傾月(神楽屋)

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7/10/2024, 1:12:43 PM

『目が覚めると』
其処は真っ白な世界だった

前を向いても
左右に首を振っても
後ろを振り返っても
天を仰いでも
地に視線を落としても

何処までも
只々真っ白な世界
色があるのは自分だけ

次々と疑問が浮かぶ

                    此処は何処で
                     自分は誰で
                     今が何時で
              何故自分だけ色があるのか
               何故この世界は白いのか
              

頭の中はフル回転だが
不思議と焦りはない


その内に
ついに考えることに疲れてきて
真っ白な地に体をそっと横たえた
仰向けになり手を天へ向けて上げてみる

自分の手の色が無くなっていっていることに気付く
まるで周りの白さに溶け込もうとしているかのように

                何故色が無くなるのか
               自分が全て白くなったら
                  体はどうなるのか
                 意識はどうなるのか
               何故この世界は白いのか

                     白とは何か

四肢が白くなり
横たえた胴体も白くなり始めた
これ以上見ていても仕方ないと
瞼を閉じようとしたが
瞼はピクリとも動かなかった

この白い世界の一部になろうとしていることを肌で感じた

いよいよ最期の時が来たその時
何処からともなく声が聞こえた

"ようこそ"


―――真っ白と私と

                 #76【目が覚めると】

10/1/2023, 9:57:51 AM

別れは突然やってきた。
ずっと一緒にいられないことは、頭では解っていた。でも、こうも突然その日が来ると、やっぱり動揺せずにはいられない。

俺の不注意のせいだ。
相棒に広い空間を、と思い、新居(と言っても築ウン十年の古い一軒家だが)に引っ越して3ヶ月。帰宅して窓が開いていることに気付いた時は血の気が引いた。うっかり窓の鍵を締め忘れたのだ。相棒のハヤテは器用な奴で、窓を開けるのなんて朝飯前だ。だから充分に注意していたつもりだったのに!
近所に張り紙をしたり、知り合いに当ってみたりしたが、一向に情報は得られず。「ネコは家につく」なんて言われてるから、もしかして前のアパートに帰ってるかもしれない、と思い何度も通ったが、それも空振りだった。

ハヤテがいなくなってから1週間。家に帰って玄関を開けても、物音ひとつしない部屋。物が減ったわけでもないのに、がらんとして寒々しくさえ感じてしまう。
明日も明後日もこれからもずっとこんな日が続くなんて、俺には耐えられそうにない。
これからどうやって生きて行けば良いんだ!
独り部屋の中でそう叫ぶと、外からチリンと聞き覚えのある音がした。慌てて窓を開けると、そこには相棒のハヤテと…白い仔猫?

ハヤテがンニャンと言いながらスルリと家の中に入って来る。部屋の中から外に向けて、ニャと短く鳴くと白い仔猫が入ってきた。
「お前、誰が新入りを入れて良いって言った?」帰って来たことが嬉しくて、涙目になりながらそう言うと、こちらをしっかり見据えて、ニャンと鳴いた。このひと鳴きで、この白い仔猫がこの家族の仲間入りしたことが確定した。
おかえり、おかえり。明日も明後日もこれからもずっと、ここにいてくれるならそれで良い。
新入りがおずおずとこちらに寄ってくる。「よろしくな」と言いながら、そっと人差し指を出してみた。


―――よるのゆめこそ [帰宅]


#75【別れ際に】【静寂に包まれた部屋】【きっと明日も】

9/28/2023, 9:36:40 AM

週明け。
やっぱり秋とは名ばかりの茹だるような暑さの中、休み時間を使って、こないだ閃いたことが本当に正しいかどうか、"声"が聞こえた5人に、あることを確認して回った。そして全員が質問に対して"Yes"と答えたことを受けて、仲間を集め、名探偵よろしく「答えが解った」と言い放った。
驚く仲間たちの顔を眺めながら、今回の出来事が "銀歯" のせいだということ告げた。全員がザワつく中、どうも条件が合うと銀歯がアンテナの役目をはたしてラジオなどを拾ってしまう場合があるらしいこと、裏山の公園は近くに電波塔が建っていて条件が合いやすかった可能性があることを述べた。
仲間の1人が、自分にも銀歯があるのに聞こえなかった、と言うので、あくまで "条件が合えば" だと念押しをした。「ま、俺もテレビの受け売りだけどな」と言い、今回の "声"騒動は終結した。

でも実は、仲間に言ってないことがある。
あの日、みんなでジャングルジムに登ってあーでもないこーでもないと話し合ったあの日。通り雨が降る中、昼からまた1人であの公園へ行ってジャングルジムに登り、件の "声" を聞いてしまったのだ。
何の声か解んないし、何を言っているのかも解んない。でも、その声は確実にこっちに話しかけてくる。

ただ、俺に銀歯は、無い。


―――宇宙(そら)からの便り[急]


                #74【秋🍁】【通り雨】

9/26/2023, 10:09:24 AM

翌日。
休日なのをいいことに、いつもの仲間数人で集まって昨日聞いた話を検証することにした。そう「同じ所をグルグル周っていたら」についてだ。
公園でジャングルジムに登り、試しに上から2段目をみんなでグルグル周ってみたが、何も起こらなかった。ま、行き当たりばったりじゃ無理よな、となり、その後はジャングルジムに腰を下ろし、あーでもないこーでもないと意見を言い合った。そうしているうちに「同じ所をグルグル」というのが「①ジャングルジムの同じ箇所だけを周っていた」のか、「②後ろの子が前の子を真似て、様々なルートをついて周った」のか、どちらの意味で言っていたのか確認が必要だということになった。
昼のチャイムが聴こえた。誰かのお腹が空腹を告げたのを合図に、この日は解散することにした。「同じ所をグルグル」については週明けに学校で本人たちに確認しようということで決着した。
全員でゾロゾロと坂道を下っていると、下から昨日話を聞いた1年男子が走ってきた。目が合うと「家の窓から見えたから、話を聞こうと思って」と言った。昨日の話とさっき出た意見を伝えると、「俺は別にグルグル周ってないけどな」と不思議そうに言った。そして唐突に「歯医者に行くから帰るわ!また学校で!」と言い、坂を走り下りて行った。
あっという間の出来事にみんなで呆気に取られていると、ふいに閃いた。そうだ、歯医者だ。昨日話を聞いた子たちの中で、銀歯が見えている子がいた。
後ろを振り返り山を見上げると、電波塔が見えた。突然、全てが繋がった。「同じ所をグルグル」に囚われていた自分に笑った。何だそんなことだったのか。あとは確認していくだけだ。


―――宇宙(そら)からの便り [破]


         #73【形のないもの】【窓からの景色】

9/24/2023, 10:22:15 AM

嘘だって言う奴もいるけど、この話はマジ。
裏山にある公園のジャングルジム。あのジャングルジムに登ると、声が聞こえてくるんだ。何の声か解んないし、何を言っているのかも解んない。でも、その声は確実にこっちに話しかけてくるんだ。

その話をよく耳にするようになったのは、まだ暑くてしかたがない、秋とは名ばかりの頃。その頃、すでに同じ学校の何人かが "声" を聞いていたらしく、校内ではかなり噂になっていた。"ジャングルジムに登ると声が聞こえる"。噂が広まっていく過程で自然とついた尾鰭により、いつしかそれは "宇宙人の声" ということになっていた。
そうなると、自分も聞いてみたいという子どもたちが件の公園にわんさか押しかけるようになり、放課後のジャングルジムはいつも鈴生り状態だ。斯く言う自分も、放課後に休日に、仲間数人と一緒に公園へ行っては、ジャングルジムに登った。しかし、何度登っても声が聞こえることはなかった。他の子どもたちも同様だったようで、次第に公園へ行く子どもの数も減っていき、日常に戻ろうとしていた。
そこで何故か、妙な探求心が出た。 "声" の噂を辿って、声を聞いた本人たちから話を聞こうと思い付いたのだ。仲間で話し合い、手分けして当ることにした。
噂を辿った結果、3年女子1人、2年男子2人、1年男子1人、1年女子1人が声が聞こえた当人だった。話を聞くと皆一様に「ジャングルジムに登ったら、声が聞こえた。何がキッカケかは解らない」という答えだった。ただ、2年男子2人が「2人で同じ所をグルグル周っていたら急に聞こえた」と言っていたのが引っ掛かった。


―――宇宙(そら)からの便り[序]


        #72【声が聞こえる】【ジャングルジム】

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