雫
今日、私は飛び降りをした。
頭が痛い。リストラに、子どもの死。もう、嫌になった。
うっすらと思う。
(二階からの飛び降りでも、人って死ねるんだなあ、あっけないもんだ)
もう、疲れた。
ぽた、ぽた。ぽた。頬に水滴が落ちる。
(雨、か)
最初はそう思った。でもなにか違う。
(……? なんだ? 冷たくないし、雨にしてはあまり降ってこない)
ゆっくりと眼を開けた。
「……! ……っ!!」
それは、妻だった。
苦しげに、妻の涙が自分の頬に落ちる。
なんで、そんな顔するんだろうか。
……もしかしたら、でもなく。
――そうか。
苦しいのは、なにも自分だけなわけはないんだ。
自分のリストラに、妻は泣かなかった。騒がなかった。
子どもの死に、私は泣けなかった。
ああ、どうして。
「すまな……った……」
「すまないと思うなら、……生きてよ、この大馬鹿もの! 私をひとりにして、そのままあの子のところへ逝くなんて、許さないんですからね……!!」
妻の涙には、心を苦しくさせる作用がある、不思議だ。
そうして自分は、まだ「今」も、子どものところには逝かず、妻とともに歩いているのは、どんな奇跡なのか。
4/22/2024, 3:59:13 AM