真夜中
──また、新月の真夜中になったら、会いにくるよ。
そんな言葉を残し、彼は窓から飛び降りた。今も真夜中なので、下を覗いても真っ暗だ。
そこから、真夜中の逢瀬は始まった。
どうして「真夜中」なのか、理由を聞いたことがない。
しかし、彼女には予想がついている。
だから。
「実は俺、吸血鬼なんだ」
「……うん。なんとなく、そんな気はしてたの」
「……え?」
だって、彼女にとっては問題ではない。
何故なら。
「言っていなかったけどね。私、天使のハーフなの」
「……………。え」
そうなのだ。
しかし、彼女にとっては問題でなくとも。
彼にとっては、天敵が逢瀬の相手。
月もでない、真っ暗の夜。
その時だけは、お互い魔力を消すことが出来るのだ。
にっこりと笑みを向けると、彼は。
「て、天使? ハーフ? そんなの聞いてないよ!?」
秘密を共有できたというのに、彼の態度があからさまに変わった。
そして。なんとそのまま、逃げるように飛び降りて行ってしまった。
「──また、振られたね」
眷属の猫とともに、ため息を一つ。
「あーあ。どこかにいないかなあ。天使のハーフを愛してくれる、男」
こうして、彼女の真夜中の逢瀬は、一旦幕を閉じた。
まあ、またすぐに開くことではあろうが。
5/17/2023, 10:32:24 AM