前回投稿分からの続き物。
世界線管理局員が、後ろに女性をひとり乗せて、
風吹き花咲く夏の雪国の夜、静かなバイクを駆って大きな大きなイチョウを目指しておりました。
管理局員はビジネスネームを「ツバメ」といい、既に滅んだ異世界の出身。
ツバメの後ろに乗ってツバメのおなかに腕を回している東京都民は名前を後輩、もとい高葉井といい、
なんということでしょう、ツバメのことを、推しとして崇拝しておったのでした。
推しが駆るバイクに乗って合法的に推しにお触りできるって何のご褒美でしょうね(しりません)
「誰か居る」
紅葉してない緑の大イチョウの、輪郭がバイクのライトでぼんやり浮かんだ瞬間、ツバメはイチョウの下の2人+αに気付きました。
「藤森と稲荷子狐と、 カラス査問官??
いや、あれは、『アレ』は……??」
2人のうちの1人は、ツバメが管理局員として、行方を追っていた藤森でした。
藤森の目的は、故郷の雪国に生えている大イチョウの、その下に封印されている黒穴の封印を解いて、
そして、「この世界」と異世界を繋ぐこと。
異世界の先進技術をこの世界に持ってきて、この世界の環境問題を解決すること。
「現在のこの世界」にとって、異世界は「まだ」、非現実的なフィクションの領域。
藤森が異世界の穴を開けば、たちまち大混乱です。
なにより最初から異世界の先進技術に頼っては、せっかくの「この世界独自の技術」が、その成長の道が、ぱったり、閉ざされてしまうのです。
ツバメはこれを阻止するために、藤森を追っておったのでした。
ところで藤森と向かい合っている「カラス査問官」は「誰」でしょう……??
「ツーさま……ツバメさん、あそこ!」
ツバメが「カラス」に気を取られているところに、高葉井が声を張り上げました。
「誰か隠れてる!」
高葉井が見つけたのは、カラスと藤森がなにやら会話をしている地点から、少し離れた暗がりの中。
高葉井の知らない人影が、2人を観察しています。
「おそらく、世界多様性機構の構成員です」
ツバメが言いました。
「藤森さんに異世界のことを吹き込んだ組織です。
イチョウの封印が解けたら、異世界から移民なり船なりを問答無用で呼び寄せる魂胆なのでしょう」
急がないと。手遅れになる。
ツバメはバイクの速度を一気に上げて、ぎゃん!
「飛ばします。しっかりつかまって」
「飛ば、……え、え??」
「口閉じて!」
そして、ショートカットよろしく雪国の夜空に、
駆るバイクを、とばしました。
「ぎゃー!!死んじゃう死んじゃう死んじゃう!」
「そのまま騒いで。隠れている機構のやつを、慌てさせましょう」
「いーーやぁぁぁぁぁーーー!!!」
道路のルートを無視して、慣性の法則に従って、ツバメのバイクが宙を行きます。
「高葉井?!」
自分の後輩たる高葉井の悲鳴に、藤森が空を見上げて、カラスが物陰の中の機構職員に気付き、
しかしどうやら対処が遅かったようで、
『ぐっ、ぅ』
「付烏月さん!」
ドン! 機構職員に何かを撃たれたらしく、藤森に「付烏月」と呼ばれたカラスは、みかん色の光の粒になって、パッと消えてしまいました。
『大丈夫。また、会えるさ』
藤森とカラスの間に何があったか、ツバメも高葉井も知りませんが、
カラスはカラスらしくない、穏やかな口調でもって、おわかれの言葉を藤森に残しました。
『私の憑依先が壊れただけのことだ。
またね、藤森。 かならずや大イチョウを――』
大イチョウを、どうしてほしいのか。
ツバメの同僚、カラスによく似た「誰か」は、
肝心の「そこ」を言わず、ガッツリ今回のお題を回収して、そして、静かに消えました。
「くそっ。やはり管理局にバレてたか」
カラスを撃った機構職員が、暗がりの中から出てきて、そしてササっと大イチョウの封印の鍵を――つまり稲荷子狐を、少し乱暴に掴みました。
「いたい!いたいっ!はなせ!」
ぎゃん!ぎゃん!ぎゃぎゃん!
稲荷子狐がチカラいっぱい威嚇します。
だけど機構の職員は、そのまま稲荷子狐を連れて、
異世界と繋がる黒穴が封印されている、大イチョウに近づいてゆきます。
「稲荷狐さえ手に入れば、こっちのものだ」
機構の職員は勝ち誇って、高らかに、笑いました。
そこに丁度着地したのがツバメのバイク。
「世界線管理局だ、おまえの――!」
おまえの行為は、法に反する可能性がある。
ツバメが大きな声で機構職員に叫ぼうとした、
そのとき、でした。
藤森が前々回投稿分で付烏月から託された「小さな願いが叶う銀色インク」のボトルを開けました。
「こぎつね!」
藤森が叫ぶと、銀色インクが強い光を放ちました。
「大イチョウの黒穴を封印してくれ。
今後、誰も手を出せないように!
どの異世界人もイチョウの下の黒穴を通って、この世界に来れないように!」
「おお、おおお、キツネ、チカラ、わいてきた」
光に包まれた稲荷子狐は、途端にフサフサ狐尻尾がモッフと伸び、2本になり、3本になって、
そして、機構の構成員を、稲荷狐のチカラでもって、弾き飛ばしてしまいました!
「キツネ、くろあなのフーイン、やる!」
そこから先はお題と関係ありませんので、以下略、以下略。それこそ「またね」、なのでした。
前回投稿分の続きをご紹介する前に、ササっと今回のお題を回収しましょう。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
その世界が「その世界」で在り続けられるように、他の世界から侵略を受けたりしないように、
あんな仕事やこんな仕事、そんな仕事なんかを、たくさん、引き受けておりました。
特に先進世界から発展途上世界への技術的侵略や、
滅亡世界から生存世界への大量の難民流入、
他の世界から自分の世界への略奪行為、
「その世界」で「それが常識」とされている概念を破壊したり、改変したりするのは、
違法として、徹底的に取り締まっておりました。
たとえば異世界渡航の技術が確立してない科学の世界で、魔法によって異世界を持ってきたりとか。
で、
そんな管理局の昼休憩。
収蔵部の女性局員、ドワーフホトが、
キンキンのに冷やしたコーヒーポーションとマーマレードジャムを混ぜ合わせ、
トポポポしゃわわわ!よく冷えた炭酸水を、上から注ぎ入れて、コーヒー色に泡立てておりました。
「んんー、最高だよぉ」
コーヒーの苦さと、マーマレードの柑橘と、それらに清涼感を与える炭酸。
それらが調和して、ドワーフホトを冷やします。
なにより、コーヒー色した泡です。
この泡が、スモーキーな風味でドワーフホトの鼻と喉と、なにより舌とを楽しませます。
「泡になりた〜い!
ほろ苦いマーマレードコーヒーからのぉ、
濃厚で甘いティラミスからのぉ、
更に、ほろ苦いマーマレードコーヒーぃ」
ああ、ああ!なんと幸福!なんと大人な味!
ドワーフホトがコーヒー色の泡を堪能しておると、
「ほいっ。みやげ」
ドワーフホトの大事な親友、経理部のスフィンクスが、なんということでしょう!
ドチャクソに高い水晶糖のキャンディーケーキを、
それが確実に入っていると分かる紙箱を、
ドワーフホトの前に、差し出したのです!
泡立つマーマレードコーヒーに確実に合います。
「スフィちゃん!どーしたの、それぇ!」
「臨時収入入った」
「『臨時収入入った』、じゃないよー!臨時ボーナスの金額だよぉ。どーしたの、何があったの」
「だから、臨時収入入った。
法務部のカラスのやつが、俺様に『水晶文旦内蔵の人形を、1回使うだけの脆弱強度で良いから、大至急仕立ててほしい』ってよ。
法外吹っ掛けたら、普通に法外持ってきた」
「ほーがい」
わぁ、わぁ。何がどーなったの。
ドワーフホトは幸福と混乱がごっちゃごちゃ。
だけど目の前のケーキがドワーフホトを、上品な香りで呼んでいます。
ひとまずスフィンクスの分のマーマレードコーヒーを作ってやって、ケーキを一緒に食べました。
と、いうことで、
しっかり「泡」のお題を回収したので、ここからが前回投稿分の続きのおはなし。
…――日本から姿を消しつつある希少な花々を救うため、故郷の大イチョウの封印を解除して、
そして、この世界に発展世界の技術を呼び込もうとしている雪国出身者、藤森です。
このたびようやく目的の、大イチョウの前に到着。
紅葉シーズン前の夜ということで、観光客の姿はどこにもありません。
「さあ、着いた」
レンタカーから降りた藤森、封印の鍵であるところの、稲荷子狐を外に出しました。
「巻き込んでしまって、本当に、ほんとうに、すまない。お前の母さんに叱られたら、私に脅されて仕方なかったんだと言ってくれ」
藤森は子狐を撫でました。
子狐が大イチョウの封印を解いて、イチョウの下にあるという黒穴を使用できる状態にしてくれれば、
この世界と先進世界が繋がって、その先進世界の技術が気候変動と環境問題をたちまち解決して、
そして、今もジリジリと数を減らしつつある、藤森が大好きな日本の在来花を、救ってくれます。
「たのんだぞ。子狐」
これ以上、日本の自然が消え去る前に。
先進世界の技術でも取り返しのつかないほど、完全に日本の自然が破壊し尽くされてしまう前に。
どうか、どうか。
藤森は子狐に、祈りました。
「ん!ゆーれーの、におい!」
そんな藤森の祈りもなんのその。
稲荷子狐、知ってる魂の匂いを察知して、藤森の腕の中から脱走、疾走、突撃!
「はなのぼーれー、花の亡霊の、におい!」
子狐が突撃して、飛びかかり、「誰か」の腕の中にスッポリ収まる様子を、藤森は見ました。
「あれ?」
藤森は首を傾けました。
「つうきさん、……付烏月さん?」
その「誰か」は、さきほど祭り会場で別れた同僚で、友人で、実は管理局員だった付烏月でした。
でも様子がヘンです。
『やあ。こんばんは』
「付烏月」が言いました。
『いわゆる憑依というやつだ。この体を借りてでも、どうしても、あなたに伝えたいことがあって』
その口調は、付烏月とは完全に別人で、穏やかな静かさを秘めておったのでした……
7月27日投稿分から続いているおはなしも、そろそろクライマックスが近づいてきている模様。
今回のおはなしは、前回投稿分からの続き物。
お題回収役の雪国出身者、藤森が、
異世界の厨二ふぁんたじー組織①の「世界多様性機構」から情報を吹き込まれ、
厨二ふぁんたじー組織②の「世界線管理局」から追われつつ、小さなボトルを託されつつ、
藤森の故郷、風吹き花咲く雪国の、大きくて不思議な大イチョウを目指して、
レンタカーを、走らせておりました。
「やー、まさか藤森、きみとウチの特殊即応部門のカラスが知り合いだったなんて!」
もぞもぞもぞ。
藤森の胸ポケットから、言葉を話す不思議なハムスターがコンニチハ。藤森に話しかけます。
「どこで知り合ったの?きっかけは?」
カラスとは厨二組織②の管理局員、そのひとり。
不思議ハムスターの、部署違いの同僚でした。
藤森は絶賛混乱&困惑中。
そりゃそうです。自分の友人が異世界人だと、友人自身から突然自己紹介されたようなものです。
なんならその異世界人の友人が、自分を追っかけて捕まえようとしている組織の人間だったのです。
そりゃ混乱するし、困惑もします。
「10年ほど前だ」
藤森が浮かない顔して答えました。
「故郷から上京して、数年で東京と田舎のギャップに揉まれていた頃、転職先の図書館で出会った。カラスではなく、ツウキと名乗って」
その付烏月さんが、異世界組織の人間だったとは。
小さなため息を吐いた藤森は、レンタカーをちょっとだけ路肩に停めました。
「小さな願いが叶うインク……か」
実は異世界人で、現在藤森を追いかけている側の職員だった友人、付烏月と書いて「ツウキ」と読む男から、藤森は小さなボトルを貰いました。
「3個まで、願い事が叶う。
まるで昔話か、童話のおはなしの中だ」
付烏月から貰ったボトルの中身は、美しい銀色をした、付烏月曰く「夢見猫の銀色インク」。
大きな奇跡は起こせなくても、小さな願い事であれば、3個は叶えることができるとのこと。
「本当だろうか」
藤森は半信半疑でした。
実は付烏月に全部騙されておって、彼は藤森が大イチョウの封印を解除するのを邪魔したいのかもしれないと、少し、思いました。
でも藤森の知る付烏月は、あの友人は、
そんな面倒くさいことするでしょうか?
「このインクが本領発揮するのはね、」
不思議ハムが証言しました。
「本当は、専用のペンに入れることで、発揮されるんだ。インク単体じゃ魔法のチカラは使えない。
だけど、うん、この量なら、小さい願いであれば」
不安なら、1回だけ試してみなよ。
間違いなく叶うだろうから。
不思議ハムはニヤニヤと、まるで勝ち誇ったように、笑いました――だってハムは、藤森が受け取ったインクのことを、藤森より知っておるのです。
さてここでお題回収。
実はこのレンタカー、藤森と不思議ハムの他に、
大イチョウの封印を解く鍵となる稲荷子狐も乗っており、夏祭りの会場で「葉月牛」なる個人ブランド和牛の牛串を、しこたま食ったのです!
葉月といえば8月。8月といえば夏。
コンコン子狐、願いが3回叶うインクのハナシを聞いて尻尾をぶんぶん!
「わぎゅう!わぎゅう!たべる!食べたい!」
ここココンコンコン、ここココンコンコン!
夏祭りの会場で食べた、夏の名を持つ和牛串の、
したたる肉汁、甘い脂、やわらかい身にメロメロ!
しめ縄つけたキャリーケースから飛び出して、藤森が持つ小さなボトルに、強くつよく願いました。
「子狐、あれだけ食ったのに、まだ食うのか??」
「たべる!食べる!わぎゅう!
キツネわぎゅう食べる、インクさん、わぎゅう出して、いっぱい出して、どっさり出して!
夏のわぎゅう!おいしいわぎゅう!おにく!」
「あのな子狐、このインクは3回しか使えn」
「おにく!おにく!」
いでよ、夏の名を持つお肉、夏の祭りに従う牛串、
3個くらい前の投稿分で藤森の現金を一気に減らした張本人にして1本500円。
「おにく!」
子狐が強く強く願うと、なんということでしょう、
藤森の手の中の、小さなボトルに入ったインクが、
淡く美しい光を出して、光量は次第に強くなり、
やがて、ぽん!!
小さな輝きを車内に爆発させると、藤森が借りたレンタカーの中を、葉月牛の牛串で牛々に……ぎゅうぎゅうに満たしたのです!
「うっっッそだろ?!」
「おにく!おにく!ただいま、夏のわぎゅう!」
ただいま、夏。
ただいま、葉月牛。
ただいま、子狐が大量に食い、更におかわりを所望しておるところの、夏の名を冠する牛の串。
子狐の興奮と幸福は絶好調です!
「おいしい、おいしい、おいしい!」
むしゃむしゃむしゃ、ちゃむちゃむちゃむ!
小さな願いを3回叶えるという銀色インクは、子狐の食いしん坊を叶えて、残り2回。
「もう1回使って、レンタカー掃除してもらう?」
不思議ハムが言いました。
「いや、」
じゅーじゅーアツアツの牛串から避難する藤森は、
「ちょっと、かんがえる……」
子狐が牛串を秒で胃袋に収容するのを、チベットスナギツネの視線で、見ておったとさ。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内、某稲荷神社を出発したレンタカーは、運転手の故郷ちかくの祭り会場に到着。
運転手は名前を藤森といい、
故郷の大イチョウの木の下に封印されているという、「異世界と繋がっている黒穴」に用があった。
その黒穴の封印さえ解除すれば、発展途上であるこの世界と先進世界とが繋がって、
文字通り「規格外」の先進技術により、気候変動をたちまち解決できるという。
藤森に黒穴の情報を耳打ちして、黒穴の封印を解かせようとしているのが「世界多様性機構」。
黒穴の封印を解かせまいと、藤森の車を追いかけるのが「世界線管理局」。
藤森はただ、気候変動と地球沸騰、技術開発によって数を減らし続ける希少な花々を救いたくて、
機構の耳打ちに乗り、管理局の監視と追跡から隠れて逃げて、レンタカーを走らせた。
異世界組織から情報を得て、
異世界組織に追われながら、
異世界とこの世界を繋ぐという穴に向かう。
藤森の夏は完全にスペクタクルである。
休憩と、それから稲荷神社から借り受けた子狐の機嫌取りのために立ち寄った夏祭り会場で、藤森は職場の同僚とバッタリ出会った。
同僚は名前を、付烏月と書き、「ツウキ」と読む。
お題回収はここから。
祭り会場から離れた暗闇で、藤森と付烏月は炭酸飲料の缶を手に隣り合って座って、片方は無口。
藤森だ。 付烏月は無言の藤森に、何十分、1時間以上、自身の立ち位置と心境を語っている。
付烏月がまさかの、藤森を追う側の組織所属、
世界線管理局の制服を着ていたのだ。
「なぁ藤森。ゴメンって。俺が管理局の人間だったのを黙ってたのは謝るって。許してよん」
「……」
「ハナシだけでも、ねぇ、聞いてって藤森。
ホントに俺、お前と敵対するつもりは無いって」
「……」
「ふーじーもーりぃー……」
夜であった。
祭り会場の十数キロ先、藤森と付烏月の視線の先では、美しい花火が10発20発。
気まずい2人との対比に、明るく、美しく。
周囲を照らして破裂音を置き去りに、光の芸術を遠方まで届けている。
『ぬるい炭酸と無口な君』。
露店で購入した炭酸飲料は、手の温度と時間経過でぬるくなっており、藤森は口を閉じている。
藤森の胸中は完全に混乱していた。
今まで都内の私立図書館で一緒に仕事をしていた付烏月は、藤森に多くの知識と知恵を――特に「ちょっとした心理学と脳科学」とを、少し吹き込んだ。
約10年前の藤森は付烏月のおかげで、少し人付き合いが得意になったし、
去年の藤森は付烏月のアシストで、とある長年の問題を解決することができた。
付烏月は自分の味方であると、藤森は確信し続けていたし、事実付烏月もそのように在った。
そんな付烏月が、まさかの「藤森を追跡する側の制服」を着て、藤森の隣に座っている。
何が目的だろう。
藤森は付烏月の意図が分からない。
付烏月はイタズラを好むパティシエだが、決して、断じて、頭の悪い男ではない。
藤森が故郷の大イチョウの封印を解き、先進世界とこの世界を繋ごうとしていることは、管理局員なら当然の情報として掴んでいただろうし、
その管理局の制服を着て藤森の目の前に出てきたら、藤森自身がどう感じるかなど、数パターンのシナリオで想定できているハズの男である。
何が、目的だろう。
何故わざわざ、今日この日に、管理局員としての身分を開示して自分と合流したのだろう。
ぬるくなった炭酸飲料をそのままに、藤森はただ考えて、予想して、結局思考が全部とっちらかった。
付烏月さんはどっち側の人間だ??
「俺は、俺の宝物の味方だよん」
藤森の混乱を見透かす付烏月の返答は軽かった。
「だけど、俺が異世界組織の人間なのも事実で、
俺の所属してる部署が、お前のことを追っかけて、捕まえようとしてるのも事実。
それだけだ。 それだけだよ。藤森」
トン、と藤森のヒザの上に、銀色の液体で満たされた小さなボトルが置かれた。
「お前にこれを、届けたかったんだ」
付烏月は言った。
「管理局収蔵品、『夢見猫の銀色インク』。
本来の使い方とは違うけど、これだけの量があれば、小さな願い事なら3個は叶う。
自分が居る場所の未来を覗くとか。
自分の姿を十分くらい透明にするとか。
自分が居る場所の過去に飛んで、1株だけ、『お前が本当に救いたかった花』を取ってくるとか」
よくよく考えて使うんだよ。
なんてったって、願い事が叶うインクだから。
付烏月はそう言って立ち上がり、無言で困惑の目を見開く藤森の視線を受けた。
「じゃあね。藤森」
付烏月が言った。
「『ここ』は俺が、管理局のカラスとしてじゃなく、お前の友人の付烏月として、引き受けるから」
どういうことだ?
藤森が首をかしげる間もなく、背後から声がして、
藤森はすぐ「ここ」の意味を理解した。
「世界線管理局法務部、執行課のルリビタキだ。
藤森、お前が大イチョウの封印を解いてこの世界と別の世界を繋ぐつもりなら、
お前を一時的に、この世界の脅威として拘束する」
「行け!藤森!」
戸惑う藤森の背中を付烏月は力強く押した。
「機構にそそのかされてじゃなく、管理局に禁止されてでもなく、お前の考えのために!」
前回頃投稿分から続くおはなし。
最近最近の東京をはじめ、この世界全体全土の、気候変動と希少種の花の減少を心配している雪国出身者がおりまして、名前を藤森といいました。
真面目で心優しい藤森に、異世界からやってきた組織その1が、耳打ちします。
『おまえの故郷のイチョウの下に、この世界と別の世界とを繋ぐ黒穴がある』
『イチョウの封印を、稲荷神社の狐で解除すれば、
気候変動も猛暑も酷暑も、先進世界の技術でもって、たちまち、解決することができる』
近所の稲荷神社の稲荷狐に、全部の情報を共有した藤森は、稲荷狐からその子供を借り受けて、
レンタカーで、故郷の雪国へ向かったのですが。
この子狐、はじめて東京から出ましたので、
なにより8月ということで、あっちこっち夏祭りなどして露店においしい料理が勢揃いなもので、
コンコン、こんこん!
藤森が余裕をもって引き出しておいた現金の大半を、美味しいお肉と郷土料理とお肉とスイーツと、それからお餅とお肉とに変えて、
胃袋に全部ぜんぶ、収容してしまったのです。
地元の露店の店主さんは皆みんな商売繁盛。
さすが、稲荷神社の神様の遣い。さすが稲荷狐。
「おいしかった」
ぺろり!鼻についた和牛串の脂を幸福に舐めて、小さな狐のお面を頭につけて、稲荷子狐は大満足!
シメにバニラシェークをチューチューして、ポンポンおなかを膨らませるのでした――…
と、いう我が子の経済活動を、狐の磁場だか神使の霊気だか、ともかくナニカで察知したのが、
子狐を藤森に託した、稲荷神社の両親狐。
「あの子が遠く離れた雪国の夏祭りで、盛大に経済を回してる気配がする。良いことだ」
お父さん狐は先天的な、ネイティブ稲荷狐。
稲荷狐の本能として、商売繁盛と五穀豊穣と、その他諸々がとっても大好き。
すごく優しそうな笑顔をしています。
「しかし、お得意様……人間の方は、路銀が一気に減ってしまったようです」
お母さん狐は本州最北端県から嫁いできた、小さな霊場出身の、後天的稲荷狐。
狐の秘術で手紙を書いて、狐の秘術でそれをぴらぴら、浮かせて飛ばします。
「あの子の飲食代と土産代くらいは、私達が持ってやっても良いでしょう」
さぁ、手紙よ、稲荷狐が書いた不思議な手紙よ。
狐の秘術の波に乗って、愛しい愛しい子狐の手へ。
波にさらわれた手紙は、さっそくお題を回収。
たった数秒で、故郷雪国のイチョウのもとへ向かう最中の藤森のところへ――…
飛んでいったハズなのですが、あらあらまぁまぁ、なんということでしょう!
秘術の波にさらわれた手紙は、数秒で雪国の夏祭り会場に居る藤森のもとへたどり着いたものの、
いっちょまえに慣性の法則に従ってしまって、
受け取ろうにも手紙側のブレーキのききが悪い!!
「おい!子狐!」
稲荷子狐のお母さんから手紙が届くことは、子狐本人もとい本狐から聞いていた藤森です。
「届く手紙がこのスピードとは聞いていないぞ!」
祭り会場から少し離れたところで待っておったところ、自転車くらいのスピードで、ゆらゆら!
藤森の目の前を、通り過ぎてゆきました。
「かかさんが、おかね、おくってくれた」
それ走れ、やれ追いつけ、頑張って掴み取れ!
お母さん狐が飛ばしてくれた封筒を、藤森も子狐も、頑張って追いかけます……
が、なにぶんブレーキのききが悪いので云々。
「おとくいさん、がんばって、はしって」
「もう走ってる!」
「もっとはしって、もっと、もっと」
「殺す気か!!」
「ねぇ藤森、カラスとの合流だけど」
「いま忙しい!!」
くそっ、自転車もレンタルしてくれば良かった!
軽く後悔する藤森が、一生懸命走る、はしる。
ようやく秘術の波にさらわれた手紙に追いつくと、
「よっ、久しぶり、藤森」
その手紙を、藤森の同僚、付烏月と書いて「ツウキ」と読む男性が、ぱしっ!掴みました。
「ずいぶん疲れてるじゃん。運動不足〜?」
やーやー、大変だねぇ。
明るく笑う付烏月は、藤森や付烏月がいつも職場で着ている私立図書館職員の制服ではなく、
別の制服を、着ておりました。
「付烏月さん?」
何故あなたが、東京から離れたこの場所に?
藤森が聞こうとしたその言葉を、藤森の胸ポケットから出てきた不思議なハムスターが、止めました。
「藤森。彼が、僕たちと合流したがってた世界線管理局の局員。『カラス』だ」
不思議ハムが言いました。
世界線管理局とはつまり、不思議ハムの職場。
異世界に本部を持つ、とても不思議な組織でした。