「ここ」ではないどこか、別の世界にある厨二ふぁんたじー組織における、冬の足音のおはなし。
その厨二組織は「世界線管理局」といいまして、
この管理局の環境整備部難民支援課は、滅んでしまった世界の難民を、管理局内に整備しているドチャクソ広い難民シェルターで保護する部署。
シェルターは3食おやつ付き。
レジャーもリラクゼーションもたっぷり。
難民たちが望めば、自分の故郷の思い出の野菜、家畜、食用魚等々を、育てることもできます。
で、そのシェルターの電気設備まわりをカンペキに整備するプロフェッショナル局員がおりまして。
彼が局から貸与されたビジネスネームは、「カモシカ」といいました。
難民支援課に所属する職員は、皆みんな、シカ科の動物のビジネスネームを持つのです。
(ところで:「カモシカ」)
さて。その日のカモシカは難民シェルターの年末装飾を、どうしようか考えておりました。
「今年の最後を飾るイルミネーションだ。
趣向を凝らしたいが、過剰過多は、良くない」
居住エリアの中の、某公園を見渡すカモシカです。
彼の隣には、チベットスナギツネレベルの虚無顔をしたドラゴンが1匹。
湯気立つ味噌汁など、ちびちび飲んでいます。
というのもこのドラゴン、「こっち」の世界の日本海側で積雪予報が出たからって、
雪遊びをしにルンルン気分で本州北端の津軽地方など訪問してしまったのです!
風速20km/h以上です。
ごらんあれがドラゴン岬です。
強風が物理的にドラゴンの胸をゆすります。
『さむい』 鳴きます。
雪です。 波浪注意報なのです。
要するに寒くて痛くて退却してきたのです。
雪国の冬の足音は大変ですね(お題回収)
「そうか。冬の足音か」
電設のカモシカ、ちょっと閃きました。
「歩道の誘導灯を交換して、点灯と消灯をディレイさせて、冬の足跡!良い案かもしれない」
足音エフェクトは、付けたらやかましいだろうか。
悩むな、悩むなぁ。カモシカは微笑みました。
今年は経理部のエンジニア、スフィンクスとタッグを組んでも良いかもしれません。
彼女の本性は大きな大きな猫というか、モフモフドラゴンキャットというか、ともかくニャーゴです。
彼女の肉球的足跡を、誘導エフェクトとして、歩道に使うのです——なんと可愛らしい!
「よしテストしてみよう」
むぎゅっ。
電設のカモシカは問答無用。
虚無顔で味噌汁をペロペロして体を温めているドラゴンの、後ろ足にスキャンをかけました。
ひとまず足跡エフェクトを、スフィンクスの肉球ではなく、まずドラゴンでやってみるのです。
「この足型を、この道路の、ここに設定してと」
足跡の光り方にエフェクトを追加したり、光の色を変えてみたり。カモシカはとっても楽しそう。
「白だと夜は眩しいか……?」
年末まで、もう少し。
「ここ」ではないどこかの世界、厨二ふぁんたじー組織の冬の足音のおはなしでした。
おしまい、おしまい。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、ようやく稲荷狐のひよっことして認められ、名前を授かったばかり。
近々、具体的には次の春から、新しい就業場所に出される予定となっています。
ところでこの稲荷子狐、
まさかのロボットの友達がおりまして。
それは「ここ」ではない、別の世界のチートな技術で、某円形自動掃除ロボットと空気清浄機とを合体した魔改造ロボット。
子狐からはその駆動音から、「うぃんうぃんさん」と呼ばれていました。
ただ自動掃除ロボットと空気清浄機をドッキングしただけの機械です。
機械なので、心があるハズ、ないのです。それを出力・表示する機能が無いのです。
なのにまったく不思議なもので、うぃんうぃんさんは子狐の稲荷神社に向かってうぃんうぃん。
移動してきたのでした。
「うぃんうぃんさん!うぃんうぃんさん!」
コンコン子狐がその日の真夜中、稲荷神社の庭で落ち葉ダイビングと洒落込んでおったところ、
うぃんうぃんさんが、数キロ程度の道を移動して、子狐に接近してきました。
「うぃんうぃんさん、あのね」
子狐はとても寂しそうに言いました。
というのも子狐、稲荷狐の修行のために、次の春から半年間うぃんうぃんさんと会えないのです。
うぃんうぃんさんも勿論ですが、
うぃんうぃんさんよりもっと長い間一緒に遊んで、一緒におやつを食べて、一緒にお昼寝した人外の友達ともまた、同様に会えなくなるのです。
「あのね、あのね」
うぃーん、うぃんうぃん。
子狐が泣きそうになったそのとき、うぃんうぃんさんに装着されたアームの駆動音がしました。
アームはライトブラウンの紙袋を上手に掴んで、
それを、子狐の目の前に、静かに置きました。
そうですお題回収です。
うぃんうぃんさんは子狐に、贈り物を持ってきて、
その贈り物の中身が子狐の大好きな、おでん屋台のお肉系とお揚げ系の詰め合わせだったのです。
「うぃんうぃんさん!」
子狐はビタンビタン!狐尻尾を高速回転。
うぃんうぃんさんが贈り物の中身を、紙袋から出して子狐に見せてくれたことに、大感激です。
「うぃんうぃんさんも、いっしょに、食べよ!」
うぃんうぃんさんは機械ですが、妙なことに、こういう気が利くこともできるのです。
ところで機械っておでん食べられるんですかね。
「おいしい。おいしい」
子狐はうぃんうぃんさんからの贈り物を、幸福に、それはそれは幸福に堪能しました。
うぃんうぃんさんは機械なので、特に感情的な反応はしませんでしたが、
うぃんうぃん、うぃんうぃん、
子狐が食べこぼしたお肉の欠片だのお揚げさんの欠片だのを、アームで上手に拾っては、
これまた上手に、紙袋の中に入れておったとさ。
贈り物の中身がおでんだったおはなしでした。
おしまい、おしまい。
「凍てつく星空」がお題のおはなし。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社の近くに、夜中しか開いていないおでん屋台が、時折やって来て提灯に火を入れるのでした。
不思議な屋台は不思議なだけあって、客も不思議。
その日は特に不思議な客が集まりまして、
皆で、凍てつく星空の下、おでんとお酒とサイドメニューと、麺類飯類など、楽しんでおりました。
雪国目線で東京の最低1桁℃など、小春日和も良いところかもしれませんが、
それでも都民としては、十二分に寒いのです。
木曜の都内は2℃です。奥多摩地方は0℃です。
都民としては、本当に、ほんとうに、「凍てつく」の言葉が相応しい温度帯なのです。
で、そんな凍てつく星空の下のおはなしです。
不思議なおでん屋に集う人外のおはなしです。
…——「雪が降ったと、聞いたんだ」
まず最初に来たのは、別の世界から仕事の関係で東京に来ている強いドラゴン。
ちゃんとマナーにのっとって、人間に変身中です。
「あそこの雪は楽しい。俺は今年の1月、あそこの雪を掘って掘って、穴を作って楽しんだ」
あんまり顔に出してはいませんが、どうやらドラゴン、心の底ではしょんぼりしておる様子。
「行ってみたが、積もっていなかった」
しみじみ、ちびちび、一味を少し振った味噌汁でもって、体を温めておりました。
「積もっていると思ったんだ……」
凍てつく星空の下。おでん屋台の一幕でした。
…——「末っ子が立派に育ってくれたのは、間違いなく、まちがいなく、嬉しいんですよ」
次に来たのは、おでん屋台が場所と私道を借りている、稲荷神社在住のオスの稲荷狐。
ちゃんとマナーにのっとって、人間に変身中です。
「あの子が修行に出る。あの子が本格的に、ウチの神社の跡取りとして半年だけ外に出る。
嬉しいことです。でも、でも、寂しいんです……!」
ドチャクソ子煩悩な稲荷狐は、バチクソに目を赤くして、それはそれはもう、今なお泣いています。
「私のことを、ととさん、ととさんと言って、甘えて、一緒に遊んでネンネして」
べろんべろん、ぐでんぐでん、子離れできていないのでしょう、お酒で完全に出来上がっています。
「ああ、ああ、 からだが、かるい。
からだが、たましいが、とんでるようだ」
凍てつく星空の下。おでん屋台の一幕でした。
…——「おや。また脱走してきたのかい」
そろそろ店じまいの頃合い、屋台の店主がテーブルを拭いておった頃に来たのは、掃除ロボット。
マナーもへったくれもありません。
「ここ」の世界とは別の技術、別の方法でもって、
円形自動お掃除ロボットの上に空気清浄機を合体させた、魔改造の結果の機械です。
「おまえさん、ここに来たって、おでんは食べられないし酒も飲めないだろう?」
不思議な魔改造掃除ロボットは、ロボットなので、心なんて高次元なモノはありません。
それでも何かを検知したのか、
うぃんうぃん接近して、うぃんうぃんアームを動かして、うぃんうぃん、うぃんうぃん。
どうやらおでんを、特に餅巾着を買いたい様子。
「稲荷神社に行きたいのかい?」
店主が聞きます。 お掃除ロボットは答えません。
「神社の末っ子子狐に会いたいのかい?」
店主が聞きます。 やっぱり何も、答えません。
「そうかい。そうかい」
凍てつく星空の下。おでん屋台のおはなしでした。
おしまい、おしまい。
前々回投稿分に続くおはなし。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりまして、
そのうち末っ子の子狐は、ようやく神使の見習いとして認められて、名前を授かったところ。
でも子狐、まだまだ小ちゃい子供なので、
自分が貰った漢字ばっかりの名前
【奇鍵守美食銀杏狐】
(くし、かぎもり・みけ の、 イチョウぎつね)
が読めません!!
「不思議な、鍵守と良き食物の、イチョウ狐」といった意味の名前なのですが、
しゃーないのです、子狐は、「子狐」なのです。
で、その子狐こそ、今回のお題回収役。
コンコン子狐、君と紡ぐ物語です。
不思議な不思議な稲荷子狐、君と紡ぐ物語です。
というのも子狐、次の春から修行のために、
おうちの神社から半年だけ、「ここ」ではない別の世界に出されることになりまして。
「やだぁ!!やだぁ!!」
ぎゃあん!!ぎゃあん!!ここココンコンコン!!
お母さん狐から修行に出されることを聞いて、コンコン子狐は泣き叫びます!
「かかさんと、いっしょ!ととさんと、いっしょ!
キツネ、おうち、いる!」
「なりません」
お母さん狐が静かに言いました。
「お前は次の春から半年、外へ出るのです。
外へ出て、外を知り、外のルールを学ぶのです」
お母さん狐のうしろでは、お父さん狐がわんわん、わんわん!ドチャクソに号泣しています。
子煩悩なのです。子狐と離れたくないのです。
でもお父さん狐は心を鬼、もとい祟り狐にして、
お母さん狐の味方をするのです。
「よいですか」
お母さん狐、言いました。
「かかさんは、雪の霊場から嫁いできた狐だから、詳しくは知りません。
だけどお前のととさんも同じ年頃で、ととさんのととさんと、かかさんから、離されたのです。
お前の子供も、そのまた子供も、同じように、
同じ年頃の頃にお前から離されるでしょう」
外に出なさい。外を知りなさい。
お母さん狐は優しく、ただただ優しく、
駄々っ子でギャンギャン暴れる子狐を諭しました。
「やだ!やだ!キツネ、かかさんといっしょ!ととさんといっしょ!おうち、いる!」
「なりません」
「キツネおそと出ない!キツネ、ここ、いる!」
「なりません」
「やだ!やだ!かかさん、やだ!」
「お前を預かってくれる世界線管理局には、お前のために、毎日上等なお肉とお揚げと、それから果物を出すように伝えてあります」
「キツネおそと出る。」
よしよし。良い子良い子。
子狐とお母さん狐のおはなしが終わったところで、
まずは子狐の修行場所へ挨拶に向かうべく、
子狐はしめ縄の付いたペットキャリーに入れられて、外で待っておった修行先の人に託されます。
「おとくいさんと、いっしょ!おとくいさんも、いっしょに、おそと行く!」
「安心なさい。お前のお得意様も、一緒です」
目指すはコンコン子狐の大好きな「お得意さん」、藤森のアパートです。
子狐の修行のお目付け役として、藤森は狐に選ばれて、そしてそれを、告知に行くのです。
「おにく、おにく!」
すべては稲荷子狐が、立派な稲荷子狐になるため。
コンコンコン、君と紡ぐ物語を、無事来年の春から始めるための、準備が始まるのでした。
「おあげさん!おあげさん!」
子狐と紡ぐおはなしでした。 おしまい。
最近最近の都内某所、某アパートの一室、朝。
部屋の主を藤森といい、雪降り風吹き渡る片田舎の出身。実家から丁度、初冬の味覚が届いていた。
リンゴ、柿、白菜にカブ、ニンジン。
それらは段ボール箱で遮光・断熱されたり、冷蔵庫の野菜室に保管されたりした。
ところでその日の藤森の部屋には子狐が訪問中。
「おいしい!おいしい!おいしい!」
近所の稲荷神社に住まう、不思議な不思議な、その稲荷子狐だけが特別というワケではなく、
そもそも論として、キツネは柿が大好き。
なにも柿を食うのはクマだけではないのである。
「かき、かき、柿!おいしい!」
ちゃむちゃむちゃむ、ちゃむちゃむちゃむ!
段ボールの中に隠された柿の、匂いを鼻で検知して、器用にフタを開け、ひとり大宴会。
藤森の部屋には子狐の、本能のままに旬の美味を堪能する音が響いて、
「かき! かき ……かき、 なくなっちゃった」
爆速で、その響きが途絶える。
「失われた響き」である。
柿が無くなれば、次はリンゴ。
キツネはリンゴも大好き。
「りんご、りんご……あまずっぱい!」
酸味が強い品種であったのだろう。
もっと甘い果肉を期待していた子狐は、びっくり!
それでも食べ続けていると、酸味に段々慣れてきたのか、しゃくしゃく、しゃくしゃくしゃく!
一時的に失われた咀嚼の響きは数分で再開。
「おいしい。おいしい」
しゃくしゃくしゃく、しゃくしゃくしゃく!
藤森のアパートの近所に住まう、稲荷神社在住の稲荷子狐が、初冬の豊作を満喫している。
ところでその間、
部屋の主の藤森が何をしているかというと。
「子狐の修行?」
「あなたのアパートの近所の稲荷神社、あそこは少々、特殊な神社でして」
「そりゃそうでしょうね」
その日は稲荷子狐の他に、藤森の顔見知り3人が訪問中。男性2人のオネェが1人である。
早朝の訪問だったので、藤森は彼等のために朝食として、洋風焼き魚をこしらえておったものの、
それらは全部、子狐に食われてしまった。
「実は、」
実は、こういう経緯が。
藤森の客人が言おうとした、直後。
「おかわり!」
子狐が、ひょっこり。稲荷ぽんぽんを幸福にパンパンにして、藤森たちのところへ歩いてきた。
「おかわり!」
稲荷子狐が歩いてきた先を——すなわち段ボールや冷蔵庫が配置されている場所を、藤森は見た。
段ボールの中のリンゴと柿はキレイに無くなり、
いわゆる「甘い野菜」、「甘い果実」のことごとくは、稲荷子狐がセルフお供え物として、勝手に受け取った後だったとさ。