憧れだった。風にそよぐレースとドレスの美しさに見とれた私は今も同じ景色が見たくてウェディングプランナーになった。
不幸というものは意図せず重なるものだ。飼っていた猫が今朝方死んだ。遠方に済む叔母が怪我をして入院した。勤務先からいきなり解雇された。特に何かしらやらかした覚えがないのに、俺と俺の周りは不幸の連続だ。別に不幸自慢をしたいんじゃない。聞いて欲しいだけだ。毎日何かしらの不幸が俺に起きているということを。
「お前、お祓いとか行ってみたら?」
友人はそういうが、お祓いをしてもらったところでどうこうなる問題ではないだろう。もしお祓いをしてもらってこの不幸がなくなるなら、俺は人並みの人生を歩めているだろう。なにが原因でここまで俺がこんな厄介でめんどくさい不幸に見舞われなければいけないのか、昔俺はなにをやらかしてしまったのだろう。同情するように空が泣いている。そういえば傘を持って来るのを忘れて出掛けてしまったようだ。
ーもう今日はこのまま濡れて帰ってしまおう。
<空が泣く>
夜明け前が好きだ。新聞配達のバイクが走り去る音、ガタガタ住宅のシャッターが開く音、カラスやスズメが鳴き始める時間。そんな時間になると、温もりを求めて飼っている猫が布団に潜り込む。たまに窓から見える夜明け前の空模様は気まぐれで、朝焼け色であったり、まだ夜をふくんでいたり、くもっていたり、太陽が笑っている。家の中はシンと静まっていて、台所の冷蔵庫のブーンというモーター音が聞こえる。私はそんな色んな音や色んな色を聞いたり、見たりして柔らかい猫の毛並みを楽しみながらゆっくりとまた、眠り夢の続きを見に行くのだ。
私が過ごす、最高の休日の朝である。
<夜明け前>
年甲斐もなく、貴女に恋をした。私が受け持つ学部の、少し幸の薄い黒くて長い三つ編みの可愛らしい貴女。自分ではそんなことないですと言っているけれど、私にはとてもそれが愛しく思う。勉学に励む姿勢や、私と話す時の無邪気な表情が、恥じらう頬に差す明るい朱色。その全てが私には新鮮で愛らしい。
「君塚先生、好きです。」
その言葉の美しさたるや。
嗚呼、私は貴女に年甲斐もなく夢中になってしまった。
<本気の恋>
「世界に一つだけ」と聞いて思いつくことは何だろうか。世界に一つの称号?珍しい能力?そんな問い掛けがなんとなく苦手だ。そもそも「世界」にこだわる必要もないし、わざわざそれを聞く必要もないと思う。そんなことを友達に言ったことがある。それを言ったら、
「捻くれてんねぇ相変わらず。」
と言われた。そんなこと言われなくても分かっている。俺は捻くれていて、周りと違うのも自分が一番分かっている。思春期の多感な時期だからといって女子の一挙手一投足が気になる訳でもない。別に女子が嫌いとかそういうことでもない。自分でもこの性格はめんどくさいと思っている。俺が女子なら俺のようなめんどくさい男とは話したくないし関わりたくもないだろう。だから友達が少ない。唯一話せる女子は幼なじみで、小中高と同じだからこのままラブコメ展開に!?ということもないだろう。俺と対照的に明るくて活発という訳ではないが周りと馴染めていて羨ましいとは思う。
「自分から話しかけないから馴染めないんじゃないの?」
「分かってるよ。それが出来たら苦労しないし友達くらい出来てるよ。」
「でもこういう慎重で周りと少しずつ話せるようになっただけでも進歩じゃないかな?」
そうだろうか。もしこれが俺の「世界に一つだけ」の才能なら、これはこれで有りかな…と思った。
<世界に一つだけ」