月凪あゆむ

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恋物語

「恋、したいなー」
 彼女は頬を膨らませながら、そんなことを言ってきた。
「なに、急に」
 少し前に、恋を馬鹿にしていた人間が、何をいきなり。
「恋なんて、自分は一生縁がない、なんて言ってた奴の言葉とは思えないんだけど」
 その時の彼女も、よく覚えている。
「いやー、最近読んだ物がさ、終盤に恋のシーンがあって」
 いいなー、と言いながら、猫のように伸びをする。
「なるほど。影響受けやすいもんな、お前は」
「……ちょっと、バカにしてる?」
「いいや、全然?」
「なんで疑問形?」
 あはは、と笑いながら、シェアハウスの庭にでてみる。
 すると。
「……あ、今日は月がよく見えるぞ」
「そうなの?」
 彼女が隣に来て、共に月を見上げる。
「お、ホントだ。キレイによく見えるね」
 彼女の横顔を盗み見ながら、思う。
 ──お前のほうが、綺麗だよ。
「…………。まだ、言えないなあ」
「ん? どうかした?」

 ──お前に恋してる男は、すぐそばにいるんだけどなあ。
 自分の臆病さを痛感しながら、満月を見上げていたのだった。

5/18/2023, 11:27:44 AM