今回のお題は「夏」だそうです。
かき氷にビールかけて食うなる某3世さんの所業を一度真似してみたいものの、
ネットで「実は美味くない」との結論を見てしまった物書きが、こんなおはなしをご用意しました。
最近最近、都内某所の某アパートに、風吹き花咲く雪国の出身の、藤森というのがおりまして、
この頃は酷い猛暑、酷暑、熱帯夜に高温多湿等々から、なんとか逃げ延びようとして、
仕事は暑くなる前から行って涼しくなる頃に帰り、
自宅はタイマーでしっかり冷房除湿をかけておき、
冷蔵庫にも水出し緑茶とアイスを常備……
しておったのですが。
東京の夏というのは、非常に、独特なものです。
東京で十数年仕事をしている藤森ですが、毎年、35℃以上の頃には、ぐでんぐでん。
すっかり、とけてしまうのでした。
その日も真夏日を記録した東京は体感猛暑。
外からアパートに帰ってきた藤森は、じっとり暑さのせいでバッタン、床に落ちてしまいました。
「ああ、フローリングが、つめたい」
猫は液体と申しますが、夏の藤森は氷です。
「エアコンのしたに いきたいが、 もう これいじょう うごきたくない」
でろんでろん、ぐでんぐでん。
藤森は床に張り付いたまま、溶けたまま。
「おのれ おんだんか きこうへんどう」
藤森は温暖化を恨みました。
藤森が上京してきた頃の東京23区の夏は、まだ、涼しさが残っていた気がしました。
それが令和を境界に、なんということでしょう。
東京23区の夏は「体温超え」というか、微熱通り越して発熱・高体温程度の夏になりました。
ところでそんな夏を冷房と除湿とアイスと水出し茶で生存し続ける藤森のアパートの涼しさを、
ここ2〜3年、近所の稲荷神社の子狐が学習して、
ロックもセキュリティも完全無視、売り物の稲荷お餅をカゴに詰め、入ってくるようになりまして。
「こんばんは!こんばんは!」
キャーキャッ、ぎゃーぎゃん!
その日もコンコン子狐が、稲荷のご利益たっぷりな、ひんやりお餅やシャリシャリ大福なんかを葛のカゴに詰めて、藤森の部屋に侵入。
「おとくいさん、きょうも、あつい!
キツネのおもち、だいふく、かって買って」
床に落ちている藤森に甘えて、鼻などベロンちょ。
夏の藤森が床に高頻度で落ちていることを、コンコン子狐、特に気にしちゃいません。
だって、子狐だって、夏はそうするのです。
森深めの稲荷神社は床がひんやり!その床におなかを付けると、とっても気持ち良いのです。
狐が涼しいんだから、人間だって、涼しいよ。
コンコン子狐は、その精神なのです。
「おとくいさん、おとくいさん」
いっつもお餅を買ってくれる藤森が大好きな子狐です。お餅を買ってもらう他に、一緒に遊んだりも、してほしいのです。
「おもち買って、おもち買って」
ふみふみふみ。藤森のふとももを渡って、腰に到達して、藤森の呼吸の上下は子狐のお船ごっこ。
藤森はそんなつもり、無いかもしれませんが、
子狐としては藤森と遊べて、大満足です。
「こぎつね。子狐。あつい。降りてくれ」
「キツネ、あつくないもん!」
「私があつい。たのむ」
「ほりほり宝さがし!」
「あ"ああ”ぁ、あだだだ、やめてくれ、凝ってる」
「かたこり!かたこり!ほりほりほりほり」
「あだだ…… あ、待て、そこ、もう少し、右……」
「おりゃりゃりゃりゃりゃりゃ。
サービスりょー、いっせんまんえんになります」
「現実的に支払い可能な額まで引いてくれ……」
ほりほりほり、ほりほりほり。
夏の稲荷子狐は、床に落ちてるお得意様と一緒に、
心ゆくまで遊んで遊んで、
そして藤森は翌日、子狐の揉み返しだか掘り返しだかで、一時的に、痛みに悶絶しておったとさ。
「そして、おとくいさんは、この日をさかいに、
キコー、機構と、キューセッキンするのでした」
「なんだそれ」
「このミライは、そくほーち、速報値です。
今後のおだいで、変わることがあります」
「だから、なんだそれ」
「キツネしってる。キツネ、ウソつかない」
【世界線管理局 収蔵品
『真実の水琴窟』】
水琴窟、スイキンクツとは、日本の庭園に設置されている可能性のある装置、あるいは楽器。
物書きの魔女が、とある世界線の日本に滞在中、有料庭園で抹茶にどハマリし、
抹茶を堪能した邸宅の庭に設置されていた水琴窟を、自身の邸宅に見様見真似でしつらえた。
本人は「抹茶ではなく水琴窟にハマったのだ」と強く主張して譲らない。
周囲の会話や思考を吸い上げて魔法の水を作り出し、手水鉢に流して、
魔法の宝玉108個によって情報の水が、
ろ過と、落下を経て、宝玉の下に埋められたツボの中に落ちてその音が反響。
お題回収まっしぐら、「隠された真実」だけがツボに溜まる、という仕組み。
音色はタングドラムに似ているが、
そのタングドラムは周囲の人々の、「隠された真実」、隠したかった暴露情報を、ガッツリ含んでおるので、この水琴窟の近くで噂話は厳禁。
<<噂話は厳禁>>
――――――
世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織は、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムをたくさん収蔵しておりまして、
その日は1件、滅んだ世界に放ったらかしにされておったチートアイテム……管理局の収蔵品に、
「ちょっと貸してくれ」、貸与申請が入りました。
その名も「真実の水琴窟」。
情報を吸い上げて、水として流し、嘘をろ過して真実で音を奏でる、とっても良い音色の装置です
――遠くで聞いている限りでは。
水琴窟に耳を寄せると
ぴんぴんぴん、チャピチャピチャピ、
美しい反響音に混じって、水琴窟がその身・そのツボに溜めた本音が、本性が、隠された真実が、
こしょこしょこしょヒソヒソヒソヒソ!
小さく美しく、聞く者によっては耳痛く、
反響して、聞こえるのです。
真実を隠したい側には、たまったモンじゃない。
「はーい。収蔵品通りまぁす。収蔵品通りまぁす」
ガラガラ、がーがー。
手押し台車にのせられた段ボールが、管理局の廊下を、収蔵部収蔵課の収蔵庫から法務部執行課へ。
「収蔵品、通りまぁす、ご協力お願いしまーす」
段ボールの中に入っているのが、真実の水琴窟。
なんということでしょう。持ち運び可能、移設可能な水琴窟だったのです。
「収蔵品、通りまぁーす」
ガラガラ、がーがー。
段ボールに入れられ、手押し台車にのせられた水琴窟は、収蔵部に向けて廊下を進みます。
法務部が水琴窟の中に溜まっている「隠された真実」に、どうしても用事があるようなのです。
というのも、真実の水琴窟が収蔵されておった、まさしくピンポイントにその収蔵庫を裏口として、
管理局を敵視している「世界多様性機構」が、破壊工作用だか情報収集用だか知りませんが、
ともかく、スパイを送り込んだようなのです。
真実の水琴窟は、周囲で語られた言葉、周囲で為された強い思考を吸い上げて、魔法の水を流し、
そして、真実を水琴窟のツボに隠し溜めます。
ということは水琴窟、忍び込んだスパイの話し声をツボの中に隠しておるかもしれないのです。
「ちょっと貸してくれ」。法務部からの水琴窟貸与申請は、これが理由でした……が。
「法務部さぁん!収蔵部収蔵課です〜、申請があった収蔵品、持ってきましたぁー!」
ぴちゃんぴちゃん、ちゃぴんちゃぴん。
段ボールに小さなナイフを当てて、水琴窟を箱から出すと、さっそく周囲の情報が水となって水琴窟に流れます。隠された真実がツボに溜まります。
こしょこしょこしょヒソヒソヒソヒソ!
ツボに溜まった真実は、すごくすごく小さな声で、ツボの中を反響します。
「迅速な対応、助かったよ。ありがとう」
はい、約束の手間賃だ。受け取ってくれ。
執行課特殊即応部門の、副部長さんが出迎えて、緊急対応の追加サービスにお礼をします。
収蔵部局員に手渡されたのは、
ワンホールのレモンクリームケーキと、フローズンタイプのアイスカフェラテ、
それから焼きたてほっこり、カフェラテと一緒に食べるに最適なバタークッキーです。
というのもこの局員、美味しいものが大好きで。
「これでスパイが何人潜り込んだか、特定が、」
特定が、容易になる。
真実の水琴窟の「真実」を知らぬ執行課の局員さん、それを持ってきてくれた局員に言いました。
そして執行課の局員さん、すぐに「真実」に気づきました――どうやってこのカメの中から特定の情報だけ引っこ抜くのでしょう??
「あのね、うーんとね」
収蔵部の局員、言いました。
「すごく、説明、難しいんだけどぉ、うーんと……
法務部さんがやろうとしてるのはね、
カフェラテの中に混ぜちゃったお砂糖とー、オリゴ糖とー、ハチミツの中から、
ハチミツだけ取り出すようなモノだから、
うーんと、 つまり、 うん……」
そういうことだよ。頑張ってね。
収蔵部さんはそう言って、手間賃のカフェラテを飲んだとさ。
今年も風鈴の音の季節がやってきた。
私、永遠の後輩こと高葉井の部屋にも、お隣さんやご近所さんからクレームが来ないように、
エアコンの風で、風鈴が鳴ってる。
ちりんちりん、チリンチリン。
上下左右送風にしてあるエアコンの風は規則的に、風鈴に一定時間だけ風を当ててくれる。
今の時期は、この風鈴の音が起床のアラーム。
金魚と花火が描かれてる水色の風鈴は、一昨年、先輩から貰った……
というか、先輩と事実上、風鈴交換をした物で、
私としても、けっこう気に入ってる物だ。
その先輩とは最近ちょっと疎遠だ。
職場は一緒だし、別にお互い、嫌ってるってワケじゃないし、一緒にお昼も時々食べる。
だけど、先輩はどこか上の空で、
それは、先輩自身の……何というか、自然を大事にする心のせいだった。
最近先輩の故郷の雪国な田舎町の、ひとつの山を外国資本が購入予定って情報を先輩が受け取った。
その山は、東京や関東ではもう絶滅しちゃったような花がたくさん咲いてたり、
東京ではタイワンリスしか見かけないけど、在来種のニホンリスがいっぱい生息してたり、
ザ・日本の原風景が、静かに残ってる山らしい。
先輩は花が、特に「その地域」に昔から息づいてる「そのまま」の命が好きだった。
チリンチリン、ちりんちりん。
先輩がくれた風鈴の音は、貰ったばかりの一昨年も、先輩が絶滅危惧種の花で心痛めてる今年も、
何も、ちっとも、変わらない。
ただ先輩だけが、
どこか遠くに、私の知らない場所に、
それこそ、夏が終わって箱の中に戻されて、そのままどこかに消えちゃった風鈴みたいに、どこかに。
行っちゃったような、カンジがする。
先輩、せんぱい。世間はまだ夏だよ。
戻ってきてよ先輩。いつもの先輩に戻ってよ。
じゃないと私、先輩の部屋に安心して晩ごはんたかりに行けないよ(食欲)
「フーリン?」
「うん。風鈴」
先輩が職場で上の空になっちゃったのと同時期に、
私は「去年日本に来た」っていう女性と知り合って、今はそこそこ、少しだけ仲良くなった。
なんでも異世界から来たらしい。
ホントかどうかは気にしない。
東京の伝統工芸というか、日本の文化というか、
そういうのを、気に入って、尊敬してるって。
今日はその異世界さんと一緒に、部屋でそうめんを作ったり、食べたりなどした。
「いろんな色と材質と、形のがあるよ」
「黄色のフーリンも、ありますか」
「食べたら見に行こうよ。100均に売ってるし」
「ヒャッキン……偉大です」
「予算いくら?」
「5000円とかですか?」
「それ多分100均じゃなくて普通に夏のテーマショップとかガラス専門店とかの値段かなぁ」
ちりん、ちりん。
エアコンの風に当たって、一昨年や去年と同じ風鈴の音が、部屋で揺れてる。
「藤森さんは」
「先輩誘う?どうだろうなぁ……」
チリン、チリン。
風鈴の音は一緒だけど、今年の夏は、以前とちょっと違う気がして、なんとうか、なんというか。
ともかく、何かが起こりそうな気は、してた(丸投)
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこでは不思議なハムスターが店主を押し付けられて、喫茶店を期間限定、やっておりました。
喫茶店の店主をさせられているハムスターはビジネスネームを「ムクドリ」と言いました。
「ああ……僕はいま、ナッツ天国に居るぞぉ」
ネズミ車のようなコーヒー焙煎器を回して回して、
1杯分ずつ豆を焙煎するムクドリは、
不思議なハムスターらしく不思議なチカラを持っており、なんと、自分の「温度」を操れるのです!
よって、すべてのコーヒー豆を、すべて最適な温度で、カラカラ、カラカラ!
1杯ずつ、焙煎できるのです。
「固いナッツ、甘いナッツ、それらを噛み心地の良いコードや家具が包んでる。
素晴らしい……ハムスターパラダイスだ……」
ところで今回のお題は「心だけ、逃避行」ですね。
そうです。とっとこムクドリ、ネズミ車式焙煎器を、とっとこカラカラ、とっとこカラカラ、
回して回して回し続けて、ちっとも景色も残りの返済額も変わらないので、
心だけ、逃避行を開始しておったのです。
「今日はどのコードをかじろうかな……」
ムクドリの前には金色に輝く家電のコードや、銀色に光る桜木、モミの木の家具がいっぱい!
――もちろん心の逃避行シェルターの光景ですが。
ところで「『返済額』とは」?
それはお題と関係無いので、気にしない。
「聞いてくれ、ムクドリ!
彼女はなんと勤勉で、誠実な機構職員だろう!」
とっとこムクドリがガラガラガラ、心だけハムスターパラダイスに逃避行している間に、
管理局の同僚、犬耳女性のコリーが、感動に泣きはらしてご来店です。
どうやら別のお客さんと、2名で来店のようです。
「私達管理局を敵視する組織に身を置きながら、しかし私達の行動理念を知るために、
わざわざ、危険をおかして、管理局の就職希望者用見学ツアーに来たんだ!」
ああ、ああ。犬耳女性が何か言っています。
「なあ、ムクドリ、彼女こそ管理局員にふさわしいと、君もそう思わないか?!」
だけどムクドリ、知りません。
心だけ、逃避行です。
ガラガラ、がらがら、ネズミ車式焙煎器を回して回して、回し続けます――豆を焙煎するのです。
「ムクドリ、いつものっッ、……っとお?!」
とっとこムクドリがガラガラガラ、魂だけハムスターヘブンに逃避行している間に、
管理局の同僚、喫茶店の常連で法務部のツバメが、コーヒーを飲みにご来店です。
だけどコリーが連れてきたもうひとりのお客を見て、文字通り飛び上がって、すごく気まずそう。
「あー、えーと……、私は、何も、見ていないぞ」
うん。見てない。ツバメがカウンターに座ります。
コリーが連れてきた「もう1名」が、本来であればツバメ、法務部執行課の局員として、
一応、いちおう、職務質問のようなことをしなければ、ならないような相手だったのです。
これもある意味、「心だけ、逃避行」かしら?
「ここに居るのは私と、ムクドリ、お前だけだ」
だけどムクドリ、知りません。
心だけ、逃避行です。
ガラガラ、がらがら、オーダーされた豆をオーダーされた浅さ・深さで焙煎するのです。
「ムクちゃん、ムクちゃん、こんにちはぁ〜」
とっとこムクドリがガラガラガラ、もはや心魂だけハムスターボディーから抜け出している頃に、
管理局の同僚、喫茶店の上客で収蔵部のドワーフホトが、コーヒーとスイーツを頼みにご来店です。
「あー!アテビさんだぁ!
あのねぇ!コリーさんから聞いたのぉ、機構から管理局に、転職するって〜!」
ねぇ、ゼッタイ、収蔵部収蔵課を第一志望にして、それで一緒にお仕事しよーね〜!
ツバメが一生懸命「見えてないフリ」をしてる相手を、ドワーフホト、両手とって握手です。
コリーが「彼女が来るのは受付係だ」と反論しています。「アテビ」と呼ばれた「もう1名」が、助けを求めてツバメとムクドリを見ています。
だけどムクドリ、知りません。
心だけ、逃避行です。
ガラガラ、がらがら、清流きらめくお花畑を走り回る想像をしながら、今日も今日とて、焙煎です。
「ああ、ああ……美しい。うつく……しい……」
今日もムクドリの喫茶店は盛況です。
今日もムクドリの喫茶店は、お題回収に、最適であったのです。 おしまい、おしまい。
前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか別の世界に、「世界多様性機構」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこは、滅亡しそうな世界の生き残りを他の世界へ、密航によって避難させたり、
発展途上の世界に先進世界の技術や魔法を、いっぱい導入して一気に発展させたり、
すなわち「皆で進み、誰も見逃さない」をモットーとして、しかし為してることが完全に違法なので、
ぶっちゃけ、世界間の航路整備等々をしている世界線管理局からは、目をつけられておりました。
だって、機構は「そこで終わるべき」人々を大量に別の世界へ送って、その「別の世界」に負荷をかけたり、パンクさせたりしてしまうのです。
なにより、機構は先進技術の導入はするのに伝統技術の保存はしないので、「別の世界」の文化も伝統も全部上書きして潰してしまうのです。
で、今回のお題回収役は、その機構の新人さん。
ビジネスネームを「アテビ」といいます。
「機構は確実に、たくさんの命を救ってるけど、
管理局の言い分は、どうなんだろう」
再度明記しますが、アテビの職場は違法なことをしておるので、管理局に目を付けられています。
ですがアテビ、気になるものは、気になるのです。
「すごく怖いけど、行ってみよう!」
さあ、冒険だ、冒険だ!
アテビは身分を偽装して、自分の職場を「違法」と断じる世界線管理局の、施設見学ツアーに応募。
運良くか運悪くか、ともかく当選しましたので、
敵地見学、お題回収、冒険に向かいます。
東京の文化をリスペクトして、小さな黄色いメモ帳と、それからボールペンとを持って、
ガッツリ、いろいろ、勉強する気満々。
一応念のため、緊急脱出ボールも忘れません。
「よし、出発!」
「今回の見学ツアーの案内を担当する、コリーだ」
その日の管理局見学ツアーは、「何故か」1人しか応募が無かった様子。好都合っちゃ好都合です。
犬耳のスタイル良い女性が、丁寧にアテビを案内して、いろんな質問に答えてくれます。
「今日は君ひとりだ。君のペースに合わせて、ゆっくり、じっくり回ろう」
さあ、冒険だ、冒険だ!
まずアテビは、「本来なら滅亡世界の生存者はここに来る」という、難民シェルターを見学です。
「三食おやつ付き。レジャーも各種完備だ」
犬耳コリーが言いました。
「いわゆる『地球◯個分』。今後も拡張予定だ。
君も知ってのとおり、それぞれの世界が『それぞれの世界』として始まり、終わるために、滅亡世界から別世界への密航は原則として禁止されている。
それでも、ひょんなことから生き延びる者は居る。
彼等が退屈せず、『彼等』として生涯を、尊厳をもったまま終えるために作られたのが、ここだ」
管理局は滅亡世界の人々を「他の世界」ではなく、「ドチャクソデカい人造世界」に収容してるのか。
アテビはよくよく理解して、メモに残しました。
さあ、冒険だ、冒険を続けよう!
次にアテビは、「本来なら滅亡世界の技術や魔法はここに来る」という、収蔵庫の見学です。
「ここは、多数存在する収蔵庫の中のひとつだ」
犬耳コリーが言いました。
「すべての収蔵庫は、それひとつにつき、1人の管理局員が担当している。
世界が滅ぶと、その世界が積み上げてきた技術もアイテムも、すべて一緒に消滅するものだが、
たまに、それこそ滅亡世界の生存者と同じように、残ってしまうものがある。
それらが他の世界に影響を与えないように、我々はそれらを、回収して、保管しているんだ」
管理局は滅亡世界の先進技術を「発展途上世界」に提供せず、管理局内で使ってるのか。
アテビは質問事項が出てきたものの、
ひとまず、メモに残しました。
さあ、冒険だ、冒険の終盤だ!
最後にアテビは、「本来なら管理局員の胃袋はここで満たされる」という、職員専用食堂に……
「職員専用食堂」??
「ここが、君が将来世話になるかもしれない、管理局員のための専用の食堂だ」
コリーが言いました。
「管理局は、滅亡世界の生存者も、シェルター出身者も、多く就職している。
あらゆるニーズ、好き嫌いに、対応可能だ。君の世界の料理もおそらく、ここで提供されているよ」
「将来」「世話になるかもしれない」???
「あれ?」
アテビは完全に混乱してしまって、自分の見学ツアーのチケットを確認しました。
「あれ……?」
見学ツアーのチケットです。
それは、間違い無いのです。
「あ、 あっ」
しかしチケットの裏面を見て、アテビ、すべてを理解して、コリーに猛烈に謝罪しました。
「ごめんなさい!就職希望じゃないんです!」
「なに?」
「私、わたしっ、ただ、管理局が気になって」
「ん、ん?」
アテビのチケットの裏側には、しっかり、「就職希望者用」と、印字されておったとさ。