かたいなか

Open App
9/2/2025, 9:47:44 AM

私、永遠の後輩こと高葉井には、アテビさん、アーちゃんっていう今年からの友人が居るんだけど、
実はそのアーちゃん、東京に来て初めて買ったっていう黄色の小さな一輪挿しを、
今年の4月、真っ二つに割ってしまった。

すっッごく大事なものだったらしくて、
私が知人のカップリング信者仲間の金継ぎ師(アマチュア)を紹介したら、
ふたつ返事で、「会わせてください」って。
小さくても金継ぎだから、1万以上かかった。

アーちゃんの一輪挿しは、4月、ツルカプ信者仲間に託されて、当初の完成予定は7〜8月。
実際、私のスマホに修理完了のメッセが届いたのは、夏の終わり付近、先月の20日頃。
『都合の良い日に取りにきてくれ』
とのことだった。

すっかり忘れてたけど今9月だよね
(諸事情あって以下略)
まだ暑いけど、そろそろ、秋だよね
(アーちゃんも諸事情で略)

夏の忘れ物を探しに、というか受け取りに、
アーちゃんに声をかけて、一緒に行ってきた。

「ホントに、ありがとうございます」
互いの多忙で2週間くらい、忘れられてた忘れ物を、二人して取りに行く間、アーちゃんは何度も私にお礼して、ドキドキしてるみたいだった。
「どんな仕上がりになってるんだろう。
ああ、怖いけど、楽しみだけど、こわい……」

修理完了記念で一緒にスイーツでも、ってアーちゃんを誘ったけど、
なんでも、アーちゃんの方の諸事情が、まだ終わってないらしい。「聴取がある」って言ってた。
何の聴取かは分からないけど、一輪挿しを受け取ったら、その足でテキトーに箱菓子買って、戻らなきゃならないらしい。

聴取に箱菓子ってそれ聴取よりインタビューでは
(しらぬ)

さぁ、夏の忘れ物を探しに、受け取りにいこう。
アーちゃんの一輪挿しを、見に行こう。

「おお!高葉井氏、アテビ氏、待ちかねた所存」
ツル信者仲間の同志のアトリエに行くと、向こうは私にすぐ気付いて、出迎えてくれた。
「ご依頼頂いた品は、どこに保管しておったか。んんん、小生、一生というか1年くらいの不覚」
同志さんは、完成品を入れた桐箱が整然と並んだ棚をずらぁーっと見渡して、
アーちゃんの一輪挿しを――私とアーちゃんの「夏の忘れ物」を、探してくれた。
「あった!これである。

さぁ、アテビ氏。仕上がりを確かめてくだされ」

同志さんが桐箱から、黄色い一輪挿しを出す。
アーちゃんが真っ二つにしてしまった黄色の一輪挿しは、キレイに直ってた。
縦に割れた一輪挿しのヒビを、金継ぎの技術でもって若木に見立てて、
その若木から蒔絵の技術で、ひとひら、ひとひら。
桜の花と桜吹雪を描いた蒔絵が飾ってる。
薄黄色の背景と合わせて、とても明るく、とても春らしい美しさが、そこにあった。

「わぁ……」
アーちゃんは、しばらくの間、一輪挿しに触れないでいた。ただ、周囲の空気だけ触ってた。
「直った、きれい、ああ、あぁ……
ありがとうございます、ありがとうございます」
最終的に感極まっちゃったらしい。
アーちゃんは静かに涙を数粒、落とした。

「もてない、持てません」
「持たないと持って帰れないよアーちゃん」
「だって、私が持ったら、また落としちゃう」
「大丈夫だって」

「うぅぅ、うえぇぇ。ありがとうございます……」
「はいはい」

何度も何度も、同志さんと私にお辞儀して、
同志さんからサービスに、桐箱の中にドチャクソいっぱい緩衝材を入れてもらって、
アーちゃんは、金継ぎ修理の支払いを済ませた。
「良かった。本当に、頼んで良かった、です」
このご恩は必ず返します。
アーちゃんはそう言って、「聴取」がどうってハナシもあって、足早に帰ってった。

結局聴取が何なのか、私にはサッパリだけど、
後日アーちゃんから聞いた後日談によれば、金継ぎで直してもらった一輪挿しは、
その後ゼッタイ落とさないように、落としても割れないように、下にマットを敷いたり一輪挿しを置く場所を変えたりして、毎日、見てるらしかった。

9/1/2025, 9:16:36 AM

今回のお題が配信されて、「この日この自国、何か大事な出来事でもあったっけ」と、ネットをドチャクソに探し回った物書きです。
最高気温、事件、地震発生履歴にスポーツ、
色々かき回した結果、「熱中症の患者が急増するのは、午後5時を起点に前後1時間」という情報をニュースでゲット。
水分補給と日陰の確保に気をつけたいものです。

と、いうハナシは置いといて、今回のおはなしのはじまり、はじまり。 いろんな場所の8月31日、午後5時のおはなしです。


まず最初の午後5時は、都内某所、某稲荷神社の敷地内にある、宿坊兼神職さんの自宅。
中では本物の稲荷狐の一家の末っ子が、子狐にはちょっと大きめのリュックサックに、
参拝者さんの実家で作ったという特製さつまいもチップスを詰めておりました。

「よいしょ。よいしょ」
末っ子子狐は一生懸命、リュックにチップスの袋を1個2個、押し込みます。
「よいしょ。よいしょ」
狐は肉食寄りの雑食性で、甘い野菜が大好き!
野生化では特にトウモロコシを好みますが、稲荷のコンコン子狐、さつまいもの甘さを、よくよく学習しておるのでした。
「よし!入った!」

どうやらこの稲荷子狐、大好きな絶品チップスを、食いしん坊仲間の人間とシェアしたい様子。
器用にリュックを背負いまして、とってって、ちってって。出かけてゆきました。
丁度8月31日、午後5時のことでした。


次の午後5時のおはなしは「ここ」ではないどこか。「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織。
法務部執行課のオフィスでの出来事。
お客さんはいわゆる「敵対組織」の元構成員で、
これから聴取を受けるところ。
お客さんはビジネスネームをアテビといいました。

「えっとねぇ、ミルクティーとぉ、クッキーと、
コンちゃん特製のお餅もどーぞ」
聴取にあたって、なぜか法務部ではなく、収蔵部の可愛らしい女性局員が絶賛対応中。
「さつまいもチップスも到着予定だよ〜」
さぁさぁ、どうぞ。
女性局員はアテビのティーカップに、タパパトポポ、丁度良い温度のミルクティーを注ぎました。

困惑気味なのが聴取予定の法務部職員です。
だって「聴取」です。「接待」じゃないのです。
なのにお茶は出てくるし、良い香りのフレグランスが香炉から広がってくるし、お菓子もたくさん。
しかも、さつまいもチップス??

「おい。何の真似だ」
法務部さん、収蔵部さんに聞きました。
「聴取の妨害でもするつもりか?」

「だってー、アーちゃん、怖がってるもん」
法務部にもお茶を注いで、収蔵部さんが答えます。
「アーちゃんは、あたしの一応、お友達なんだから。手荒な真似したら許さないよー」

大丈夫だからねアーちゃん。
アーちゃんのことは、あたしが守ったげるぅ。
収蔵部さんはそう言うと、にっこり、笑います。
だいたい8月31日、午後5時を過ぎた頃でした。


最後の午後5時のおはなしも、管理局の中。
最初のおはなしに登場した子狐が、とてててて、ちてててて、管理局の廊下を歩いています。

「おねーちゃん、おねーちゃん、どこ」
コンコン子狐、食いしん坊仲間の人間を探して、とてててて、ちてててて。
子狐の盟友は収蔵部職員なのですが、
何故か今日に限って、その収蔵部オフィスにも、その局員が担当している収蔵庫にも、
その局員の親友がコタツに刺さっている経理部にも、どちらにも、居ないのです。

あら不思議。

「おかしいなぁ。おかしいなぁ」
子狐は心細くなって、その心細さをまぎらわせたくて、ポリポリ、ぽりぽり。
リュックを開けて、1枚2枚、さつまいもチップスを食べて落ち着いて、歩いてまたポリポリ。
「おねーちゃん、どこだろう」

おねーちゃん、おねーちゃん。
コンコン子狐は収蔵部職員を呼びながら、尻尾を振って、チップスを食べて、廊下を歩き続けます。
それは8月31日、午後5時5分頃のことでした。

これで午後5時のおはなしは、おしまい。
最終的にさつまいもチップスは、5袋持ち込んだのに、いつの間にか3袋に減っておったとさ。

8/31/2025, 3:21:04 AM

今回のお題は「ふたり」とのこと。
一連に続く小さな「ふたり」のおはなしを3個ほど、ご紹介しようと思います。

最初のおはなしは最近最近の都内某所、某稲荷神社の近くの道路に現れた、おでん屋台の中。
丑三つ時の真夜中に、男性1人とホンドギツネもとい稲荷狐のオスの成獣1匹が、
ふたりして、ちょこん、客側に座っておりました。

「ウソじゃない。俺はたしかに、間違いなくだな」
男性の方は、別世界から東京に仕事で来ておって、
ビジネスネームをルリビタキといいました。
「本当に、ほんとうに、間違いなく契約したんだ」
ルリビタキは言いました。
「事実、最初は正常に引き落とされていた。
なのに昨晩、4ヶ月分の家賃滞納の督促が……」

なぜだ。何故。
ルリビタキは寂しそうにそう言って、少し一味をきかせた味噌ダレを煮込み大根につけて、
しゃく、しゃく。食べました。
「店主。さっきのパイプを、もう1個」
違います。パイカです。鈍器じゃないのです。
豚バラ軟骨のことを、パイカと言うそうです。

「最近、管理会社変更詐欺のようなものが、賃貸の間で横行しているそうですよ」
コンコンこやん、ルリビタキの隣に座っておった稲荷狐も、餅巾着を食いながら言いました。
「『管理会社が変わるから、家賃振込み口座を変更してくれ』と、通知が来るそうです」

身に覚えは、ありませんか。
稲荷狐はそう付け足して、お揚げさんとお餅の絶妙な合体たる餅巾着の、匂いも存分に堪能して、
もちゃっ、ちゃむ。食べました。
「店主さん。私にも鉄パイプを、ひとつ」
違います。パイカです。鉄じゃないのです。
鉄分ならカツオや大豆で摂取すべきなのです。

「どうですか。そういう封筒は」
「来ていない」
「本当に?」
「間違いない」

「本当の、本当に?」
「『来ていない』と言った。
何故だ。なぜ、誰も信じてくれないんだ」
「んんん――…」

…――そろそろ次のおはなしへ行きましょう。

翌日の丑三つ時、稲荷神社の近くのおでん屋台に、昨日のルリビタキと彼の部下、ツバメが、
ふたりして、客側に座っておりました。

「例の督促状、経理とそれから、元機構職員のアテビさんに調べてもらっています」
ツバメが言いました。
「ルリビタキ部長。本当に、本っッ当に、すみませんでした。あなたを過度に疑ってしまった」

「まぁ、うん、仕方無いだろう」
コリコリ、こりこり。
ルリビタキは歯ごたえが気に入ったらしいパイカを、つまり少しだけ固めに煮込んだ豚バラ軟骨を、
ちょっと一味をきかせた味噌ダレと、純粋なおでんのお出汁とで、それぞれ堪能しておりました。
「だがお前に、誰でもなく、『お前に』疑われたのは、少々響いたぞ。 分かっているな?」

「だから、こうして謝罪しているでしょう」
「んー?誠意が足らんぞ?」

はいはい。それくらいにしなよ。
屋台の店主さん、ふたりのコップにお酒を注ぎながら、イタズラ顔のルリビタキに言うのでした。

…――そろそろ最後のおはなしへ行きましょう。

更に次の日の丑三つ時、稲荷神社の近くのおでん屋台に、別世界から東京に仕事に来た女性が、
ふたりして、客側に座っておりました。

「例の督促状、バレたみたいよ」
女性その1が言いました。
彼女たちはルリビタキとツバメの職場と、一方的に敵対しておる団体の職員でした。
「珍しいわね、アスナロ。あなたがヘマするって」

「4ヶ月は隠し通したんですけどねぇ」
アスナロと言われた方は、団体の経理担当。
敵対しておるルリビタキが、東京に借りているアパートの家賃を、別世界のトンデモ技術でもって、
ちゅーちゅー、吸い取っておったのです。
「うーん。ザンネン」

ルリビタキの組織と違って、アスナロたちの組織、世界多様性機構の資金事情はカッツカツ。
多様性機構はカネがない!
そこでルリビタキたちの組織への、妨害行為も兼ねまして、資金をちゅーちゅーしておったのでした。

「ねぇ。その豚バラ軟骨、なんて言ったかしら」
「パイプ?」
「『ぱいぷ』???」
「固めに煮込んだ方より、柔らかめに煮込んだ方のが、ちゅるちゅるして美味しい」
「ほんと?」

はいはい。パイカね。
店主さんはお酒を注ぎながら、訂正しました。

3日連続で続いたのおはなしでした。
おでん屋の店主は全部の「ふたり」に立ち会って、そのいずれの動きも、秘密も、知ったのでした。
おしまい、おしまい。

8/30/2025, 9:11:47 AM

私、永遠の後輩こと高葉井の、推しがとうとう遠い遠い、すごく場所に帰ってしまった。
不思議な縁でもって数日、数週間、私は私の推しカプの双方と交流する機会を得たけど、
その「不思議な縁」が、諸事情が、終わった。

亡くなったワケじゃない。帰っただけだ。
だからどっちも生きてるし、私だってこれからも、ずっと推し続けるつもりではいるけど、
推しが、とうとう私の目の前から消えた。

推しは最後に、私に手紙を残してくれていて、
その手紙には、私に向けた簡単な挨拶と、
私を「不思議な縁」に巻き込んだことへの謝罪と、
それから、「いつかまた」と。
完全に、
今後絶対コレ永久に会えないけど社交辞令として「いつか」って言ってますよね、
と推測可能なフレーズで締めくくられてた。

いつかまた。
私の推しとの交流は、この一文で終わった。
手紙を何度も読み返してたら夜が明けて、
私はその推しが登場するゲームの聖地、都内の某私立図書館に勤務してるから、
悲壮を抱えたまま、職場に向かった。

マジで言うけど、今のまま仕事してたら終わるよ
(私の心が)
ヤバいメンタル、もうすぐ轟沈するのに、上司どもは「高葉井ピンチだ!」って慌ててる
(つまり先輩と付烏月さんと副館長さんが)

推しロスかよ
(そうだよ)

「せんぱい、あのね、ツー様はね……」
推しが推しの職場に戻ってしまった。
推しが東京から、居なくなってしまった。
午前中の仕事を終わらせて、昼休憩で職員室に戻ってきた私は、休憩中も本の修理をしてる先輩に、
ニャッキニャッキって寄ってって、ぐでんって頬をデスクに付けて、推しのことを説明した。
「ツー様は、ルー部長からツバメのビジネスネームを引き継いで、ツー様になったんだよ……」

そうか。 先輩はそれだけ。
それだけだけど、ちゃんと私の慟哭を、
真面目に、誠実に、聞いてくれてるらしい。
先輩は本を修理しながら、私に耳を貸してくれた。
私はその厚意に甘えた。

「ツー様がね、バイクに乗せてくれたの」
「そうだったな」
「ツー様、ゲームではバイクなんて、乗らないの」
「そうか」

「ツー様とっても良い匂いだった」
「高葉井、そこのクリップを取ってくれ」
「もうリアルツー様と会えないんだぁぁ……」

ああ、推しよ、私の主神の一柱よ。
先輩に言われたクリップを先輩に渡しながらも、私の推しロスに関する告白は止まらない。
私の心の風景は、ずっと、推しと乗ったバイク。
私の心の風景は、あるいは、推しと会った図書館。
推しの左側にバイクに乗せてもらって、
推しの右側が対等に会話をしてくれた。

私の心の風景は宝物の7月のままだった。
その宝物が、心の中だけになってしまった。
その推しが推しの職場に戻って、日本から去った。

マジで言うけど以下略(私の心が)
ヤバいメンタル略(略)

「手紙の最後は『いつかまた』、だったんだろう」
本の修理を終えた先輩が言った。
「すぐ悲観しないで、少し、待ってみたらどうだ」
先輩の表情は通常どおりで、とくに動いてるようには見えない。先輩の心の中の風景も分からない。
だけど私の慟哭だけは、やっぱり真面目に、誠実に、聞いてくれてるみたいだった。

「ルー部長……ツー様……会いたいよぉぉ」
「そうか」
「ツー様ぁぁぁぁ」
「うん」

そうか。 そうか。
先輩は相変わらず、私に耳を貸してくれる。
私はそのまま慟哭を続けたけど、
最終的に、私の心が穏やかさを取り戻したのは、結局休憩中の推し吐きじゃなくて、先輩が誘ってくれた喫茶店の、スイーツとコーヒーとスイーツ。
美味は心を救うんだと思った(感想)

8/29/2025, 5:53:00 AM

検索するまで、芭蕉の句を忘れておった物書きです。あるいはネット検索で、某きのこポケ……もとい、冬虫夏草にも辿り着いた物書きです。
夏草をお題に、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家には、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
その稲荷神社は、とっても不思議な稲荷神社で、そこそこご利益があるとも噂でして、
時折、たとえば丑三つ時に、未知との遭遇を果たすとか果たさないとか、ぶっちゃけデマだとか。

すべての真実は闇の中、森の中、狐の中。
稲荷神社に住まう狐だけが、知っておるのでした。

ところで今回のお題は「夏草」ですね(フラグ)

その日の稲荷神社は参拝者も少なく、
稲荷神社在住の末っ子子狐は、参道も神前の庭も遠慮なしに、晩夏の花を楽しみながら、
とってって、ちってって、散歩しておりました。

「おはな、おはな!」
コンコン子狐はお花が大好き!
特にお星さまのような花を咲かせるものは、お星さまの花とか、お星さまの木とか言って、
全部子狐の宝物です。

「おはな、おはな!」
あとちょっとで彼岸花、そろそろナツズイセンはおしまいの頃合い、ああ、あっちは何かしら。
子狐コンコン、夏草という夏草を歩き、夏草という夏草を頭で押して、とってって、ちってって。
陽気に、幸福に、散歩をしておりました。

ところでこの稲荷神社は不思議な稲荷神社です。
とっても不思議な神社なのです。

敷地内の一軒家に、化け狐の末裔、本物の稲荷狐が暮らすその稲荷神社は、
草が花が山菜が、いつかの過去を留めて芽吹く、昔ながらの森の中。
時折妙な連中が芽吹いたり、頭を出したり、■■■したりしておるのです。
そういうのは大抵、漢方医として労働する父狐に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴にドンドとブチ込まれるのですが、
その日は諸事情により父狐、不在でして。

で、そういう日に限って、お題が「夏草」。
なにも起こらないハズがないのでした。

「おはな、おは……な?」
おやおや、アレは、「何」でしょう。
コンコン子狐が神社の庭の隅っこの、父狐の薬草園がチラッと見えるあたりの道に近づきますと、
なにやら妙な粘膜によって僅かに光を放つ夏草が、
5本、6本、いや10本くらいまとまって、
みょっみょ、マママ、みょっみょ、マママ。
小さな小さな声を出して、踊っておるのでした。

完全にフィクションです。なんなら神社の和風物語から、急にコズミックホラーテイストです。
細かいことは気にしちゃいけません。

「なんだこれ。なんだおまえっ」
みょっみょ、みょっみょ。
特に危害という危害も加えず、威嚇もせず、
ただ、「この世界」のモノでないことだけは、コンコン子狐、匂いで理解しておりました。
「なんだなんだ、なんだっ」

ダンシング夏草は小さな小さな声を出して、僅かに体から光を放って、体をくねくね、クネクネ。
1980年代に流行したヒマワリのようです。
みょっみょ、マママ、みょっみょ、マママ。
あんまりダンシング夏草が楽しそうに、しかし静かに踊っておるので、
子狐の「狐」たる狩猟本能が刺激されて、まるで猫じゃらしに反応するニャンコのように、
体フリフリ、尻尾フリフリ、からの狐パンチ!

「えいっ、えいや」
ダンシング夏草を傷つけない程度にコンコン子狐、
遊び始めたのでした――が、
まさかのこのダンシング夏草、目でもあるのか感覚が鋭利なのか、ことごとく狐パンチを回避。
「む!当たらない、なんで」

えいっ、えいや!
コズミックな気配のするダンシング夏草は、子狐のパンチなど、なんのその。
はらぁりひらぁりと曲がってかわして、
みょっみょ、マママ、みょっみょ、マママ。
ささやきながら、踊ります。

「おりゃ!おりゃ!えいやぁ!」
子狐は本気になって、一撃当てようと頑張りますが、サッパリ、かすりもしないのです。
「やぁやぁやー!!」

子狐はそのまま20分くらい、ダンシングコズミック夏草と遊んでおりまして、完全に疲労困憊。
その頃には不思議な夏草の、不思議な光も消え去って、ささやき声も無くなって、
まるで不思議な粘液が効力を失ったように、
ただの普通の、夏草に戻っておったとさ。

不思議な稲荷神社の、不思議な子狐と夏草のおはなしでした。 おしまい、おしまい。

Next