かたいなか

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政治的空白、精神的空白、体系的空白、等々。
「的空白」で検索をかけると、意外と色々な空白が出てくるようで、なかなか興味深いのです。
今日は別に政治でも精神でもなく、ただの「空白という略称」のおはなしを、ひとつご紹介。

別世界出身のドラゴンが人間に変身して、
東京のイベントの視察をして、
着ぐるみの常套句「中の人など居ない」を「中身が無くて空白」と勘違いしておった頃。

「ここ」ではないどこか、別の世界に、そのドラゴンが法務部の特殊即応部門長を勤めている「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織があり、
ここの難民シェルターは、それはそれは、規模も面積も、高度も深度も体積も、規格外でした。

だって文字通り、地球1個分くらい広いのです。
これぞ空間拡張技術の局地なのです。

で、そんな広いひろい難民シェルターなので、
様々なレストラン、様々な喫茶店、様々なお菓子屋さんが存在しておりまして、
故郷の世界が滅んでしまって管理局の難民シェルターに収容された者たちは、日々の3食とおやつと夜食に対してとっても満足。
その素晴らしさは、管理局の局員までも、とりこにしておるのでした。

で、それと今回のお題がどう繋がるかというと。
つまり、「空白スイーツ」という略称のお菓子シリーズが、シェルター内にあるのです。
それは「スカイホワイト」というお店で食べる、
スカイホワイトの名を冠した、とびきりフワフワで優しくシュワシュワで、まるでホワイトサワーのような爽やかさを伴った美味でした。
ゆえに、「空白スイーツ」と言われるのでした。

で、この空白、ドチャクソに人気店なのです。
予約チケットは抽選方式。
収容されている難民たちを最優先に抽選するので、
管理局員の当選は、ガチャのピックアップSSRをピンポイントで単発1枚抜きする程度の確率。
なかなか、鬼畜なのです。

このSSR単発1枚抜きを3枚、どうしても、どうしても明後日の日付で欲しい管理局員が、
冒頭の別世界ドラゴンが「『中の人など居ない』は空白です」の勘違いをキメておる某稲荷神社に、
願掛けのために、参拝しておりました。

「神様、どうか、どぉーか、お願いします」
大きめの小銭をジャラン、お賽銭して、ガラガラ!
予約ガチャで3枚、優勝したい局員さんが、真剣にお願いしています。
「あたしと、スフィちゃんとぉ、それからコンちゃんの分!どうか、どぉーか!3枚ぃ……!」
コンちゃんは、この稲荷神社に住まう稲荷子狐。
スフィちゃんはこの局員の、大親友でした。

「そろそろ、コンちゃんと知り合って、1周年なの。1周年をどうか、空白スイーツでぇ……!!」
空白スイーツで、あのスカイホワイトで、
どうかどうか、祝わせてください。
祝うための運を、あたしに分けてください。
局員はパンパン、二礼二拍手一礼で、祈りました。

「おねちゃん、おけしょーの、おねーちゃん、」
よじよじ。管理局員の背中を登って、神社の稲荷子狐が局員に聞きました。
「その、クウハク、空白スイーツって、なに?」
稲荷の子狐です。御狐の見習いです。ちゃんと御狐としての名前もこの前授かったのです。
条件によっては稲荷子狐、色々、考えるのです。

「空白スイーツってねぇ」
稲荷子狐を腕に抱いてやって、管理局員、子狐の背中を優しく撫でます。
「『スカイ』『ホワイト』ってくらいだから、空を、特に青空をモチーフにしたお店なんだよー。
空白スフレ、空白わたあめ、空白ソーダフラッペ。
フワフワで、シュワシュワで、心がサっと、一気に晴れちゃうようなスイーツばっかりぃ」
それはそれは、もう、それは。美味しいんだよ。
局員はお品書きを想像するだけで、既に少し、幸福であったのでした。

「おいしい?」
「うん。すっごく、美味しぃ」
「あまい?」
「甘いのも、サッパリのも、あるぅ」
「かかさんに、ととさんに、おみやげ!」
「コンちゃんのお母さん、お茶っ葉屋さんだっけ。
たしかティーシュガー、あるよ。ティーシロップもあるから、喜ばれると思うよぉ」

「おお、おおおお……!!」

キツネ、空白スイーツ、たべたい!
稲荷子狐は尻尾を高速回転させるほどの大フィーバーに突入しましたが、
なにせまだ、予約に当選していません。
「また今度ね。コンちゃん」

局員は稲荷神社を去ってゆきました。
地面に降りた子狐は尻尾がビタンビタンでした。
「くーはくスイーツ、空白スイーツ!」
稲荷子狐はコンコン、既に局員の予約枠が当選したつもりでおりました。
でも予約日はまだ先です。コンコン子狐、予約日までの空白を、さて我慢できるでしょうか——?

9/14/2025, 3:13:46 AM