時間よ止まれ
──ねえ、吸血鬼って、とっても長生きなんでしょう?
その、永き時の【孤独】から、貴方を引っ張り上げてしまったのは、短命の人間の、わたくし。
ある時、貴方は言った。
「おいて逝かれることが、解りきっているのに。なのに俺はお前を、愛してしまった」
……そう、ね。
確かに、とてつもない嬉しさと、申し訳ない気持ちもある。
そして、こうも言った。
「叶うなら、このまま時間が止まってしまえばいい」
……いいえ。
確かに、貴方を残して死ぬのは本当。少し前なら、同じ気持ちになれた。
でも、わたくしには、貴方に遺してあげられるものがあるの。
──トクン、トクン。
そう。この、わたくしのお腹に居る、一つの命。
わたくしと貴方が、確かにこの世界で生きて、お互いを愛した証。
わたくしは、止まりたくはない。
この先の、きっと【この子】の居る、3人で手を繋ぐ時間を、切望するわ。
そしてこの子も、いつかママかパパになっていくの。
そうしたら、貴方はおじいちゃんよ。ふふ、気が早過ぎるわね。
この先、願わくば。
貴方とわたくしの血を受け継ぐ子どもたちが、たくさんの【幸福】を、貴方に与えてくれんことを。
わたくしは天国で、ゆったり待っていると思うから、どうか焦らないでくださいね。
──ふふ、それまでは地上にて。
貴方の苦悩も、この子の葛藤も、まるごと愛していくわ。
9/19/2023, 12:25:34 PM