傾月

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別れは突然やってきた。
ずっと一緒にいられないことは、頭では解っていた。でも、こうも突然その日が来ると、やっぱり動揺せずにはいられない。

俺の不注意のせいだ。
相棒に広い空間を、と思い、新居(と言っても築ウン十年の古い一軒家だが)に引っ越して3ヶ月。帰宅して窓が開いていることに気付いた時は血の気が引いた。うっかり窓の鍵を締め忘れたのだ。相棒のハヤテは器用な奴で、窓を開けるのなんて朝飯前だ。だから充分に注意していたつもりだったのに!
近所に張り紙をしたり、知り合いに当ってみたりしたが、一向に情報は得られず。「ネコは家につく」なんて言われてるから、もしかして前のアパートに帰ってるかもしれない、と思い何度も通ったが、それも空振りだった。

ハヤテがいなくなってから1週間。家に帰って玄関を開けても、物音ひとつしない部屋。物が減ったわけでもないのに、がらんとして寒々しくさえ感じてしまう。
明日も明後日もこれからもずっとこんな日が続くなんて、俺には耐えられそうにない。
これからどうやって生きて行けば良いんだ!
独り部屋の中でそう叫ぶと、外からチリンと聞き覚えのある音がした。慌てて窓を開けると、そこには相棒のハヤテと…白い仔猫?

ハヤテがンニャンと言いながらスルリと家の中に入って来る。部屋の中から外に向けて、ニャと短く鳴くと白い仔猫が入ってきた。
「お前、誰が新入りを入れて良いって言った?」帰って来たことが嬉しくて、涙目になりながらそう言うと、こちらをしっかり見据えて、ニャンと鳴いた。このひと鳴きで、この白い仔猫がこの家族の仲間入りしたことが確定した。
おかえり、おかえり。明日も明後日もこれからもずっと、ここにいてくれるならそれで良い。
新入りがおずおずとこちらに寄ってくる。「よろしくな」と言いながら、そっと人差し指を出してみた。


―――よるのゆめこそ [帰宅]


#75【別れ際に】【静寂に包まれた部屋】【きっと明日も】

10/1/2023, 9:57:51 AM