理想のあなた
「ねえ先生! 先生はどうして、先生になったの?」
そんな、1年生の子の疑問に、ちょっと考えてから、ちゃんと答えることにした。
「先生はね、昔、勉強が大嫌いだったんですよ」
「? 勉強嫌いなのに、なんで先生になろうと思ったの?」
「それはね──」
その当時、先生は勉強も運動も苦手だったんだ……。いや、今も苦手かな。
でも、先生の先生が一生懸命になって、色んなことを考えて、教えてくれたんだ。
例えば、逆上がり。
例えば、速く走る練習。
例えば、計算の仕方。
その先生がいなかったら、もっと悪い子になってたかもしれないね。
その先生には、とっても「ありがとう」って伝えたい気持ちなんだ。
でもね。
夏休みが終わったら、その先生はいなくなってたんだ。
……先生に教えてもらったことを、どうしたら御返しできるのかなって。
それをずーっと、思っていた時にね。
友達にこう言われた。
「教えるの、上手だね」
それで、思いついたんだ。
「先生みたいになりたい」って。
その子に言われなかったら、先生になりたいなんて、思ってもいなかったと思う。
先生の、先生はまさに「なりたい自分」だったからね。
今でも、頭が上がらないんですよね。
「その友達って、どんなひとー?」
待ってました、その質問!
「今の先生の、奥さんです。ほら、おそろいの指輪」
「えー! 男の人にもゆびわがあるの!?」
驚いた子に、「そうだよー」なんて言って、にっこり笑った。
まあ、「先生」の成り立ち話もだし、嫁さん自慢話でも、ありますね。
5/20/2023, 10:57:14 AM