【世界線管理局 収蔵品
『記憶のランタン』『記録のランタン』
『記々の壁掛けスクリーン』】
記憶と記録、2個で1セットのランタン。
周囲の生命がリアルタイムで忘れていく記憶を、
記録のランタンが収集し、ロウソクに成形する。
記録のランタンが成形した記憶のロウソクを、
記憶のランタンが記録の灯火として燃やす。
記憶のランタンの灯火を影絵に投影して、忘れた記憶の記録映像を出力するための魔法のスクリーンが存在していたものの、
先日ハムスターにかじられ損壊した。
<<ハムスターにかじられ損壊した>>
――――――
あんなに暑かった東京都にも、とうとう冬の足音が、大きく聞こえてくるようになりました。
都内某所には本物の魔女のおばあちゃんが店主をしている、不思議な不思議な喫茶店がありまして、
魔女のおばあちゃんの手元には、いろんな世界から流れ着いた魔法のランタン、神秘のランタン、不思議で奇妙なランタン等々、
ランタンの形をした道具が、静かに、誰にも悪さをせず、キレイに棚に並べられたり、吊られたり。
ところで今回のお題は「記憶のランタン」。
とある滅亡世界から流れ着いた、その世界が「その世界」として間違いなくそこに在った証拠として、
魔女のおばあちゃん・アンゴラが、
時折丁寧に拭いてやったり、たまに火を灯してやったり、そこそこ大事にしてやっておりました
が。
このたび記憶のランタンの付属品を、悪いイタズラハムスターがカジカジ!壊してしまいまして。
「だって!だってすごく噛み心地がよさそうな木材が目の前にあるんだぞ!そりゃ噛むよ!」
ガラガラガラ、がらがらがら!
記憶のランタンの付属品を損壊したハムスターが、
アンゴラに捕縛されて、アンゴラの命令で、アンゴラの大好きなお茶っ葉を、
絶妙な温度でもって、焙煎しています。
ハムがガラガラ回しているのは、ネズミ車の形をした、イタズラハム専用の焙煎器。
イタズラハムは、熱さと冷たさを0.5℃、0.2℃、ともかくその単位で調整できるハムだったので、
ハムがそのチカラを解放して、専用焙煎器に入ってトットコ走りますと、カンペキな温度で焙煎が為されるのでした。
記憶のランタンの付属品、「記々のスクリーン」をカジカジ壊されたアンゴラおばあちゃんは、
イタズラハムが本能のままにスクリーンの木材をカジカジしているところを現行犯。
即座に捕獲して、「おしおき」して、
ハムが本能を理由に全然反省しませんので、
最終的に、ハム専用のガラガラ焙煎器にハムをブチ込み、アンゴラの大好きな紅茶の茶葉を、サッと焙煎させる罰を与えたのでした。
「ほら、あと500g残っているわ。頑張って」
「『頑張って』、じゃないよ!僕のこと毎回毎回、まいかい、こき使って!」
「それは、あなたが私の店の家具家財をかじって傷つけるから、悪いのよ。
さぁさぁ。走った走った。頑張って」
「くぅぅぅぅ!あとで覚えてろよ!」
ちゅーちゅー、ギーギー!
とっとこイタズラハム、ぶつぶつ不平不満を言いながら、回し車式の焙煎器の中で走る、はしる。
「記憶のランタンの灯火、見てみる?」
「なんだって?!」
「あなたが壊した付属品、じゃない方よ。誰かが忘れた記憶のロウソクで、いろんな色に光るの」
「あっそ!」
ガラガラガラ!
結局イタズラハムは始終不機嫌。
記憶のランタンの温かい光も、特にリラックス効果を示しませんでしたとさ。
私の職場の私立図書館の、児童書を置いてる閲覧室に、雪や冬に関する本の特設コーナーができた。
雪の結晶だけ集めた写真集とか、雪の昔話の絵本、
シマエナガの絵本に隠れて、キツネが雪原にぶっ刺さってるシュールが表紙の書籍もある。
誰が置いたか知らないけど、「ワサビのいちねん」っていう本まで一緒に置かれてて、
いつぞやに見たような気がする女の人が、それを子供に読み聞かせしてる。
「ワサビの美しい、白い、小ちゃな花は、
冬への別れを告げる、春の始まりに咲くのじゃ」
同僚というか先輩というか、ともかく「付烏月」って書いてツウキって読む付烏月さんが、
そのワサビの女性を見つけるたび、児童書の閲覧室から引っ張り出して連行してる。
「はいはい。ワサビオバケさんは俺と一緒に向こう言ってましょうねー」
「こりゃ。カラス、おぬし、邪魔をするでない。
ワタクシは今、このワラベたちに、崇高なワサビ様の知恵を説いておるのじゃ」
「はーいお邪魔しました、お邪魔しましたー」
「離せ。離さぬかカラス。これ。許さぬぞよ」
あーはいはい、あーはいはい。
付烏月さんはワサビさん(仮称)を連れて、消えていく。ワサビさんに絵本を呼んでもらってたガキんちょは、ワサビさんにバイバイって手を振ってる。
ひとり、児童室に親御さんが迎えに来た。
常連さんだ。私は向こうを知らないけど、向こうは私を知ってて、同じアパートの階らしい。
今年上京してきたらしくて、冬への準備済みましたか、って昨日聞かれた。
おこたは出したけど特に何もしてない
(冬への準備とは)
12時になって、お昼休憩とご飯のために図書館職員室に戻ってきたら、
藤森っていう前職からの先輩と、例の付烏月さんと、それから後輩になったアーちゃんが、
集まって、ごはん食べて、話をしてた。
「冬への準備?」
俺「は」、一応ウィンターブーツ新調したよん。
付烏月さんは言った。
付烏月さんの前には紙箱が置かれてて、中に淡いクリーム色した付烏月さんの故郷の郷土菓子。
ススキまんじゅう、って言うらしい。
11月11日近辺、丁度寒くなる頃合いに、皆で集まって甘いおまんじゅうを食べる風習があって、
それを、ススキこう、ススキ講と言うらしい。
これもいわゆる冬への準備だ。
「ちなみに、俺は、ブーツ新調したけど、
高葉井ちゃんの好きなルー部長、ソリ買ったよん」
「ソリ。 ……そり?!」
「うん」
「ゲレンデで乗るやつ?」
「うん」
「ルー部長?」
「うん」
「なんで?!」
「覚えたから、乗ってみたいんだってさ」
「なんで、」
「しらなーい」
近々、11月でも12月でも、お気に入りの山が積もったら行って乗ってくるってさ。
付烏月さんはそう言って、全然気にしてない風。
「ルー部長が、ソリ、……ソリ?」
スノボとかスケートとかじゃなくて?ソリ?
私は付烏月さんからの速報に、目が点々。
付烏月さんから貰ったススキまんじゅうを2個3個、ぱくぱくしながら、
付烏月さんが言った「ルー部長」が雪山でソリを乗ってる状況を、4K8K高精細の脳内映像で、
想像して、リピ再生して、冬への理解を高めて、
結果、ポカン。
開いた口が塞がらず、昼休憩が終わった。
前回投稿分の翌日あたり。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこでは、いろんな世界から来た人間、獣人、竜、機械生命体、宇宙タコに幽霊等々、
ともかく、いろんなのが仕事をしておりまして、
皆みんな、それぞれの部署ごとに決められた科だの属だの目だのの、動物の名前をビジネスネームとして、貸与されておったのでした。
収蔵部のドワーフホトと、
経理部のスフィンクスは、
そろそろ4日でも5日でも、いっそ1週間くらい、
日程合わせて休暇をとって、旅行しようと画策中。
スフィンクスの居城たるコタツに入って、
ミカンをムキムキ、クッキーをシュクシュクしながら、パンフタブレットをスワイプするのです。
「観光エクササイズプロジェクト〜?」
「1日ひとつ、合計7個の星を訪問して、それぞれ固有の自然を巡るんだとさ」
「グルメ、スイーツぅ」
「無し」
「なんでぇ」
「エクササイズだからだろ? 行こうぜ」
パンフレットのタブレット板には、満月に照らされたピラミッドと黒いシルエット。
7個巡る観光地のうちの、ひとつを映しています。
それはとても壮大で、美しくて、
なによりこのピラミッドを、スフィンクスもドワーフホトも、知っているのです。
ただドワーフホト、美味しいものが大好きでして。
「ぐーるーめ!ぐーるーめぇ!」
「このピラミッドの中に入れるだけでも、十分いや十二分に申し込む価値あるぜ?」
「美味しいものがなきゃ、観光じゃないよぅ!」
グールメぇ!グールメぇ!
ドワーフホトがリズミカルに言います。
ドワーフホトがメェメェ連呼するものだから、自分を呼ばれておるのかと、メェメェ環境整備部の黒ヤギが確認に来たくらいです。
「ほら、ホト。想像してみろよ」
「ぐーるーめぇ」
「あの日見たピラミッド。頭上に満月。
ピラミッド、君を照らす月、ああ、嗚呼、満月に『この』ピラミッドといえば、あの」
「ごはんー」
「てことで予約しといた」
「グルメ旅行のパッケージにしよーよぉ。美味しいものゼロなんて、耐えられないよぉぉ……」
グールメぇ!グールメぇ!
やっぱりドワーフホトがリズミカルに嘆きます。
ドワーフホトのグルメグルメ連呼に反応したのか、スフィンクスの宝物、水晶のように美しいミカンの形の宝珠、水晶文旦が光り輝きます。
あんまり光るので、近くを通りかかった法務部のツバメが立ち止まるほどです。
「随分眩しいですねスフィンクス査問官」
「この旅行行こうってホトと言い合いしてた」
「ああ。例の」
メェメェ、ぐるめぐるめ。
ドワーフホトはやっぱり少しだけ不満。
タブレットの紹介映像だけが、申し訳程度のお題回収として、ピラミッドを照らす満月の映像を静かに映し出しています。
ああ、嗚呼、ピラミッド。君を照らす月の映像が、まさしく今回の、お題回収だったのです。
今回のお題は「木漏れ日の跡」とのこと。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、木漏れ日のクッキーというお菓子がありますので、
そのおはなしをひとつ、ご紹介します。
世界を繋ぎ、それぞれの自立性と尊厳を守り、
滅んだ世界からの影響を止めることが仕事の、
「世界線管理局」という組織がありまして、
世界線管理局には、たくさんの世界から集められた、技術にせよ道具にせよ魔法の宝物にせよ、
ともかく、様々なものが保管されておりました。
保管されているものの中には既に亡き世界で親しまれていたレシピのような、情報もありまして。
あまたの情報の中のひとつに、「木漏れ日」、
すなわち木漏れ日のクッキーなるお菓子のレシピも、大事に保管されておったのでした。
必要なのは、木漏れ日が持つ光から、魔法の蜜を精製する魔法のミツバチの巣。
コモレビバチといいます。
コモレビバチが作り出す低カロリーな糖類を、たっぷり使って焼き上げられるのが、
既に滅んでしまった某世界で、最期の最後まで愛された、木漏れ日のクッキーなのです。
世界線管理局に勤める、ビジネスネーム・ドワーフホトは、あらゆる世界の美味しいものが大好き!
亡き世界からこぼれ落ちたコモレビバチを回収し、
コモレビバチたちを難民シェルターの森に放ち、
ハチたちのコロニーが十分に育った頃、
木漏れ日のクッキーを作るのに十分な量を、
交渉して、ちょっと折れて、貰ってさっそくキッチンへ行って、かしゃかしゃ、こねこね。
ウサギの形とネコの形、キツネの形にカラスの形、それからミカンの形をしたクッキーが、
温かさをまとって、オーブンから出てきます。
「んーん、いいにおい!
上出来だよぉ。コレはもう、カンペキだよー」
焼き立てクッキーの香りを堪能できるのは、クッキーを作った者の特権です。
「ディップ用のソース、各種できたよん」
お菓子作りを手伝ってくれた、法務部の査問官・カラスが、チョコソース然りフルーツジャム然り、
あらゆる美しいソースを、準備してくれました。
「どーする?味見する?」
「ダーメ」
ルビーのストロベリージャムとアンバーのマーマレードを見ながら、ドワーフホト、言いました。
「味見は、スフィちゃんも一緒〜」
スフィちゃん連れてくるぅ。
ドワーフホトは親友の、経理部のエンジニア・スフィンクスを連れてくるために、
キッチンから、出てゆきました。
「クッキーに合いそうな酒持ってこよっかな……」
カラスもカラスの用事でもって、
キッチンから、出てゆきました。
ここからがお題回収。
そうです。木漏れ日の「跡」です。
「クリア」 「クリア」 「ムーブ」
トトトトトト、たたたたたた!
誰も居なくなったキッチンに、一列数匹のハムスターたちが、周囲を警戒しながらテーブルへ。
「コンタクト」
ハムスターたちは木漏れ日クッキーのお皿に辿り着き、ササッ!と瞬時に展開。
「いそげ」
5次元バッグだかワームホールポケットだか知りませんが、ザッカザッカとクッキーを、
1枚残らず、盗んでしまいました!
「んんー。うまい」
「ジャムどうする?」
「つまみ食いするな。ジャムは諦めろ」
「ナッツクリームは?」
「諦めろ」
撤収、撤収!ゴーゴーゴー!!
トトトトトト、たたたたたた!
ハムスターたちはまんまとクッキーを頂いて、
全速力で、逃走してゆきました。
静かになったキッチンに残されたのは、
まさしくお題の、「木漏れ日の跡」。
木漏れ日クッキーがこんもり盛られておったハズの、美しい大皿と、その上の小さな小さな、とても小さなクッキーの欠片。
「そこに確かに木漏れ日クッキーがあった」という、痕跡だけであったのでした。
「うわぁーん!クッキー消えちゃったぁ!」
木漏れ日クッキーが消えたキッチンにドワーフホトが戻ってきますと、当然クッキーがありません。
「カラスさぁん!!カラスさぁーん!!」
「んー、 うん。 ふーん」
カラスはあちこち徹底的に、丁寧に調査と分析をしまして、結果小さな動物の体毛数本を発見。
「おけ把握」
木漏れ日の跡を追跡すべく、お仕事モードの淡々っぷりで、短く、言うのでした……
窮鼠猫を噛む、追い詰められた狐はジャッカルより凶暴、という言葉があります。
コレを本気でやらかしたハムスターがおりますので、今回はそいつのおはなしをひとつ。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは、たとえば獣人だったり、あるいは機械生命体だったり、宇宙タコだったりと、
人間も、人外も、心も魂も無さそうなモノだって、
動物名のビジネスネームを貸与されて、食堂や居住地区、レジャー施設も完備された職場で、働いておったのでした。
今回お題を回収するのは、セカイバクダンキヌゲネズミの亜種。要するに不思議なハムスター。
名前を、ムクドリといいます。
ところでこのムクドリ、
数ヶ月前からずっとずっと、ずぅーっと、
管理局の某シェルター内にあるコーヒー専門店に閉じ込められておりまして。
罪状は、「こっち」の世界の東京の、某本物の魔女がの喫茶店の、あらゆる高価な家具・器具・調度品を、カジカジして傷つけた器物損壊罪。
『お前がここでコーヒーを売って、累計売上金が貯まったら、そこから出してやりましょう』
とっとこムクドリを監禁した魔女、言いました。
『もし、お前がこの店で、崇高な善なるおこないを為したなら、刑期を少し短くしてやりましょう』
とっとこムクドリに罰を与えた魔女、言いました。
自分でカジカジしたものの費用を、コーヒーの売り上げによって賠償する。
崇高で善良なことを為せば、少し賠償額が減る。
それが、「ささやかな約束」。
他人のものをかじったムクドリと、そのかじられた物の持ち主たる魔女の、お題回収でした。
ガラガラガラ。
とっとこムクドリ、ハムスター用の回し車のような形をした焙煎機を、走って走って回します。
ムクドリは不思議なハムスター。
高きはドチャクソな超高温から、低きは極低温まで、温度を操ることができるのです。
このスキルを使ってムクドリ、それぞれの豆をベストな温度で、焙煎することができるのです。
ガラガラガラ。
注文が入ればとっとこムクドリ、その豆を回し車で焙煎して、クラッシュして、抽出して、
挽きたてを超える、焙煎したてのコーヒーを、
ベストな温度、ベストな時間、ベストな挽き具合でもって淹れて、提供するのです。
すべては魔女との、ささやかな約束。
すべてはコーヒーの売り上げでもって、魔女からの罰を消してもらうこと。
すべては……
「……んああー!!もうイヤだ!!
やってやる!!僕は逃げて、あの魔女に一矢、いや、二矢でも三矢でも、むくいてやる!!」
ちゅー!ちゅー!ギーギー!
数ヶ月のコーヒー専門店員ごっこ、カフェ店員ごっこに疲れたとっとこムクドリの怒りは大噴火!
誰にどうやって作ってもらったか知りませんが、
多連装ミサイルランチャー(ハムスターサイズ)など背負って、カフェから出て、いざ反逆!
自分をカフェに閉じ込めた魔女のもとへ、
トトトトト、とことことこ!
勇ましく走って、
行って数分、管理局の廊下で、
まさかの管理局をドチャクソ敵視している組織のスパイ数人をバッタリ出くわしまして。
「あっ」
「あ、」
「ハムスター?管理局もペット飼ってるの?」
「バカ、違う!あいつも局員だ。見つかったんだ」
「しかも武装してるぞ」
「あ……」
『お前がかじった家具のことは、お前が売ったコーヒーの売上金で相殺してあげる』
『お前が善なる尊い行動をしたら、その分少し、免除してあげる』
魔女とのささやかな約束から、妙な方向に飛んでった、不思議ハムスターの物語でした。
ここから先については、詳しくは語りません。
ただムクドリは結局、多連装ミサイルランチャーでもって、スパイの連中をドン!ちゅどん!
こてんぱんに、やっつけてしまったとさ。