かたいなか

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今回のお題は「ふたり」とのこと。
一連に続く小さな「ふたり」のおはなしを3個ほど、ご紹介しようと思います。

最初のおはなしは最近最近の都内某所、某稲荷神社の近くの道路に現れた、おでん屋台の中。
丑三つ時の真夜中に、男性1人とホンドギツネもとい稲荷狐のオスの成獣1匹が、
ふたりして、ちょこん、客側に座っておりました。

「ウソじゃない。俺はたしかに、間違いなくだな」
男性の方は、別世界から東京に仕事で来ておって、
ビジネスネームをルリビタキといいました。
「本当に、ほんとうに、間違いなく契約したんだ」
ルリビタキは言いました。
「事実、最初は正常に引き落とされていた。
なのに昨晩、4ヶ月分の家賃滞納の督促が……」

なぜだ。何故。
ルリビタキは寂しそうにそう言って、少し一味をきかせた味噌ダレを煮込み大根につけて、
しゃく、しゃく。食べました。
「店主。さっきのパイプを、もう1個」
違います。パイカです。鈍器じゃないのです。
豚バラ軟骨のことを、パイカと言うそうです。

「最近、管理会社変更詐欺のようなものが、賃貸の間で横行しているそうですよ」
コンコンこやん、ルリビタキの隣に座っておった稲荷狐も、餅巾着を食いながら言いました。
「『管理会社が変わるから、家賃振込み口座を変更してくれ』と、通知が来るそうです」

身に覚えは、ありませんか。
稲荷狐はそう付け足して、お揚げさんとお餅の絶妙な合体たる餅巾着の、匂いも存分に堪能して、
もちゃっ、ちゃむ。食べました。
「店主さん。私にも鉄パイプを、ひとつ」
違います。パイカです。鉄じゃないのです。
鉄分ならカツオや大豆で摂取すべきなのです。

「どうですか。そういう封筒は」
「来ていない」
「本当に?」
「間違いない」

「本当の、本当に?」
「『来ていない』と言った。
何故だ。なぜ、誰も信じてくれないんだ」
「んんん――…」

…――そろそろ次のおはなしへ行きましょう。

翌日の丑三つ時、稲荷神社の近くのおでん屋台に、昨日のルリビタキと彼の部下、ツバメが、
ふたりして、客側に座っておりました。

「例の督促状、経理とそれから、元機構職員のアテビさんに調べてもらっています」
ツバメが言いました。
「ルリビタキ部長。本当に、本っッ当に、すみませんでした。あなたを過度に疑ってしまった」

「まぁ、うん、仕方無いだろう」
コリコリ、こりこり。
ルリビタキは歯ごたえが気に入ったらしいパイカを、つまり少しだけ固めに煮込んだ豚バラ軟骨を、
ちょっと一味をきかせた味噌ダレと、純粋なおでんのお出汁とで、それぞれ堪能しておりました。
「だがお前に、誰でもなく、『お前に』疑われたのは、少々響いたぞ。 分かっているな?」

「だから、こうして謝罪しているでしょう」
「んー?誠意が足らんぞ?」

はいはい。それくらいにしなよ。
屋台の店主さん、ふたりのコップにお酒を注ぎながら、イタズラ顔のルリビタキに言うのでした。

…――そろそろ最後のおはなしへ行きましょう。

更に次の日の丑三つ時、稲荷神社の近くのおでん屋台に、別世界から東京に仕事に来た女性が、
ふたりして、客側に座っておりました。

「例の督促状、バレたみたいよ」
女性その1が言いました。
彼女たちはルリビタキとツバメの職場と、一方的に敵対しておる団体の職員でした。
「珍しいわね、アスナロ。あなたがヘマするって」

「4ヶ月は隠し通したんですけどねぇ」
アスナロと言われた方は、団体の経理担当。
敵対しておるルリビタキが、東京に借りているアパートの家賃を、別世界のトンデモ技術でもって、
ちゅーちゅー、吸い取っておったのです。
「うーん。ザンネン」

ルリビタキの組織と違って、アスナロたちの組織、世界多様性機構の資金事情はカッツカツ。
多様性機構はカネがない!
そこでルリビタキたちの組織への、妨害行為も兼ねまして、資金をちゅーちゅーしておったのでした。

「ねぇ。その豚バラ軟骨、なんて言ったかしら」
「パイプ?」
「『ぱいぷ』???」
「固めに煮込んだ方より、柔らかめに煮込んだ方のが、ちゅるちゅるして美味しい」
「ほんと?」

はいはい。パイカね。
店主さんはお酒を注ぎながら、訂正しました。

3日連続で続いたのおはなしでした。
おでん屋の店主は全部の「ふたり」に立ち会って、そのいずれの動きも、秘密も、知ったのでした。
おしまい、おしまい。

8/31/2025, 3:21:04 AM