月凪あゆむ

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4/27/2024, 4:38:43 AM

善悪

 世の中、それが「善悪」のどちらかなんて分からないことばっかりだ。

例えば「励まし」
 ある頃までは、「勝つことこそ正義」、とか「負けるな」、「上(前)を向け」なんて考えのもとに、歌でもなんでも、いわば「強い」ものが良いというのが多かった。
 
それが悪いわけではない。決して。

今は、「負けてもいいんだ」、「無理に前を向くことない」、「急がなくていい」
なんて考え方も、それなりに一般的になっている。

 なぜ、そんな対極の考えがあるのか。
 私が考えるに、一つ。

「時代」、「お国柄」
 これが、とても関係していると思う。
 
 日本人がごみ拾いする姿を、外国人が見て
「さすが日本人! マナーが良い」
と、思われることもあるだろう。
 でも、どこかの公園のごみ箱には、空き缶も、たばこの吸いがらも、コンビニの弁当も、無造作に詰められている。
 そしてそれを、一定の期間で掃除する人がいるのも事実。

 「みんな」がそうではないし、そうでなくてはいけないともない。でも。
 「善悪」とは、単純なようで、とても複雑だと、私は思う。

4/26/2024, 3:37:07 AM

流れ星に願いを

おばあちゃんは、よく言ってた。
「流れ星に願いを託すとね、きっとその人には、幸福が訪れるんだよ」

 嘘ばっかり。

だって、私は「お父さん」を知らない。お母さんも、病気で、もう長くないって。

お母さんの病気を治して
お父さんがほしい

 私の、昔からの願い。でも叶ってなんていない。
 それにまた、願いごとが増えた。

おばあちゃんを生き返らして

 これも、叶うわけはない。わかってる。私も、子どもじゃないんだから。

 私たちは、生きている。
 星は、ずっと、ずぅっと遠い存在で、なにもしてはくれない。

私に幸福が訪れなくてもいい。
お父さんには、会わないほうがきっといい。
お母さんの、残りの時間は、一緒にいたい。

おばあちゃんは、こうも言ってた。
「あなたは、周りのことよりも、自分の幸せをちゃんと考えたらいいの。あなたは、もっとわがままを出していいんだよ」

 その声を思いだしながら、夜空を見上げて、驚く。

 ――流れ星だ。

 でも。もう願わない。
 私はちゃんと、自分の足で生きていくんだ。
 だから。

 ――悲しいって、言っていいんだよね? おばあちゃん。

4/22/2024, 3:59:13 AM



 今日、私は飛び降りをした。
 頭が痛い。リストラに、子どもの死。もう、嫌になった。
 うっすらと思う。
(二階からの飛び降りでも、人って死ねるんだなあ、あっけないもんだ)

 もう、疲れた。


 ぽた、ぽた。ぽた。頬に水滴が落ちる。
(雨、か)
 最初はそう思った。でもなにか違う。
(……? なんだ? 冷たくないし、雨にしてはあまり降ってこない)

 ゆっくりと眼を開けた。

「……! ……っ!!」
 それは、妻だった。
 苦しげに、妻の涙が自分の頬に落ちる。
 なんで、そんな顔するんだろうか。

 ……もしかしたら、でもなく。
 ――そうか。
 苦しいのは、なにも自分だけなわけはないんだ。
 自分のリストラに、妻は泣かなかった。騒がなかった。
 子どもの死に、私は泣けなかった。

 ああ、どうして。
「すまな……った……」

「すまないと思うなら、……生きてよ、この大馬鹿もの! 私をひとりにして、そのままあの子のところへ逝くなんて、許さないんですからね……!!」

妻の涙には、心を苦しくさせる作用がある、不思議だ。


そうして自分は、まだ「今」も、子どものところには逝かず、妻とともに歩いているのは、どんな奇跡なのか。

4/7/2024, 9:48:30 PM

沈む夕日

「よーし、お前ら! あの夕日に向かって走るぞー!」

 教え子たちと、夕日に向かって走る。教師になったら、一度はやってみたかったことの一つだ。

「えー」
「はあ?」
「またかよ、センセの無茶振り……」
「ドラマの見すぎだろ」
 とは言いつつ、なんだかんだのってくれるのが、こいつらの良いところだ。

しかし。忘れていた。「若い」とはなんたるかを。
 それは、数分もしないうちに。


「センセー? はやくー!」
「言い出しっぺが、一番遅いじゃんかー」
「ぜぇ、はぁ、……ぜぇ……。お前ら、速いなあ……!」
「陸上部なら、当然っしょ」
「吹奏楽部も、よく体力づくりに走りますし」
「サッカーは、速さがなんぼだろ」
 そう。彼らはみんな、日頃から鍛えているのだ。
 それに比べて、自分は37歳の、ややわがままボディ。
 かなうはずはなかった。

 そんなもので。夕日が沈むまでには、とてもじゃないがもう走れなかった。ありがたくも解散だ。


 とはいえ。数分だが、やってみたいことの一つが叶ったのだ。
 生徒に置いていかれながらだが、まんざらでもない気分で、沈む夕日を見つめる。
 残り21コの「やってみたいこと」も、また今度トライだ。
 まだ、自分は頑張れる!

4/5/2024, 11:04:35 AM

星空の下で

 そこには、確かに一軒の家があった。暮らしていた家族は父、母、兄、姉、弟。
 姉弟はなにかと喧嘩が多く、それをなだめるのは決まって兄で。
 両親は呆れつつも、穏やかな眼差しでその一連のやり取りを見守っている。

 ――なんの変哲もない、ただの一家だった。その時までは。



 ある年の初め、強烈な災害の多い春だった。天候の荒い日が何日も続いた。
 そんな、春の嵐の日、雷がその家に落ちたのだ。

 生存したのは、その日たまたま、友人宅に泊まっていた弟だけ。

 【これ】が、彼の生い立ちだ。
 周りは、腫れ物に触れるような扱いをしてくる。それこそ特に、大人たちは。


 たくさん、想いを馳せる。
「姉さんとは、前の日は喧嘩しかしてなくて、仲直りもまだだったのに」
「兄さんに勉強教えてもらうの、けっきょく一度もなかったじゃないか」
「もう、母さんの焦げたオムレツ、食べれないんだな」
「父さんの、タバコ臭い匂い、きっとそのうち思い出せなくなる」


――でも。
「あの日、自分も家にいたら」
とは、思いたくなかった。だって。そう考えてしまったら。
 親友との語らいが、悪かったようになってしまう。それは、ダメだ。
 だって。
 自分の誕生日に、大切な友達が死んだ、なんて。相当な悪夢以外のなにものでもない。

 だから、彼は今日。春休みの星空の下で。親友の誕生日に。友の家で家族の弔いをする。燃えてしまった家に想いを馳せながら。

 そしてあの日から。何度だって立ち上がらせてくれた唯一無二の親友の誕生を、こうして毎年、祝うのだ。
「おめでとう、と素直にはちょっと言えないけどさ。ありがとうな、親友」

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