前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某深めな森の中にある不思議な不思議な稲荷神社に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしており、
そのうち末っ子の子狐は、ちょうどお母さん狐から、おつかいを頼まれ、それを成し遂げたところ。
途中、「うぃんうぃんさん」なる掃除ロボットと空気清浄機が合体した妙な機械と遭遇しまして、
こいつを子狐、友達と思っておりましたので、
一緒に、おつかいの品物を運んで、神社の自宅兼宿坊まで、帰ってきたのでありました。
コンコン狐は夜行性。
真夜中に出発したおつかいは、ゆっくり進んでじっくり時間が経って、夜明けの頃に終わりました。
「あら。お友だちを連れてきたのですか?」
子狐を愛情深く、丁寧に撫でながら、うぃんうぃんさんの汚れ具合を見て、お母さん狐が言いました。
「ととさんに、キレイに拭いてもらいましょう。
かかさんはこれから、美味しい美味しいローストポークを仕込むから、ちょっと遊んでらっしゃい」
はい、かかさん!
またあとでね、うぃんうぃんさん!
コンコン子狐、尻尾をビタビタぶん回して上機嫌。
友達マシンがお父さん狐に連れられてゆくのを見送って、お外へ飛び出してゆきました。
子狐には、人間のお得意様がおります。
藤森という名前で、真面目な雪国出身者。
稲荷狐の修行で作ったお餅を買ってくれる人です。
「おとくいさん、おとくいさん」
コンコン子狐、藤森のアパートに直行して、
(セキュリティもロックもどうやって通過したか知りませんが、ともかく狐の不思議なチカラで)
藤森の部屋に、堂々出現。
「おとくいさん?」
おやおや?偶然ながら藤森も、子狐のお母さんと同じように、ローストポークを作り始めています!
「おとくいさん!」
コンコン子狐、尻尾をピンと立てました。
上機嫌なのです。興味があるのです。
「キツネ、てつだう!」
お母さん狐が仕込んでいるであろう料理を、コンコン子狐も擬似的に、作ってみたくなったのです。
「手伝う?」
もはや、稲荷狐が突然自室に出現したことなど、藤森は気にしませんし、驚きません。
「ああ、私の料理を?」
藤森のキッチンの上は、もう終盤も終盤。
あとはお肉の塊を紐で縛って、じっくりじんわり、適切な熱を1〜2時間、通すだけです。
ということで、お題回収に参りましょう。
「よし、それじゃあ子狐、紐を持ってきてくれ」
藤森は既に、必要な長さの料理用タコ糸を、キッチンの上に用意していました。
だけどせっかく子狐が、料理を手伝いたいと言っておるので、新しく糸を切ってキュッキュ、
肉を縛る作業を、一緒にやろうと思ったのでした。
ところで今回のお題は「靴紐」です。
「ひも、ひも!」
コンコン子狐、キッチンから離れて、ばびゅん!
なにやらガタンガタンと音を出して、キャッキャ!
楽しそうな声がしたと思ったら、
「ひも!」
そうです。藤森の靴でひとしきり遊んで、
そして、靴紐を持ってきたのです。
藤森、これにツボってしまいました。
「紐ッ……そうだな、たしかに、『紐』だな。
違うんだ、肉を縛るための紐を持ってきてくれ」
「ひも!」
コンコン子狐、キッチンから離れて、ばびゅん!
またまたガタンガタンと音を出して、キャッキャ!
どこかで遊んでいる声がしたと思ったら、
「ながいひも!」
そうです。藤森の靴の紐をもう1本取ってきて、
そして、2本の靴紐を結び、長くしたのです。
藤森、これにもう轟沈してしまいました。
「そうだな、たしかに、……くぅッ!」
藤森は笑いのツボの中に、落ちてしまいました。
「ありがとう、子狐、その靴紐で遊んでおいで」
「ちがうやい!キツネも、てつだうの」
「もう十分、手伝ってもらったよ。
おかげで今日は、楽しく仕事に行けそうだ」
「おしごと!」
「だから、その靴紐で、遊んでおいで」
何故だ、何故ただの、長くした靴紐程度で。
藤森は妙にツボってしまって、おなかを時々押さえながら頑張って、お肉を料理用の紐で縛りました。
「えいっ、えい!」
子狐はとりあえず、藤森が幸福そうなので、
言われたとおり靴紐で遊んで、暴れて、くるくる回って長い靴紐に絡まって、
いつの間にか、狐団子になってしまって、
「おとくいさん!おとくいさん、たすけて!」
「どうしたこぎつっッ、こぎつね……!!」
そして最後に、藤森の腹筋を崩壊せしめたとさ。
おしまい、おしまい。
前回投稿分に繋がるかもしれないおはなし。
最近最近の都内某所、某深い深い杉林の奥に、
「世界多様性機構」の「領事館」という厨二ふぁんたじー組織の建物がありまして、
これがまさかの、「ここ」ではない別の世界からやって来た組織でありました。
多様性機構の目的は、先進世界の技術を発展途上世界に導入して、発展を手助けすること。
そして、滅亡した世界の生存者を発展途上世界に避難させて、新しい生涯のスタートを支援すること。
領事館は、機構が設置する支援拠点でした。
ところでこの領事館の館長、可哀想なことに、日本に来てから重度も重度のスギ花粉症を発症。
この世界のお掃除ロボットと空気清浄機とを別世界の技術でもって合体させて、自動で動いて空気をキレイにしてくれるロボットを爆誕させました。
その通称を頑張◯ンバといいます。
頑張ル◯バは機械ですから、心がありません。
だけど頑張ルン◯"は妙なことに、
チョウチョを視認すれば追跡するし、
子狐を視認すれば上に乗るまで停止します。
領事館の扉が開いていれば、勝手に外に出ていってしまうことだって、あるのです。
うぃんうぃん、うぃんうぃん。
その日の夜の頑張◯ンバは、頭の上にコンコン、稲荷神社に住まう子狐を乗せておりました。
うぃんうぃん、うぃんうぃん。
その日の夜の頑張ル◯バは、稲荷子狐と一緒に1台1匹で、人の少ない道路を移動しておりました。
「うぃんうぃんさん、まだだよ、まだだよ」
稲荷子狐はお母さん狐にお願いされて、喫茶店の魔女の店主さんから、月のハーブティーを15パック入り1箱でどっさり、仕入れてきたのでした。
「うぃんうぃんさん、おうち着いたら、いっしょにおあげさん食べようね」
子狐が大きな大きなキャリーケースを、ガラガラガラ、引きずっておると、うぃんうぃんうぃん。
領事館から脱走してきた頑張ルン◯"が、何をどうやってそこまで来たのか、
ともかく、子狐の前に来て、そして、一旦停止。
牽引用に付けてもらっておったらしい背面のフックにキャリーを固定して、子狐を頭の上に乗せて、
そして、再発進したのでした。
コンコン子狐はすぐ分かりました。
頑張◯ンバは子狐が、重いキャリーケースに苦戦しておったのを検知して、助けようとしてくれているに違いないのでした。
「まだだよ、まだだよ」
稲荷神社までの道案内をしながら、子狐は頑張ル◯バの汚れを、少し拭いてやりました。
「キツネのおうち、まだだよ、まだだよ」
頑張ルン◯"は元々、屋内用の掃除ロボットであり、屋内用の空気清浄機です。それらの合体物です。
都会のアスファルトの上を走行して、土とホコリでだいぶ汚れてしまったので、
子狐は稲荷神社に到着したら、頑張◯ンバをよくよく拭いて、キレイにしてやろうと思いました。
さてさて、稲荷神社までは、もう少しでしょうか?
「まだだよ。まだ、まだだよ」
魔女の喫茶店から、ずいぶん遠くまで来ました。
稲荷神社はもうすぐでしょうか?
「まだだよ。答えは、まだだよ」
まだ、まだ。 まだ、まだ。
しれっとお題を回収して、うぃんうぃんうぃん。
頑張ル◯バと稲荷子狐は、稲荷神社まで1台と1匹、ゆっくり穏やかにキャリーケースを牽引して、車椅子用のスロープ階段をゆっくり伝って、
そして、子狐のお母さんとお父さんと、おじいちゃんとおばあちゃんが待つ自宅件宿坊まで、移動していったとさ。
海外小説の題名、邦楽の曲名、洋楽の曲名等々、
ネット検索してみるに、どうやら色々な「センチメンタル・ジャーニー」が存在するようです。
今回は普通に、センチメンタルな境遇のハムスターが、都内某所の深夜のおでん屋台まで、
とことこ、ジャーニーしてくるおはなしをご紹介。
「うぅ、まったく、酷い目に遭った」
とととと、とててて。
言葉を離す、なんなら別の世界で労働もしている、不思議なオスのハムスターが、
とっぷり暗くなった真夜中に、人通りの少ない路地をせわしなく歩いておりまして、
ビジネスネームを、カナリアといいました。
「なんで僕ばっかりこんな目に……」
とっとこカナリア、どうやら最近自分の職場で、というのも某管理局の法務部なのですが、
ぽぉん!2回以上、立て続けに高速で打ち上げられてしまうトラブルに遭っておりまして。
そうです。前回投稿分と、前々回投稿分です。
都内で1回、自分の職場で1回。
とっとこカナリア、打ち上げられたのです。
「酷いやい。ひどいやい……」
もとより、体の小さなカナリアです。
前々回投稿分では強いつよい風に吹かれて、
前回投稿文では何がどうなったやら。
ぽぉん!射出も同然に打ち上げられて、帰ってきたら別の場所でまた打ち上げられて。
その日のカナリア、本当に運が悪かったのでした。
「もう、今日は、飲もう。この近くに、深夜だけ開いてる、人外向けのおでん屋台があったハズだ」
飲もう。飲んで気分を少しでも上げよう。
ここ最近運が悪い気がするとっとこカナリア、センチメンタルなジャーニーです。
枝豆といくつかのチーズも貰おう。
ここ最近理不尽に遭ってる気がするとっとこカナリア、おでん屋台に向けてジャーニーです。
「店主さん、こんばんは——」
やがて、人間に化けた大古蛇のおやっさんの、おでん屋台が見えてきましたので、
カナリアは椅子をよじ登り、カウンターにもよじ登り、支払いリングを見せまして、
「——あれ?敵対組織の領事館の館長さん?」
隣の席を見ますと、わお、びっくりしたのでした。
カナリアの職場をドチャクソに敵視しておるところの人間の男性が、突っ伏して、寝ておるのです。
「領事館って職場から、歩いてきたそうだよ」
小ちゃなコップにお酒を入れて、店主が言います。
「なんでも、東京に来てから重度のスギ花粉症で、
その花粉症を軽減するために移動式の空気清浄機ロボットを作ったらしいけれど、
そのロボットが黒いアゲハチョウを追いかけてどこかに行っちゃったらしくて」
ロボットを探して、ジャーニーしてきたらしいよ。
センチメンタルなお客さんの背中を見ながら、
店主さん、ぽつりと続けたのでした。
「はぁ。空気清浄機が」
「目を離したスキに出てったらしいよ」
「空気清浄機が?」
「そう。空気清浄機が」
「じゃあ僕のハナシも聞いておくれよ。
僕なんか、すごい理不尽を被ったんだ」
あのね、まず喫茶店に行ったんだけどね。
おでん屋台で燻製チーズと、枝豆とお酒を堪能しながら、とっとこカナリア言いました。
こうなって、ああなって、この屋台に歩いてきたのだと、センチメンタル・ジャーニーを語りました。
だって2回も、ぽぉん!空を飛んだのです。
酷いったらないのです。
「労災って降りるのかな」
「さぁ?お客さんのボスに聞いてみたらどうだい」
「僕のボス、タコだもんなぁ……」
「お水飲む?」
「酔ってないよ。ホントにタコなんだ」
「お水にしておくよ」
「ホントだよ。信じておくれよ……」
ちゅーちゅー、ちゅーちゅー。
とっとこカナリアは抗議をしながら、しかしチーズが美味いので、お酒が進む、進む。
「はぁ……」
自然と出てくるため息は、最近のカナリアの苦労を、表しておったとか別に何でもないとか。
ちびちびコップに舌をつけるカナリアの背後を、
うぃんうぃん、何かが通っていったとさ。
おしまい、おしまい。
最近はなかなか雨が多くて、なにより夜空というものをそもそも意図的に見上げませんので、
誰かと、月を見上げるようなことを、とんとしなくなった気がする物書きです。
特にロマンチックなハナシも浮かびませんので、ひとまずこんなおはなしを、ご用意しました。
最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
ドワーフホトというビジネスネームと、
スフィンクスというビジネスネームの、
女性が2人、仲良しで勤務しておりました。
ドワーフホトとスフィンクスは、入局当時の初期初期の初期から、とってもとっても仲良し!
仕事が終わったら一緒に晩ごはんを食べたり、
その晩ごはんをドワーフホトが作ったり、
なんなら一緒に宅飲みしたり。
とっても楽しく、とっても幸福にしておりました。
ところで今回のお題は「君と見上げる月…🌙」ですね。はい。月を作ってもらいましょう。
すなわち管理局内の難民シェルターで育てられた高級食材、金のハーブと宝石豆と、宇宙麦で育てられたダチョウクイーンの卵を使った、
ドチャクソラグジュアリーで、バァチクソリッチで、抜群に栄養バランスの整った目玉焼きです。
お値段1個、なんと管理局員の給料2週間分相当。
卵としては、目ん玉が飛び出る価格なのです。
「スフィちゃーん、お皿、準備しといてぇ」
「もうしてるぜ。デッカイのとデッカイの」
「ありがとー」
「たぁぁすけてぇぇぇぇ……」
「えっ?」 「あ?」
「今の、だれぇ?」 「なにが?」
「『たすけてぇ』って」 「俺じゃねぇよ?」
「ぇえ〜……??」 「うん」
パチパチパチ、くつくつくつ。
何か妙な音声がふたりの部屋の外を右から左へ、通り過ぎましたが、気にしない。
サンストーンかマンダリンガーネットのような黄身が、シルクかムーンストーンのような白身み包まれて、とろり半熟に温められています。
ダチョウクイーンの卵の生産者さんは、目玉焼きを作るなら是非1個、両面焼きのオーバーイージーで作ってほしいと、ドワーフホトに言いました。
両面カリカリかつ、黄身にトロトロが残る程度の焼き加減で、これにトロトロチーズとカリカリベーコンが、絶品とのことでした。
「よぉし。できるもん。あたし、やるもん……」
サササ、しゃかしゃか、サササ、しゃかしゃか。
ドワーフホトがフライパンをゆすって、目玉焼きの具合を確認します。よくよく滑るようです。
「イチニのサンだよぉ、イチニの、サンだよぉ」
大丈夫、大丈夫。あたし、できる!
シャカシャカ、しゃかしゃか、ぶん!
ドワーフホトは決心して、覚悟して、一気にフライパンを跳ね上げました。
ここからお題回収です。
「君と見上げる月…🌙」です。
そうです。ドワーフホトはフライパンで、月を、
丸いまるい大きな目玉焼きを、打ち上げたのです。
「あぁっ……」「ぉお……」
ドワーフホトも、スフィンクスも、あんぐり。
口が開きっぱなしで、目玉焼きの月を見上げます。
「あ——!!」「あー」
ドワーフホトとスフィンクス、
君と見上げる月は美しく、きれいな焼色の白身と丁度良い具合の黄身の円です。
放物線が頂点に到達し、落下を始めます。
ドワーフホトもスフィンクスも、見上げた月を双方の視線でもって、追っています。
背景に、夜空の窓が入ります。カーテンを引くのを忘れておったので、黒曜石の夜空が見えます、
窓の外を左から右へハムスターのような何かが通り過ぎ「やぁぁぁなんでぇぇぇぇ……」。
「ん!」
落下点で待ち受けたスフィンクスが、絶妙なタイミングで皿を出し、目玉焼きムーンをキャッチ!
すべては、事なきを得たのでした。
「ねぇ」 「あ?」
「今の、だれぇ」 「なにが?」
「やっぱり何か飛んでったよぉ」 「知らねぇな」
「ぅうぅ〜……??」 「うん」
妙なものが映り込みましたが、細かいことを気にしてはいけません。なんでもないのです。
「ひとまず、このデカいの食おうぜ」
スフィンクスは大きな大きな、つい今しがたキャッチしたダチョウクイーンの目玉焼きに、
ベーコンと、トロトロチーズを、双方のせまして、
カシカシ、とろり。
2人分になるように、真ん中で切り分けました。
「わぁ……!」
「最高じゃねえの」
さぁさぁ、晩ごはんを始めましょう。
ダチョウクイーンの卵はまだ残っていますが、まずこの目玉焼きを、ついさっき一緒に見上げたお月様を、できたての間に食べましょう。
「んんー、トロットロ〜」
「おいホト、柚子塩とコショウ取ってくれ」
「おっけー」
ドワーフホトとスフィンクスは、二人でとても幸福に、その日の終りの美味を堪能しました。
翌日ドワーフホトは昼休憩中、自分の部署の仲間に昨晩の、何かが通って何かが聞こえたハナシをして情報収集をしたところ、
なんでも昨晩から、法務部のハムスターもとい局員が、1匹ゲホゲホひとり、行方不明になってその後無事発見されたとか。 おしまい、おしまい。
政治的空白、精神的空白、体系的空白、等々。
「的空白」で検索をかけると、意外と色々な空白が出てくるようで、なかなか興味深いのです。
今日は別に政治でも精神でもなく、ただの「空白という略称」のおはなしを、ひとつご紹介。
別世界出身のドラゴンが人間に変身して、
東京のイベントの視察をして、
着ぐるみの常套句「中の人など居ない」を「中身が無くて空白」と勘違いしておった頃。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、そのドラゴンが法務部の特殊即応部門長を勤めている「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織があり、
ここの難民シェルターは、それはそれは、規模も面積も、高度も深度も体積も、規格外でした。
だって文字通り、地球1個分くらい広いのです。
これぞ空間拡張技術の局地なのです。
で、そんな広いひろい難民シェルターなので、
様々なレストラン、様々な喫茶店、様々なお菓子屋さんが存在しておりまして、
故郷の世界が滅んでしまって管理局の難民シェルターに収容された者たちは、日々の3食とおやつと夜食に対してとっても満足。
その素晴らしさは、管理局の局員までも、とりこにしておるのでした。
で、それと今回のお題がどう繋がるかというと。
つまり、「空白スイーツ」という略称のお菓子シリーズが、シェルター内にあるのです。
それは「スカイホワイト」というお店で食べる、
スカイホワイトの名を冠した、とびきりフワフワで優しくシュワシュワで、まるでホワイトサワーのような爽やかさを伴った美味でした。
ゆえに、「空白スイーツ」と言われるのでした。
で、この空白、ドチャクソに人気店なのです。
予約チケットは抽選方式。
収容されている難民たちを最優先に抽選するので、
管理局員の当選は、ガチャのピックアップSSRをピンポイントで単発1枚抜きする程度の確率。
なかなか、鬼畜なのです。
このSSR単発1枚抜きを3枚、どうしても、どうしても明後日の日付で欲しい管理局員が、
冒頭の別世界ドラゴンが「『中の人など居ない』は空白です」の勘違いをキメておる某稲荷神社に、
願掛けのために、参拝しておりました。
「神様、どうか、どぉーか、お願いします」
大きめの小銭をジャラン、お賽銭して、ガラガラ!
予約ガチャで3枚、優勝したい局員さんが、真剣にお願いしています。
「あたしと、スフィちゃんとぉ、それからコンちゃんの分!どうか、どぉーか!3枚ぃ……!」
コンちゃんは、この稲荷神社に住まう稲荷子狐。
スフィちゃんはこの局員の、大親友でした。
「そろそろ、コンちゃんと知り合って、1周年なの。1周年をどうか、空白スイーツでぇ……!!」
空白スイーツで、あのスカイホワイトで、
どうかどうか、祝わせてください。
祝うための運を、あたしに分けてください。
局員はパンパン、二礼二拍手一礼で、祈りました。
「おねちゃん、おけしょーの、おねーちゃん、」
よじよじ。管理局員の背中を登って、神社の稲荷子狐が局員に聞きました。
「その、クウハク、空白スイーツって、なに?」
稲荷の子狐です。御狐の見習いです。ちゃんと御狐としての名前もこの前授かったのです。
条件によっては稲荷子狐、色々、考えるのです。
「空白スイーツってねぇ」
稲荷子狐を腕に抱いてやって、管理局員、子狐の背中を優しく撫でます。
「『スカイ』『ホワイト』ってくらいだから、空を、特に青空をモチーフにしたお店なんだよー。
空白スフレ、空白わたあめ、空白ソーダフラッペ。
フワフワで、シュワシュワで、心がサっと、一気に晴れちゃうようなスイーツばっかりぃ」
それはそれは、もう、それは。美味しいんだよ。
局員はお品書きを想像するだけで、既に少し、幸福であったのでした。
「おいしい?」
「うん。すっごく、美味しぃ」
「あまい?」
「甘いのも、サッパリのも、あるぅ」
「かかさんに、ととさんに、おみやげ!」
「コンちゃんのお母さん、お茶っ葉屋さんだっけ。
たしかティーシュガー、あるよ。ティーシロップもあるから、喜ばれると思うよぉ」
「おお、おおおお……!!」
キツネ、空白スイーツ、たべたい!
稲荷子狐は尻尾を高速回転させるほどの大フィーバーに突入しましたが、
なにせまだ、予約に当選していません。
「また今度ね。コンちゃん」
局員は稲荷神社を去ってゆきました。
地面に降りた子狐は尻尾がビタンビタンでした。
「くーはくスイーツ、空白スイーツ!」
稲荷子狐はコンコン、既に局員の予約枠が当選したつもりでおりました。
でも予約日はまだ先です。コンコン子狐、予約日までの空白を、さて我慢できるでしょうか——?