かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
「ここ」ではないどこか、別の世界に、世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこでは不思議なハムスターが店主を押し付けられて、喫茶店を期間限定、やっておりました。

喫茶店の店主をさせられているハムスターはビジネスネームを「ムクドリ」と言いました。

「ああ……僕はいま、ナッツ天国に居るぞぉ」
ネズミ車のようなコーヒー焙煎器を回して回して、
1杯分ずつ豆を焙煎するムクドリは、
不思議なハムスターらしく不思議なチカラを持っており、なんと、自分の「温度」を操れるのです!
よって、すべてのコーヒー豆を、すべて最適な温度で、カラカラ、カラカラ!
1杯ずつ、焙煎できるのです。

「固いナッツ、甘いナッツ、それらを噛み心地の良いコードや家具が包んでる。
素晴らしい……ハムスターパラダイスだ……」

ところで今回のお題は「心だけ、逃避行」ですね。
そうです。とっとこムクドリ、ネズミ車式焙煎器を、とっとこカラカラ、とっとこカラカラ、
回して回して回し続けて、ちっとも景色も残りの返済額も変わらないので、
心だけ、逃避行を開始しておったのです。

「今日はどのコードをかじろうかな……」
ムクドリの前には金色に輝く家電のコードや、銀色に光る桜木、モミの木の家具がいっぱい!
――もちろん心の逃避行シェルターの光景ですが。

ところで「『返済額』とは」?
それはお題と関係無いので、気にしない。

「聞いてくれ、ムクドリ!
彼女はなんと勤勉で、誠実な機構職員だろう!」
とっとこムクドリがガラガラガラ、心だけハムスターパラダイスに逃避行している間に、
管理局の同僚、犬耳女性のコリーが、感動に泣きはらしてご来店です。
どうやら別のお客さんと、2名で来店のようです。

「私達管理局を敵視する組織に身を置きながら、しかし私達の行動理念を知るために、
わざわざ、危険をおかして、管理局の就職希望者用見学ツアーに来たんだ!」
ああ、ああ。犬耳女性が何か言っています。
「なあ、ムクドリ、彼女こそ管理局員にふさわしいと、君もそう思わないか?!」

だけどムクドリ、知りません。
心だけ、逃避行です。
ガラガラ、がらがら、ネズミ車式焙煎器を回して回して、回し続けます――豆を焙煎するのです。

「ムクドリ、いつものっッ、……っとお?!」
とっとこムクドリがガラガラガラ、魂だけハムスターヘブンに逃避行している間に、
管理局の同僚、喫茶店の常連で法務部のツバメが、コーヒーを飲みにご来店です。
だけどコリーが連れてきたもうひとりのお客を見て、文字通り飛び上がって、すごく気まずそう。

「あー、えーと……、私は、何も、見ていないぞ」
うん。見てない。ツバメがカウンターに座ります。
コリーが連れてきた「もう1名」が、本来であればツバメ、法務部執行課の局員として、
一応、いちおう、職務質問のようなことをしなければ、ならないような相手だったのです。
これもある意味、「心だけ、逃避行」かしら?
「ここに居るのは私と、ムクドリ、お前だけだ」

だけどムクドリ、知りません。
心だけ、逃避行です。
ガラガラ、がらがら、オーダーされた豆をオーダーされた浅さ・深さで焙煎するのです。

「ムクちゃん、ムクちゃん、こんにちはぁ〜」
とっとこムクドリがガラガラガラ、もはや心魂だけハムスターボディーから抜け出している頃に、
管理局の同僚、喫茶店の上客で収蔵部のドワーフホトが、コーヒーとスイーツを頼みにご来店です。

「あー!アテビさんだぁ!
あのねぇ!コリーさんから聞いたのぉ、機構から管理局に、転職するって〜!」
ねぇ、ゼッタイ、収蔵部収蔵課を第一志望にして、それで一緒にお仕事しよーね〜!
ツバメが一生懸命「見えてないフリ」をしてる相手を、ドワーフホト、両手とって握手です。
コリーが「彼女が来るのは受付係だ」と反論しています。「アテビ」と呼ばれた「もう1名」が、助けを求めてツバメとムクドリを見ています。

だけどムクドリ、知りません。
心だけ、逃避行です。
ガラガラ、がらがら、清流きらめくお花畑を走り回る想像をしながら、今日も今日とて、焙煎です。
「ああ、ああ……美しい。うつく……しい……」
今日もムクドリの喫茶店は盛況です。
今日もムクドリの喫茶店は、お題回収に、最適であったのです。 おしまい、おしまい。

7/12/2025, 7:36:25 AM