海外小説の題名、邦楽の曲名、洋楽の曲名等々、
ネット検索してみるに、どうやら色々な「センチメンタル・ジャーニー」が存在するようです。
今回は普通に、センチメンタルな境遇のハムスターが、都内某所の深夜のおでん屋台まで、
とことこ、ジャーニーしてくるおはなしをご紹介。
「うぅ、まったく、酷い目に遭った」
とととと、とててて。
言葉を離す、なんなら別の世界で労働もしている、不思議なオスのハムスターが、
とっぷり暗くなった真夜中に、人通りの少ない路地をせわしなく歩いておりまして、
ビジネスネームを、カナリアといいました。
「なんで僕ばっかりこんな目に……」
とっとこカナリア、どうやら最近自分の職場で、というのも某管理局の法務部なのですが、
ぽぉん!2回以上、立て続けに高速で打ち上げられてしまうトラブルに遭っておりまして。
そうです。前回投稿分と、前々回投稿分です。
都内で1回、自分の職場で1回。
とっとこカナリア、打ち上げられたのです。
「酷いやい。ひどいやい……」
もとより、体の小さなカナリアです。
前々回投稿分では強いつよい風に吹かれて、
前回投稿文では何がどうなったやら。
ぽぉん!射出も同然に打ち上げられて、帰ってきたら別の場所でまた打ち上げられて。
その日のカナリア、本当に運が悪かったのでした。
「もう、今日は、飲もう。この近くに、深夜だけ開いてる、人外向けのおでん屋台があったハズだ」
飲もう。飲んで気分を少しでも上げよう。
ここ最近運が悪い気がするとっとこカナリア、センチメンタルなジャーニーです。
枝豆といくつかのチーズも貰おう。
ここ最近理不尽に遭ってる気がするとっとこカナリア、おでん屋台に向けてジャーニーです。
「店主さん、こんばんは——」
やがて、人間に化けた大古蛇のおやっさんの、おでん屋台が見えてきましたので、
カナリアは椅子をよじ登り、カウンターにもよじ登り、支払いリングを見せまして、
「——あれ?敵対組織の領事館の館長さん?」
隣の席を見ますと、わお、びっくりしたのでした。
カナリアの職場をドチャクソに敵視しておるところの人間の男性が、突っ伏して、寝ておるのです。
「領事館って職場から、歩いてきたそうだよ」
小ちゃなコップにお酒を入れて、店主が言います。
「なんでも、東京に来てから重度のスギ花粉症で、
その花粉症を軽減するために移動式の空気清浄機ロボットを作ったらしいけれど、
そのロボットが黒いアゲハチョウを追いかけてどこかに行っちゃったらしくて」
ロボットを探して、ジャーニーしてきたらしいよ。
センチメンタルなお客さんの背中を見ながら、
店主さん、ぽつりと続けたのでした。
「はぁ。空気清浄機が」
「目を離したスキに出てったらしいよ」
「空気清浄機が?」
「そう。空気清浄機が」
「じゃあ僕のハナシも聞いておくれよ。
僕なんか、すごい理不尽を被ったんだ」
あのね、まず喫茶店に行ったんだけどね。
おでん屋台で燻製チーズと、枝豆とお酒を堪能しながら、とっとこカナリア言いました。
こうなって、ああなって、この屋台に歩いてきたのだと、センチメンタル・ジャーニーを語りました。
だって2回も、ぽぉん!空を飛んだのです。
酷いったらないのです。
「労災って降りるのかな」
「さぁ?お客さんのボスに聞いてみたらどうだい」
「僕のボス、タコだもんなぁ……」
「お水飲む?」
「酔ってないよ。ホントにタコなんだ」
「お水にしておくよ」
「ホントだよ。信じておくれよ……」
ちゅーちゅー、ちゅーちゅー。
とっとこカナリアは抗議をしながら、しかしチーズが美味いので、お酒が進む、進む。
「はぁ……」
自然と出てくるため息は、最近のカナリアの苦労を、表しておったとか別に何でもないとか。
ちびちびコップに舌をつけるカナリアの背後を、
うぃんうぃん、何かが通っていったとさ。
おしまい、おしまい。
9/16/2025, 8:41:56 AM