アヤメ所長

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人と話すのが苦手だった。この声のせいで、よく馬鹿にされていたから。

ー男なのに声は女みたいなんだな。

そういわれたから僕は口を開かない貝殻のようにつぐむしかなかった。マスクをして、誰とも話さないようにしていたら周りから人が消えた。誰とも話さない、誰にも心を開かない。いつの間にか人との付き合い方を忘れたまま大人になった。声変わりの時期になっても僕の声は女のように高いままであった。家族はこんな声でも素敵だといってはくれたが、内心気持ち悪いと思っているに違いない。僕の目を見ないで話すからだ。唯一こんな声を褒めてくれた友達がいた。

ー安心する優しい声だね。

その友達とだけはよく話すようになったが、今は何をしているんだろう。僕の嫌いな僕の声。貝殻のように閉じた心と口をゆっくりと開かせてくれた僕の唯一の友達。


<貝殻>

9/6/2022, 4:54:19 AM