月凪あゆむ

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3/29/2024, 3:56:50 AM

見つめられると

「そんなに見つめられると、照れちゃうわ!」
「は? お前がそんなんで照れるようなタマか」
「ひどっ!? さすがにひどすぎないかしら」
「はいはい、今日も頭は正常運転。かわいいカワイイよ」
「なにその、明らかなるお世辞!」

 こんな日が、もっと続くと思っていた。


 それは、不慮の事故だった。
 「盲目」になった私に、もう彼はそばにはいてくれないんでしょうね。
「……っ……!」
 そばにいない。それが、こんなにも心を痛めるような言葉だなんて。あの頃は知らなかった。
「やっぱり、あなたに……見ててほしい、よ……」

「――ここに、いるし」

 ちょっと乱雑ながらに、私の涙を拭う指があった。
 彼だ。
「なん、で――」
「それは、こっちのセリフ」
 はあぁ、と彼は深い、それはもう、深いため息をして。
「俺はそばにいる。だから笑え。お前のその、能天気に笑うのが、俺はいいと思ってるんだから」
「……? 友達、として?」
「バカか! ……いや、馬鹿だよな、お前なら。…………その、」

深呼吸するように、彼は息をはき。
「――結婚、するぞ」

「…………え?」
 理解の追い付かない私の頭に、また彼は言う。
「ま、お前のことだ。俺がもうそばにはいないと思ってんだろうけど、な」

「俺は、お前の笑顔が何よりも好きなんだ。だから、そばにいろ、笑え、ずっと」
「…………」
 ポカンと、した。そこまで考えていたなんて、知らなかった。
「おい、返事は!?」
「……もう。いつも勝手なんだから。でも、――はい」

 盲目でも、きっと。あなたの瞳は、きっと私を見ててくれる。
 そう思ったら、怖いことなんて全部忘れた。
 私は、絶対幸せになってやる。能天気に笑いながら、ちょっと自分勝手なあなたと一緒に。

1/11/2024, 5:21:27 AM

20歳

成人した私へ

 まだ、「痛い」を我慢していますか?
私は決して痛覚が鈍いというわけでもないけど。
子どもの頃から「痛い」を我慢してたよね。
 運動会で転んでも。
 家で骨折しても。
 あとは……そう。人に虐げられても。
 何があっても、「大丈夫、何でもない」って。そう言っていたよね。
 ……その割には、運動会ではよく保健室へ連行されてたっけ。確か小学校中学年くらいまで。
 我慢するのが、当たり前だった。
 でもね。
 その「強さ」は、自分を苦しくさせてるんだ。それは少しは分かってるよね。

 今の私も、まだまだ「痛い」と言えるかというと、そうでもない。
 まだ到底、人並みの「痛い」は言えてないかも。
 一応、
 「いっっ……!」
くらいには、声はでてくるよ。まあ、それくらいでしかないんだけど。

 体感してるとは思うけど、ちょっと損なタチしてるよね。
 だって凄いときには、足挫いても周りに気付かれずに
「ん? いまのなんの音?」
「え? なんだろうねえ……?」
で、終わるんだもの。
 この先、もっとオーバーなリアクションが出来る日は、くるのかな。


さて。
 こんな話にもし。
 いないほうがいいけど、もし共感してくれた方がいましたら。
 だったら難しいかもしれないけど。
 何でもかんでも、我慢すればいいものでもないよ。
 痛いときには声を上げていいし、あんまり声を殺して泣かないで。

 時には大人に訴えて、周りにすがりついていいんだよ。
 それは、子どもなら尚更。大人だったとしても、必要なことなの。
 じゃなくちゃ、私のように我慢しすぎて、その果てには。
 何が起こるか、又は何を起こすか。
 そうなるより前に、ね。

 そして、「周り」である方は。
もうちょっと、ほんの気持ちでもいい。
 そういったひとの危機や、SOSへのアンテナを張ってあげていてほしい。
 手遅れになる前に。

1/5/2024, 3:42:24 AM

幸せとは

「ねえ、しあわせってなあに?」

 それは、夕方6時の、テレビでやっていた特集のタイトルだった。
 それをそのまま、4歳の姪っ子に聞かれたのだ。

「なんだと思う?」
「よくわかんないから、おじちゃんに聞いてるのー!」

 ふむ、と少し考えてから。
「そういうのは、自分で見つけるものなんじゃないかい?」
「なによ、もういいっ!」
 答える気がないとわかった姪っ子は、次は自分の姉に聞きにいった。

 姪っ子の背中を見つめながら、よくよく考えてみる。
 自分には、家族がいる。
 ……いや、「大切な人たち」というほうが正しいか。
 自分は独身だが、そこはあまり気にはしていないし。
 こうして、姉弟も、姉の家族も、そして両親も生きている。

 腹がへれば、食べることができて。
 のどが乾けば、飲み物が飲める。
 眠くなれば、布団で眠れるし、風をしのぐ窓もある。
 そして朝は、姪っ子たちのケンカで起きることになる。
 そんな、当たり前に過ぎていく正月。

 その「当たり前」は、幸せで、なんと贅沢なものか。

10/19/2023, 3:46:59 AM

秋晴れ

 台風が過ぎ去ったあとの、澄んだ空の青。
 そういうのを、「秋晴れ」っていうらしいよ。
 まるで、キミのようだよね。

 なにがって?

 だってキミ、一度怒るとしばらくは手がつけられないことになる。まるで台風のようだ。
 で。
 その後に、ね。
 
 ものすっごいスッキリした顔つきで、こっちに眼を向けてくる。
 その、怒りからのスッキリした感じの笑みは、天気予報と同じくらいに、予測不能なんだよね。いつそのスイッチが切り替わるのか。それが一番予想できない。

 ……え、なにその顔。
 自覚が全くないって?
 まあそりゃ、そういうのは本人に自覚はないってのが、よくある話だよね。
 ボクは、いいと思うよ?
 キミの、台風からの唐突な秋晴れの顔。

9/21/2023, 3:35:01 AM

大事にしたい

 うちにはね、なぜかいつからなのか分からないけど。
 アロエが置いてあるの。

「ねえ、おかあさん。このアロエって、いつからあるの?」
「うーん……? 実は、お母さんも詳しくは知らないの。あ、でもおばあちゃんなら、知っているかもしれないわね」
「なんで?」
「あのアロエを、誰よりも大事にしてるのはね、おばあちゃんなのよ」

「ねえおばあちゃん。あのアロエ、いつからあるの?」
「ああ、それはねえ」

「あのアロエは、おばあちゃんのおばあちゃんが、遺してくれたものなのよ」
「おばあちゃんの、おばあちゃん……??」
 うーんと……?

 考えても、よくわからない。でも、なんだかおばあちゃん、嬉しそう。
「とにかくまあ、そうさね。あのアロエは、わたしたちよりも、ずいぶんと長生きなのは、確かだよ」

 ──アロエの寿命は、100歳はゆうに超えるのよ。
 だからつまり、ずーっと遠い昔から、この家を見守ってくれてるのさ。
 そんな、色んなことを、見てきたこの植物に、おばあちゃんは愛着を持ってるのよ。

 「あいちゃく」って、なんだろう?

 ──遠い未来に、私もおんなじようなことを、孫に話すのは、この時はまだ知らない。

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