【世界線管理局 収蔵品
『真実の水琴窟』】
水琴窟、スイキンクツとは、日本の庭園に設置されている可能性のある装置、あるいは楽器。
物書きの魔女が、とある世界線の日本に滞在中、有料庭園で抹茶にどハマリし、
抹茶を堪能した邸宅の庭に設置されていた水琴窟を、自身の邸宅に見様見真似でしつらえた。
本人は「抹茶ではなく水琴窟にハマったのだ」と強く主張して譲らない。
周囲の会話や思考を吸い上げて魔法の水を作り出し、手水鉢に流して、
魔法の宝玉108個によって情報の水が、
ろ過と、落下を経て、宝玉の下に埋められたツボの中に落ちてその音が反響。
お題回収まっしぐら、「隠された真実」だけがツボに溜まる、という仕組み。
音色はタングドラムに似ているが、
そのタングドラムは周囲の人々の、「隠された真実」、隠したかった暴露情報を、ガッツリ含んでおるので、この水琴窟の近くで噂話は厳禁。
<<噂話は厳禁>>
――――――
世界線管理局なる厨二ふぁんたじー組織は、滅んだ世界からこぼれ落ちたチートアイテムをたくさん収蔵しておりまして、
その日は1件、滅んだ世界に放ったらかしにされておったチートアイテム……管理局の収蔵品に、
「ちょっと貸してくれ」、貸与申請が入りました。
その名も「真実の水琴窟」。
情報を吸い上げて、水として流し、嘘をろ過して真実で音を奏でる、とっても良い音色の装置です
――遠くで聞いている限りでは。
水琴窟に耳を寄せると
ぴんぴんぴん、チャピチャピチャピ、
美しい反響音に混じって、水琴窟がその身・そのツボに溜めた本音が、本性が、隠された真実が、
こしょこしょこしょヒソヒソヒソヒソ!
小さく美しく、聞く者によっては耳痛く、
反響して、聞こえるのです。
真実を隠したい側には、たまったモンじゃない。
「はーい。収蔵品通りまぁす。収蔵品通りまぁす」
ガラガラ、がーがー。
手押し台車にのせられた段ボールが、管理局の廊下を、収蔵部収蔵課の収蔵庫から法務部執行課へ。
「収蔵品、通りまぁす、ご協力お願いしまーす」
段ボールの中に入っているのが、真実の水琴窟。
なんということでしょう。持ち運び可能、移設可能な水琴窟だったのです。
「収蔵品、通りまぁーす」
ガラガラ、がーがー。
段ボールに入れられ、手押し台車にのせられた水琴窟は、収蔵部に向けて廊下を進みます。
法務部が水琴窟の中に溜まっている「隠された真実」に、どうしても用事があるようなのです。
というのも、真実の水琴窟が収蔵されておった、まさしくピンポイントにその収蔵庫を裏口として、
管理局を敵視している「世界多様性機構」が、破壊工作用だか情報収集用だか知りませんが、
ともかく、スパイを送り込んだようなのです。
真実の水琴窟は、周囲で語られた言葉、周囲で為された強い思考を吸い上げて、魔法の水を流し、
そして、真実を水琴窟のツボに隠し溜めます。
ということは水琴窟、忍び込んだスパイの話し声をツボの中に隠しておるかもしれないのです。
「ちょっと貸してくれ」。法務部からの水琴窟貸与申請は、これが理由でした……が。
「法務部さぁん!収蔵部収蔵課です〜、申請があった収蔵品、持ってきましたぁー!」
ぴちゃんぴちゃん、ちゃぴんちゃぴん。
段ボールに小さなナイフを当てて、水琴窟を箱から出すと、さっそく周囲の情報が水となって水琴窟に流れます。隠された真実がツボに溜まります。
こしょこしょこしょヒソヒソヒソヒソ!
ツボに溜まった真実は、すごくすごく小さな声で、ツボの中を反響します。
「迅速な対応、助かったよ。ありがとう」
はい、約束の手間賃だ。受け取ってくれ。
執行課特殊即応部門の、副部長さんが出迎えて、緊急対応の追加サービスにお礼をします。
収蔵部局員に手渡されたのは、
ワンホールのレモンクリームケーキと、フローズンタイプのアイスカフェラテ、
それから焼きたてほっこり、カフェラテと一緒に食べるに最適なバタークッキーです。
というのもこの局員、美味しいものが大好きで。
「これでスパイが何人潜り込んだか、特定が、」
特定が、容易になる。
真実の水琴窟の「真実」を知らぬ執行課の局員さん、それを持ってきてくれた局員に言いました。
そして執行課の局員さん、すぐに「真実」に気づきました――どうやってこのカメの中から特定の情報だけ引っこ抜くのでしょう??
「あのね、うーんとね」
収蔵部の局員、言いました。
「すごく、説明、難しいんだけどぉ、うーんと……
法務部さんがやろうとしてるのはね、
カフェラテの中に混ぜちゃったお砂糖とー、オリゴ糖とー、ハチミツの中から、
ハチミツだけ取り出すようなモノだから、
うーんと、 つまり、 うん……」
そういうことだよ。頑張ってね。
収蔵部さんはそう言って、手間賃のカフェラテを飲んだとさ。
7/14/2025, 9:54:13 AM