月凪あゆむ

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星空の下で

 そこには、確かに一軒の家があった。暮らしていた家族は父、母、兄、姉、弟。
 姉弟はなにかと喧嘩が多く、それをなだめるのは決まって兄で。
 両親は呆れつつも、穏やかな眼差しでその一連のやり取りを見守っている。

 ――なんの変哲もない、ただの一家だった。その時までは。



 ある年の初め、強烈な災害の多い春だった。天候の荒い日が何日も続いた。
 そんな、春の嵐の日、雷がその家に落ちたのだ。

 生存したのは、その日たまたま、友人宅に泊まっていた弟だけ。

 【これ】が、彼の生い立ちだ。
 周りは、腫れ物に触れるような扱いをしてくる。それこそ特に、大人たちは。


 たくさん、想いを馳せる。
「姉さんとは、前の日は喧嘩しかしてなくて、仲直りもまだだったのに」
「兄さんに勉強教えてもらうの、けっきょく一度もなかったじゃないか」
「もう、母さんの焦げたオムレツ、食べれないんだな」
「父さんの、タバコ臭い匂い、きっとそのうち思い出せなくなる」


――でも。
「あの日、自分も家にいたら」
とは、思いたくなかった。だって。そう考えてしまったら。
 親友との語らいが、悪かったようになってしまう。それは、ダメだ。
 だって。
 自分の誕生日に、大切な友達が死んだ、なんて。相当な悪夢以外のなにものでもない。

 だから、彼は今日。春休みの星空の下で。親友の誕生日に。友の家で家族の弔いをする。燃えてしまった家に想いを馳せながら。

 そしてあの日から。何度だって立ち上がらせてくれた唯一無二の親友の誕生を、こうして毎年、祝うのだ。
「おめでとう、と素直にはちょっと言えないけどさ。ありがとうな、親友」

4/5/2024, 11:04:35 AM