かたいなか

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窮鼠猫を噛む、追い詰められた狐はジャッカルより凶暴、という言葉があります。
コレを本気でやらかしたハムスターがおりますので、今回はそいつのおはなしをひとつ。

「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは、たとえば獣人だったり、あるいは機械生命体だったり、宇宙タコだったりと、
人間も、人外も、心も魂も無さそうなモノだって、
動物名のビジネスネームを貸与されて、食堂や居住地区、レジャー施設も完備された職場で、働いておったのでした。

今回お題を回収するのは、セカイバクダンキヌゲネズミの亜種。要するに不思議なハムスター。
名前を、ムクドリといいます。

ところでこのムクドリ、
数ヶ月前からずっとずっと、ずぅーっと、
管理局の某シェルター内にあるコーヒー専門店に閉じ込められておりまして。
罪状は、「こっち」の世界の東京の、某本物の魔女がの喫茶店の、あらゆる高価な家具・器具・調度品を、カジカジして傷つけた器物損壊罪。

『お前がここでコーヒーを売って、累計売上金が貯まったら、そこから出してやりましょう』
とっとこムクドリを監禁した魔女、言いました。
『もし、お前がこの店で、崇高な善なるおこないを為したなら、刑期を少し短くしてやりましょう』
とっとこムクドリに罰を与えた魔女、言いました。

自分でカジカジしたものの費用を、コーヒーの売り上げによって賠償する。
崇高で善良なことを為せば、少し賠償額が減る。
それが、「ささやかな約束」。
他人のものをかじったムクドリと、そのかじられた物の持ち主たる魔女の、お題回収でした。

ガラガラガラ。
とっとこムクドリ、ハムスター用の回し車のような形をした焙煎機を、走って走って回します。

ムクドリは不思議なハムスター。
高きはドチャクソな超高温から、低きは極低温まで、温度を操ることができるのです。
このスキルを使ってムクドリ、それぞれの豆をベストな温度で、焙煎することができるのです。

ガラガラガラ。
注文が入ればとっとこムクドリ、その豆を回し車で焙煎して、クラッシュして、抽出して、
挽きたてを超える、焙煎したてのコーヒーを、
ベストな温度、ベストな時間、ベストな挽き具合でもって淹れて、提供するのです。

すべては魔女との、ささやかな約束。
すべてはコーヒーの売り上げでもって、魔女からの罰を消してもらうこと。
すべては……

「……んああー!!もうイヤだ!!
やってやる!!僕は逃げて、あの魔女に一矢、いや、二矢でも三矢でも、むくいてやる!!」

ちゅー!ちゅー!ギーギー!
数ヶ月のコーヒー専門店員ごっこ、カフェ店員ごっこに疲れたとっとこムクドリの怒りは大噴火!
誰にどうやって作ってもらったか知りませんが、
多連装ミサイルランチャー(ハムスターサイズ)など背負って、カフェから出て、いざ反逆!
自分をカフェに閉じ込めた魔女のもとへ、
トトトトト、とことことこ!
勇ましく走って、

行って数分、管理局の廊下で、
まさかの管理局をドチャクソ敵視している組織のスパイ数人をバッタリ出くわしまして。
「あっ」
「あ、」
「ハムスター?管理局もペット飼ってるの?」
「バカ、違う!あいつも局員だ。見つかったんだ」
「しかも武装してるぞ」
「あ……」

『お前がかじった家具のことは、お前が売ったコーヒーの売上金で相殺してあげる』
『お前が善なる尊い行動をしたら、その分少し、免除してあげる』
魔女とのささやかな約束から、妙な方向に飛んでった、不思議ハムスターの物語でした。

ここから先については、詳しくは語りません。
ただムクドリは結局、多連装ミサイルランチャーでもって、スパイの連中をドン!ちゅどん!
こてんぱんに、やっつけてしまったとさ。

11/15/2025, 9:58:29 AM