月凪あゆむ

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9/19/2023, 12:25:34 PM

時間よ止まれ

 ──ねえ、吸血鬼って、とっても長生きなんでしょう?
 その、永き時の【孤独】から、貴方を引っ張り上げてしまったのは、短命の人間の、わたくし。

 ある時、貴方は言った。

「おいて逝かれることが、解りきっているのに。なのに俺はお前を、愛してしまった」

 ……そう、ね。
 確かに、とてつもない嬉しさと、申し訳ない気持ちもある。
 そして、こうも言った。

「叶うなら、このまま時間が止まってしまえばいい」

 ……いいえ。
 確かに、貴方を残して死ぬのは本当。少し前なら、同じ気持ちになれた。
 でも、わたくしには、貴方に遺してあげられるものがあるの。

 ──トクン、トクン。

 そう。この、わたくしのお腹に居る、一つの命。
 わたくしと貴方が、確かにこの世界で生きて、お互いを愛した証。
 わたくしは、止まりたくはない。
 この先の、きっと【この子】の居る、3人で手を繋ぐ時間を、切望するわ。
 そしてこの子も、いつかママかパパになっていくの。
 そうしたら、貴方はおじいちゃんよ。ふふ、気が早過ぎるわね。
 
 この先、願わくば。
 貴方とわたくしの血を受け継ぐ子どもたちが、たくさんの【幸福】を、貴方に与えてくれんことを。
 わたくしは天国で、ゆったり待っていると思うから、どうか焦らないでくださいね。

 ──ふふ、それまでは地上にて。
 貴方の苦悩も、この子の葛藤も、まるごと愛していくわ。
 

5/20/2023, 10:57:14 AM

理想のあなた

「ねえ先生! 先生はどうして、先生になったの?」
 そんな、1年生の子の疑問に、ちょっと考えてから、ちゃんと答えることにした。
「先生はね、昔、勉強が大嫌いだったんですよ」
「? 勉強嫌いなのに、なんで先生になろうと思ったの?」
「それはね──」




 その当時、先生は勉強も運動も苦手だったんだ……。いや、今も苦手かな。
 でも、先生の先生が一生懸命になって、色んなことを考えて、教えてくれたんだ。
 
 例えば、逆上がり。
 例えば、速く走る練習。
 例えば、計算の仕方。

 その先生がいなかったら、もっと悪い子になってたかもしれないね。
 その先生には、とっても「ありがとう」って伝えたい気持ちなんだ。
 でもね。
 夏休みが終わったら、その先生はいなくなってたんだ。
 ……先生に教えてもらったことを、どうしたら御返しできるのかなって。
 それをずーっと、思っていた時にね。
 友達にこう言われた。

 「教えるの、上手だね」

 それで、思いついたんだ。

 「先生みたいになりたい」って。


 その子に言われなかったら、先生になりたいなんて、思ってもいなかったと思う。
 先生の、先生はまさに「なりたい自分」だったからね。
 今でも、頭が上がらないんですよね。



「その友達って、どんなひとー?」
 待ってました、その質問!

「今の先生の、奥さんです。ほら、おそろいの指輪」
「えー! 男の人にもゆびわがあるの!?」
 驚いた子に、「そうだよー」なんて言って、にっこり笑った。

 まあ、「先生」の成り立ち話もだし、嫁さん自慢話でも、ありますね。

5/19/2023, 12:20:42 PM

突然の別れ

 私には幽霊の幼なじみがいる。
 いっつもなんてことのない会話して、笑える相手。
 ちょっと口が悪くて、平気でひとの心を読んでくる、失礼な幽霊。
 でも、彼には何度も、何度も命を救われたし、きっと彼がそばにいるなら、何処に居ても安心できる。
 けど、分かってたつもり。
 「幽霊」は、いつ成仏してもおかしくないことを。

 そして、その日はきた。唐突に。


 ──なあ。あのさ。
「なあに?」
 ──アンタ、オレがなんで幽霊なのか、言ったっけ?
「……そういえば、聞いてないわね」
 ──今から言うこと、聞いてくれるか。
「……? わかった」


 オレにはさ、「人」として生まれたときから幼なじみがいたんだ。
 泣き虫で、でも高飛車なとこもあるくせに。妙に物怖じしない。なんだかんだ肝の据わった奴が。
 ……ずっと、言えなかったんだ。あいつに、オレからの気持ちを。
 言えないでいたからなのか。ある日不幸があった。
 ──それは、事故だった。
 でも、意図的な事故だ。
 「神様」ってやつが、それを仕組んだんだ。
 
 オレ、未練がましく足掻いたんだ。
 そして、人の体を捨てる代わりに、あいつの生まれ変わりの魂を教えられた。


「え、ちょっとまって。まさかそれが……」
 ──そう。その相手はアンタだ。
 そう言われても、頭が追いつけない。
 ただ一つ。
「あなたが私を守ってくれていたのは、あなたの幼なじみの魂ってこと…………?」
 言葉にして、なんだか悲しくなる。
 悲しい、苦しい、寂しい。胸が痛くなる。

 ……だから、私はあなたにこんなにも安心して、身をまかせていられたの?
 それは、私ではなくて、私の前世の気持ち?
 私の、この気持ちは……。
 ──ちょい、ひとの話は最後まで聞けや。


 
 けど、生まれ変わりと思えないくらい、アンタはアンタだ。
 あんまり泣かないし、高飛車だが労る気持ちを持ってる。
 オレが近づくと、顔が赤くなるわ、心臓の音は速くなるわでさ。すぐ挙動不審になる。

 確かにオレは、あいつが好きだった。それがどんな情かは、はっきりと出来ずに終わったけど。
 でも今、オレが心に浮かぶのは、アンタなんだ。
 赤くなるのを可愛いと思うし、ぎゅうっと抱きしめたくなる。
 おかしいだろう?
 生身の頃より、感情が溢れるんだ。

 ──オレは、アンタが好きだ。

 その言葉を、まるで合図とでもいうかのように。
 彼が光に包まれる。
「え……。なんで……?」
 ──お。未練がなくなったから、かね。オレの魂も終いみたいだ。
「………………」
 ──じゃあな。アンタはきっと、いい女になる。ちゃんと、好きなやつをつくれよ? 幸せに、なれよ?

「──馬鹿言わないで!」
 
 実体のない身体に、必死に抱きついた。
「あなた、全然なにも私への説明、できてないわ! 私の気持ちも、言葉にしてない!」
 ──それは……。

「もっと未練持ってよ! 全然解らないわ!なんでこんな、突然の別れをしなくちゃならないのよ!?」

 泣きながら、むちゃくちゃなことを言ってるような気がする。
「──私は、あなたしか好きになれないんだから!!」
 ぎゅうっと、しがみついてから、気づいた。
 光が、弱くなってる……?

 ──……うそ、だろ。こんな……。

 光が消える代わりに、ひとりの影ができた。
「よくも、留めてくれたな」
 初めて、彼の「音」ではなく人の「声」を聞いた。
 

 それを、奇跡と言わずして、なんと呼ぼうか。
「アンタ、ちゃんと責任とれよ?」
 まだ、頭が追いつけない彼女に、彼は言う。

 「──幽霊だったオレを、人間に堕としたんだ。よほどの愛を、くれるよな?」
 なに、それ。
 とてつもない。まるで殺し文句みたいな言葉と表情で、彼は言ってきた。
「オレは、選んだんだ。「あいつ」でなく「アンタ」を。だから、アンタも選べ。「幽霊」から堕ちた、「オレ」を」

「──いいわ。受けて立とうじゃない、その屁理屈な愛。受け止めるられるのはきっと私くらいだもの!」

 こうして、とある奇跡が起きたのだった。







「愛があれば何でもできる?」と同じ登場人物のお話です。

5/18/2023, 11:27:44 AM

恋物語

「恋、したいなー」
 彼女は頬を膨らませながら、そんなことを言ってきた。
「なに、急に」
 少し前に、恋を馬鹿にしていた人間が、何をいきなり。
「恋なんて、自分は一生縁がない、なんて言ってた奴の言葉とは思えないんだけど」
 その時の彼女も、よく覚えている。
「いやー、最近読んだ物がさ、終盤に恋のシーンがあって」
 いいなー、と言いながら、猫のように伸びをする。
「なるほど。影響受けやすいもんな、お前は」
「……ちょっと、バカにしてる?」
「いいや、全然?」
「なんで疑問形?」
 あはは、と笑いながら、シェアハウスの庭にでてみる。
 すると。
「……あ、今日は月がよく見えるぞ」
「そうなの?」
 彼女が隣に来て、共に月を見上げる。
「お、ホントだ。キレイによく見えるね」
 彼女の横顔を盗み見ながら、思う。
 ──お前のほうが、綺麗だよ。
「…………。まだ、言えないなあ」
「ん? どうかした?」

 ──お前に恋してる男は、すぐそばにいるんだけどなあ。
 自分の臆病さを痛感しながら、満月を見上げていたのだった。

5/17/2023, 10:32:24 AM

真夜中

 ──また、新月の真夜中になったら、会いにくるよ。

 そんな言葉を残し、彼は窓から飛び降りた。今も真夜中なので、下を覗いても真っ暗だ。
 
 そこから、真夜中の逢瀬は始まった。
 どうして「真夜中」なのか、理由を聞いたことがない。
 しかし、彼女には予想がついている。


 だから。
「実は俺、吸血鬼なんだ」
「……うん。なんとなく、そんな気はしてたの」
「……え?」

 だって、彼女にとっては問題ではない。
 何故なら。
 
「言っていなかったけどね。私、天使のハーフなの」

「……………。え」

 そうなのだ。
 しかし、彼女にとっては問題でなくとも。
 彼にとっては、天敵が逢瀬の相手。

 月もでない、真っ暗の夜。
 その時だけは、お互い魔力を消すことが出来るのだ。
 にっこりと笑みを向けると、彼は。

「て、天使? ハーフ? そんなの聞いてないよ!?」
 秘密を共有できたというのに、彼の態度があからさまに変わった。
 そして。なんとそのまま、逃げるように飛び降りて行ってしまった。

「──また、振られたね」

 眷属の猫とともに、ため息を一つ。
「あーあ。どこかにいないかなあ。天使のハーフを愛してくれる、男」

 こうして、彼女の真夜中の逢瀬は、一旦幕を閉じた。
 まあ、またすぐに開くことではあろうが。

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