「凍てつく星空」がお題のおはなし。
最近最近の都内某所、某不思議な稲荷神社の近くに、夜中しか開いていないおでん屋台が、時折やって来て提灯に火を入れるのでした。
不思議な屋台は不思議なだけあって、客も不思議。
その日は特に不思議な客が集まりまして、
皆で、凍てつく星空の下、おでんとお酒とサイドメニューと、麺類飯類など、楽しんでおりました。
雪国目線で東京の最低1桁℃など、小春日和も良いところかもしれませんが、
それでも都民としては、十二分に寒いのです。
木曜の都内は2℃です。奥多摩地方は0℃です。
都民としては、本当に、ほんとうに、「凍てつく」の言葉が相応しい温度帯なのです。
で、そんな凍てつく星空の下のおはなしです。
不思議なおでん屋に集う人外のおはなしです。
…——「雪が降ったと、聞いたんだ」
まず最初に来たのは、別の世界から仕事の関係で東京に来ている強いドラゴン。
ちゃんとマナーにのっとって、人間に変身中です。
「あそこの雪は楽しい。俺は今年の1月、あそこの雪を掘って掘って、穴を作って楽しんだ」
あんまり顔に出してはいませんが、どうやらドラゴン、心の底ではしょんぼりしておる様子。
「行ってみたが、積もっていなかった」
しみじみ、ちびちび、一味を少し振った味噌汁でもって、体を温めておりました。
「積もっていると思ったんだ……」
凍てつく星空の下。おでん屋台の一幕でした。
…——「末っ子が立派に育ってくれたのは、間違いなく、まちがいなく、嬉しいんですよ」
次に来たのは、おでん屋台が場所と私道を借りている、稲荷神社在住のオスの稲荷狐。
ちゃんとマナーにのっとって、人間に変身中です。
「あの子が修行に出る。あの子が本格的に、ウチの神社の跡取りとして半年だけ外に出る。
嬉しいことです。でも、でも、寂しいんです……!」
ドチャクソ子煩悩な稲荷狐は、バチクソに目を赤くして、それはそれはもう、今なお泣いています。
「私のことを、ととさん、ととさんと言って、甘えて、一緒に遊んでネンネして」
べろんべろん、ぐでんぐでん、子離れできていないのでしょう、お酒で完全に出来上がっています。
「ああ、ああ、 からだが、かるい。
からだが、たましいが、とんでるようだ」
凍てつく星空の下。おでん屋台の一幕でした。
…——「おや。また脱走してきたのかい」
そろそろ店じまいの頃合い、屋台の店主がテーブルを拭いておった頃に来たのは、掃除ロボット。
マナーもへったくれもありません。
「ここ」の世界とは別の技術、別の方法でもって、
円形自動お掃除ロボットの上に空気清浄機を合体させた、魔改造の結果の機械です。
「おまえさん、ここに来たって、おでんは食べられないし酒も飲めないだろう?」
不思議な魔改造掃除ロボットは、ロボットなので、心なんて高次元なモノはありません。
それでも何かを検知したのか、
うぃんうぃん接近して、うぃんうぃんアームを動かして、うぃんうぃん、うぃんうぃん。
どうやらおでんを、特に餅巾着を買いたい様子。
「稲荷神社に行きたいのかい?」
店主が聞きます。 お掃除ロボットは答えません。
「神社の末っ子子狐に会いたいのかい?」
店主が聞きます。 やっぱり何も、答えません。
「そうかい。そうかい」
凍てつく星空の下。おでん屋台のおはなしでした。
おしまい、おしまい。
12/2/2025, 9:34:34 AM