かたいなか

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最近はなかなか雨が多くて、なにより夜空というものをそもそも意図的に見上げませんので、
誰かと、月を見上げるようなことを、とんとしなくなった気がする物書きです。
特にロマンチックなハナシも浮かびませんので、ひとまずこんなおはなしを、ご用意しました。

最近最近のおはなしです。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
ドワーフホトというビジネスネームと、
スフィンクスというビジネスネームの、
女性が2人、仲良しで勤務しておりました。

ドワーフホトとスフィンクスは、入局当時の初期初期の初期から、とってもとっても仲良し!
仕事が終わったら一緒に晩ごはんを食べたり、
その晩ごはんをドワーフホトが作ったり、
なんなら一緒に宅飲みしたり。
とっても楽しく、とっても幸福にしておりました。

ところで今回のお題は「君と見上げる月…🌙」ですね。はい。月を作ってもらいましょう。
すなわち管理局内の難民シェルターで育てられた高級食材、金のハーブと宝石豆と、宇宙麦で育てられたダチョウクイーンの卵を使った、
ドチャクソラグジュアリーで、バァチクソリッチで、抜群に栄養バランスの整った目玉焼きです。

お値段1個、なんと管理局員の給料2週間分相当。
卵としては、目ん玉が飛び出る価格なのです。

「スフィちゃーん、お皿、準備しといてぇ」
「もうしてるぜ。デッカイのとデッカイの」
「ありがとー」
 「たぁぁすけてぇぇぇぇ……」

「えっ?」 「あ?」
「今の、だれぇ?」 「なにが?」
「『たすけてぇ』って」 「俺じゃねぇよ?」
「ぇえ〜……??」 「うん」

パチパチパチ、くつくつくつ。
何か妙な音声がふたりの部屋の外を右から左へ、通り過ぎましたが、気にしない。
サンストーンかマンダリンガーネットのような黄身が、シルクかムーンストーンのような白身み包まれて、とろり半熟に温められています。

ダチョウクイーンの卵の生産者さんは、目玉焼きを作るなら是非1個、両面焼きのオーバーイージーで作ってほしいと、ドワーフホトに言いました。
両面カリカリかつ、黄身にトロトロが残る程度の焼き加減で、これにトロトロチーズとカリカリベーコンが、絶品とのことでした。
「よぉし。できるもん。あたし、やるもん……」

サササ、しゃかしゃか、サササ、しゃかしゃか。
ドワーフホトがフライパンをゆすって、目玉焼きの具合を確認します。よくよく滑るようです。
「イチニのサンだよぉ、イチニの、サンだよぉ」
大丈夫、大丈夫。あたし、できる!
シャカシャカ、しゃかしゃか、ぶん!
ドワーフホトは決心して、覚悟して、一気にフライパンを跳ね上げました。

ここからお題回収です。
「君と見上げる月…🌙」です。
そうです。ドワーフホトはフライパンで、月を、
丸いまるい大きな目玉焼きを、打ち上げたのです。

「あぁっ……」「ぉお……」
ドワーフホトも、スフィンクスも、あんぐり。
口が開きっぱなしで、目玉焼きの月を見上げます。
「あ——!!」「あー」
ドワーフホトとスフィンクス、
君と見上げる月は美しく、きれいな焼色の白身と丁度良い具合の黄身の円です。

放物線が頂点に到達し、落下を始めます。
ドワーフホトもスフィンクスも、見上げた月を双方の視線でもって、追っています。
背景に、夜空の窓が入ります。カーテンを引くのを忘れておったので、黒曜石の夜空が見えます、
窓の外を左から右へハムスターのような何かが通り過ぎ「やぁぁぁなんでぇぇぇぇ……」。

「ん!」
落下点で待ち受けたスフィンクスが、絶妙なタイミングで皿を出し、目玉焼きムーンをキャッチ!
すべては、事なきを得たのでした。

「ねぇ」 「あ?」
「今の、だれぇ」 「なにが?」
「やっぱり何か飛んでったよぉ」 「知らねぇな」
「ぅうぅ〜……??」 「うん」

妙なものが映り込みましたが、細かいことを気にしてはいけません。なんでもないのです。
「ひとまず、このデカいの食おうぜ」
スフィンクスは大きな大きな、つい今しがたキャッチしたダチョウクイーンの目玉焼きに、
ベーコンと、トロトロチーズを、双方のせまして、
カシカシ、とろり。
2人分になるように、真ん中で切り分けました。

「わぁ……!」
「最高じゃねえの」

さぁさぁ、晩ごはんを始めましょう。
ダチョウクイーンの卵はまだ残っていますが、まずこの目玉焼きを、ついさっき一緒に見上げたお月様を、できたての間に食べましょう。
「んんー、トロットロ〜」
「おいホト、柚子塩とコショウ取ってくれ」
「おっけー」
ドワーフホトとスフィンクスは、二人でとても幸福に、その日の終りの美味を堪能しました。

翌日ドワーフホトは昼休憩中、自分の部署の仲間に昨晩の、何かが通って何かが聞こえたハナシをして情報収集をしたところ、
なんでも昨晩から、法務部のハムスターもとい局員が、1匹ゲホゲホひとり、行方不明になってその後無事発見されたとか。 おしまい、おしまい。

9/15/2025, 5:43:12 AM