かたいなか

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検索するまで、芭蕉の句を忘れておった物書きです。あるいはネット検索で、某きのこポケ……もとい、冬虫夏草にも辿り着いた物書きです。
夏草をお題に、こんなおはなしをご用意しました。

最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家には、人間に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が、家族で仲良く暮らしておりました。
その稲荷神社は、とっても不思議な稲荷神社で、そこそこご利益があるとも噂でして、
時折、たとえば丑三つ時に、未知との遭遇を果たすとか果たさないとか、ぶっちゃけデマだとか。

すべての真実は闇の中、森の中、狐の中。
稲荷神社に住まう狐だけが、知っておるのでした。

ところで今回のお題は「夏草」ですね(フラグ)

その日の稲荷神社は参拝者も少なく、
稲荷神社在住の末っ子子狐は、参道も神前の庭も遠慮なしに、晩夏の花を楽しみながら、
とってって、ちってって、散歩しておりました。

「おはな、おはな!」
コンコン子狐はお花が大好き!
特にお星さまのような花を咲かせるものは、お星さまの花とか、お星さまの木とか言って、
全部子狐の宝物です。

「おはな、おはな!」
あとちょっとで彼岸花、そろそろナツズイセンはおしまいの頃合い、ああ、あっちは何かしら。
子狐コンコン、夏草という夏草を歩き、夏草という夏草を頭で押して、とってって、ちってって。
陽気に、幸福に、散歩をしておりました。

ところでこの稲荷神社は不思議な稲荷神社です。
とっても不思議な神社なのです。

敷地内の一軒家に、化け狐の末裔、本物の稲荷狐が暮らすその稲荷神社は、
草が花が山菜が、いつかの過去を留めて芽吹く、昔ながらの森の中。
時折妙な連中が芽吹いたり、頭を出したり、■■■したりしておるのです。
そういうのは大抵、漢方医として労働する父狐に見つかって、『世界線管理局 ◯◯担当行き』と書かれた黒穴にドンドとブチ込まれるのですが、
その日は諸事情により父狐、不在でして。

で、そういう日に限って、お題が「夏草」。
なにも起こらないハズがないのでした。

「おはな、おは……な?」
おやおや、アレは、「何」でしょう。
コンコン子狐が神社の庭の隅っこの、父狐の薬草園がチラッと見えるあたりの道に近づきますと、
なにやら妙な粘膜によって僅かに光を放つ夏草が、
5本、6本、いや10本くらいまとまって、
みょっみょ、マママ、みょっみょ、マママ。
小さな小さな声を出して、踊っておるのでした。

完全にフィクションです。なんなら神社の和風物語から、急にコズミックホラーテイストです。
細かいことは気にしちゃいけません。

「なんだこれ。なんだおまえっ」
みょっみょ、みょっみょ。
特に危害という危害も加えず、威嚇もせず、
ただ、「この世界」のモノでないことだけは、コンコン子狐、匂いで理解しておりました。
「なんだなんだ、なんだっ」

ダンシング夏草は小さな小さな声を出して、僅かに体から光を放って、体をくねくね、クネクネ。
1980年代に流行したヒマワリのようです。
みょっみょ、マママ、みょっみょ、マママ。
あんまりダンシング夏草が楽しそうに、しかし静かに踊っておるので、
子狐の「狐」たる狩猟本能が刺激されて、まるで猫じゃらしに反応するニャンコのように、
体フリフリ、尻尾フリフリ、からの狐パンチ!

「えいっ、えいや」
ダンシング夏草を傷つけない程度にコンコン子狐、
遊び始めたのでした――が、
まさかのこのダンシング夏草、目でもあるのか感覚が鋭利なのか、ことごとく狐パンチを回避。
「む!当たらない、なんで」

えいっ、えいや!
コズミックな気配のするダンシング夏草は、子狐のパンチなど、なんのその。
はらぁりひらぁりと曲がってかわして、
みょっみょ、マママ、みょっみょ、マママ。
ささやきながら、踊ります。

「おりゃ!おりゃ!えいやぁ!」
子狐は本気になって、一撃当てようと頑張りますが、サッパリ、かすりもしないのです。
「やぁやぁやー!!」

子狐はそのまま20分くらい、ダンシングコズミック夏草と遊んでおりまして、完全に疲労困憊。
その頃には不思議な夏草の、不思議な光も消え去って、ささやき声も無くなって、
まるで不思議な粘液が効力を失ったように、
ただの普通の、夏草に戻っておったとさ。

不思議な稲荷神社の、不思議な子狐と夏草のおはなしでした。 おしまい、おしまい。

8/29/2025, 5:53:00 AM