最近最近の都内某所、某アパートの一室、朝。
部屋の主を藤森といい、雪降り風吹き渡る片田舎の出身。実家から丁度、初冬の味覚が届いていた。
リンゴ、柿、白菜にカブ、ニンジン。
それらは段ボール箱で遮光・断熱されたり、冷蔵庫の野菜室に保管されたりした。
ところでその日の藤森の部屋には子狐が訪問中。
「おいしい!おいしい!おいしい!」
近所の稲荷神社に住まう、不思議な不思議な、その稲荷子狐だけが特別というワケではなく、
そもそも論として、キツネは柿が大好き。
なにも柿を食うのはクマだけではないのである。
「かき、かき、柿!おいしい!」
ちゃむちゃむちゃむ、ちゃむちゃむちゃむ!
段ボールの中に隠された柿の、匂いを鼻で検知して、器用にフタを開け、ひとり大宴会。
藤森の部屋には子狐の、本能のままに旬の美味を堪能する音が響いて、
「かき! かき ……かき、 なくなっちゃった」
爆速で、その響きが途絶える。
「失われた響き」である。
柿が無くなれば、次はリンゴ。
キツネはリンゴも大好き。
「りんご、りんご……あまずっぱい!」
酸味が強い品種であったのだろう。
もっと甘い果肉を期待していた子狐は、びっくり!
それでも食べ続けていると、酸味に段々慣れてきたのか、しゃくしゃく、しゃくしゃくしゃく!
一時的に失われた咀嚼の響きは数分で再開。
「おいしい。おいしい」
しゃくしゃくしゃく、しゃくしゃくしゃく!
藤森のアパートの近所に住まう、稲荷神社在住の稲荷子狐が、初冬の豊作を満喫している。
ところでその間、
部屋の主の藤森が何をしているかというと。
「子狐の修行?」
「あなたのアパートの近所の稲荷神社、あそこは少々、特殊な神社でして」
「そりゃそうでしょうね」
その日は稲荷子狐の他に、藤森の顔見知り3人が訪問中。男性2人のオネェが1人である。
早朝の訪問だったので、藤森は彼等のために朝食として、洋風焼き魚をこしらえておったものの、
それらは全部、子狐に食われてしまった。
「実は、」
実は、こういう経緯が。
藤森の客人が言おうとした、直後。
「おかわり!」
子狐が、ひょっこり。稲荷ぽんぽんを幸福にパンパンにして、藤森たちのところへ歩いてきた。
「おかわり!」
稲荷子狐が歩いてきた先を——すなわち段ボールや冷蔵庫が配置されている場所を、藤森は見た。
段ボールの中のリンゴと柿はキレイに無くなり、
いわゆる「甘い野菜」、「甘い果実」のことごとくは、稲荷子狐がセルフお供え物として、勝手に受け取った後だったとさ。
11/30/2025, 9:59:18 AM