アヤメ所長

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6/4/2025, 5:37:34 AM

約束だ、とあの人が言った。一人前の色彩術師としてまた会おうと。師匠が宮廷芸術師として召し抱えられてから私は一人色彩と感情を読み取る修行をしていた。師匠のように世界に色を飾り、感情を汲み上げる優しい色彩術師として。

10/11/2022, 11:13:49 AM

ゆらゆらと風にそよぐカーテンが幼い頃を思わせる。カーテンを頭にのせては「花嫁さんごっこ」をしていたあの日。両親に連れられて行った親戚の結婚式で見たキレイな真っ白い花嫁は、私の憧れだった。風にそよぐレースとドレスの美しさに見とれた私は今も同じ景色が見たくてウェディングプランナーになった。

9/17/2022, 3:04:58 AM

不幸というものは意図せず重なるものだ。飼っていた猫が今朝方死んだ。遠方に済む叔母が怪我をして入院した。勤務先からいきなり解雇された。特に何かしらやらかした覚えがないのに、俺と俺の周りは不幸の連続だ。別に不幸自慢をしたいんじゃない。聞いて欲しいだけだ。毎日何かしらの不幸が俺に起きているということを。

「お前、お祓いとか行ってみたら?」

友人はそういうが、お祓いをしてもらったところでどうこうなる問題ではないだろう。もしお祓いをしてもらってこの不幸がなくなるなら、俺は人並みの人生を歩めているだろう。なにが原因でここまで俺がこんな厄介でめんどくさい不幸に見舞われなければいけないのか、昔俺はなにをやらかしてしまったのだろう。同情するように空が泣いている。そういえば傘を持って来るのを忘れて出掛けてしまったようだ。

ーもう今日はこのまま濡れて帰ってしまおう。




<空が泣く>

9/13/2022, 4:05:55 PM

夜明け前が好きだ。新聞配達のバイクが走り去る音、ガタガタ住宅のシャッターが開く音、カラスやスズメが鳴き始める時間。そんな時間になると、温もりを求めて飼っている猫が布団に潜り込む。たまに窓から見える夜明け前の空模様は気まぐれで、朝焼け色であったり、まだ夜をふくんでいたり、くもっていたり、太陽が笑っている。家の中はシンと静まっていて、台所の冷蔵庫のブーンというモーター音が聞こえる。私はそんな色んな音や色んな色を聞いたり、見たりして柔らかい猫の毛並みを楽しみながらゆっくりとまた、眠り夢の続きを見に行くのだ。

私が過ごす、最高の休日の朝である。



<夜明け前>

9/12/2022, 5:49:01 PM

年甲斐もなく、貴女に恋をした。私が受け持つ学部の、少し幸の薄い黒くて長い三つ編みの可愛らしい貴女。自分ではそんなことないですと言っているけれど、私にはとてもそれが愛しく思う。勉学に励む姿勢や、私と話す時の無邪気な表情が、恥じらう頬に差す明るい朱色。その全てが私には新鮮で愛らしい。

「君塚先生、好きです。」

その言葉の美しさたるや。

嗚呼、私は貴女に年甲斐もなく夢中になってしまった。



<本気の恋>

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