見つめられると
「そんなに見つめられると、照れちゃうわ!」
「は? お前がそんなんで照れるようなタマか」
「ひどっ!? さすがにひどすぎないかしら」
「はいはい、今日も頭は正常運転。かわいいカワイイよ」
「なにその、明らかなるお世辞!」
こんな日が、もっと続くと思っていた。
それは、不慮の事故だった。
「盲目」になった私に、もう彼はそばにはいてくれないんでしょうね。
「……っ……!」
そばにいない。それが、こんなにも心を痛めるような言葉だなんて。あの頃は知らなかった。
「やっぱり、あなたに……見ててほしい、よ……」
「――ここに、いるし」
ちょっと乱雑ながらに、私の涙を拭う指があった。
彼だ。
「なん、で――」
「それは、こっちのセリフ」
はあぁ、と彼は深い、それはもう、深いため息をして。
「俺はそばにいる。だから笑え。お前のその、能天気に笑うのが、俺はいいと思ってるんだから」
「……? 友達、として?」
「バカか! ……いや、馬鹿だよな、お前なら。…………その、」
深呼吸するように、彼は息をはき。
「――結婚、するぞ」
「…………え?」
理解の追い付かない私の頭に、また彼は言う。
「ま、お前のことだ。俺がもうそばにはいないと思ってんだろうけど、な」
「俺は、お前の笑顔が何よりも好きなんだ。だから、そばにいろ、笑え、ずっと」
「…………」
ポカンと、した。そこまで考えていたなんて、知らなかった。
「おい、返事は!?」
「……もう。いつも勝手なんだから。でも、――はい」
盲目でも、きっと。あなたの瞳は、きっと私を見ててくれる。
そう思ったら、怖いことなんて全部忘れた。
私は、絶対幸せになってやる。能天気に笑いながら、ちょっと自分勝手なあなたと一緒に。
3/29/2024, 3:56:50 AM