柱時計が嫌いだ。時を告げる規則的で偉そうな音と、文字盤を駆ける小さくも耳障りなチクタク音。だから、柱時計が置いてある祖母の家が苦手だった。定期的にまき直さなければいけない時計。時を告げる大きな音。泊まりに行くと必ず時計のある廊下を通らないように遠回りでトイレに行っていた覚えがある。自分の身長よりも大きな柱時計。見上げる度に目眩を起こしそうになる。祖母の話によると、この柱時計は亡くなった祖父が結婚記念日に買ってくれた大切な物なのだとか。
「時間の音が鳴るとね、おじいちゃんがいつでもそばにいてくれるって思えるのよ。」
なんて祖母は言って笑っていたが、私は柱時計が怖いと泣きながら訴えた事がある。幼い私は祖母にあやされながら、顔を知らない祖父の話を聞かされた。私が産まれる前に亡くなった事、若い頃の祖父はとてもかっこよかった事、力持ちで柱時計を一人で運んだ事等、たくさんの話を聞かせてくれた。そんな祖母が亡くなったのは私が中学生の頃だった。幼い頃よりも身長が伸び、柱時計に手が届くようになった私は、時計の上に手紙があることを見つけた。両親にそれを見せると、居間で箱を開けた。中身は今まで祖父が送っていたであろうラブレターがたくさん入っていた。日付は70年も前だった。祖母が亡くなってから、家族はあの廊下にある柱時計をどうするか話し合っていた。処分するにも重たく、かといって譲るにしても置くスペースが無い。迷った挙げ句、結局私の家で引き取る事にした。
苦手な柱時計は私が大人になった今も新しい時を告げながら大きな出で立ちで生活を見守っている。
昔よりは平気になったが、やっぱり私は柱時計が苦手である。
<時を告げる>
9/6/2022, 12:31:16 PM