沈む夕日
「よーし、お前ら! あの夕日に向かって走るぞー!」
教え子たちと、夕日に向かって走る。教師になったら、一度はやってみたかったことの一つだ。
「えー」
「はあ?」
「またかよ、センセの無茶振り……」
「ドラマの見すぎだろ」
とは言いつつ、なんだかんだのってくれるのが、こいつらの良いところだ。
しかし。忘れていた。「若い」とはなんたるかを。
それは、数分もしないうちに。
「センセー? はやくー!」
「言い出しっぺが、一番遅いじゃんかー」
「ぜぇ、はぁ、……ぜぇ……。お前ら、速いなあ……!」
「陸上部なら、当然っしょ」
「吹奏楽部も、よく体力づくりに走りますし」
「サッカーは、速さがなんぼだろ」
そう。彼らはみんな、日頃から鍛えているのだ。
それに比べて、自分は37歳の、ややわがままボディ。
かなうはずはなかった。
そんなもので。夕日が沈むまでには、とてもじゃないがもう走れなかった。ありがたくも解散だ。
とはいえ。数分だが、やってみたいことの一つが叶ったのだ。
生徒に置いていかれながらだが、まんざらでもない気分で、沈む夕日を見つめる。
残り21コの「やってみたいこと」も、また今度トライだ。
まだ、自分は頑張れる!
4/7/2024, 9:48:30 PM