かたいなか

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6/27/2025, 4:56:27 AM

前回と、前々回投稿分から繋がるおはなし。
最近最近、「ここ」ではないどこかの世界に、
「世界線管理局」と「世界多様性機構」という、ガッツリ厨二ふぁんたじーな組織がありまして、
別に管理局の方は、それほどでもないのですが、
機構の方は、管理局を、親の仇も同然に、
それはもう、ドチャクソ敵視しておりました。

打倒管理局!管理局を許すな!
機構はあの手この手で管理局を襲撃して、
しかし結局阻止されるので、
最後の声は、だいたい決まっておりました。
『おのれ管理局!』

というのも世界多様性機構、
滅びゆく世界に取り残された難民を、まだ生きている世界に「密航」の形で渡航させて、
全員、もれなく、余さず救助したり、
発展途上の世界に先進世界の技術を、「密輸」も同然の形で堂々と導入して、
皆に、平等に、先進技術の恩恵を与えたり、
そういうことをしておるのですが、

「その世界はその世界として」のモットーをつらぬく巨大で強大な組織、世界線管理局は、
救助の密航も支援の密輸も全部ぜんぶ取り締まって、機構の邪魔をしてくるのです。

ゆえに、機構の最後の声は「おのれ管理局!」
滅ぶ世界の生き残りを他の世界に移送したり、
貧しき世界を富める技術で発展させたり、
それらの、何が悪いことなのでしょう――?

「私、それを知らなきゃいけない気がするんです」
途上世界に先進世界の技術を大量導入することが善良なことだと思っていた新人機構職員が、
機構の理念に疑問を持ってしまったので、
「こっち」の世界の東京、つまり異世界渡航技術も確立してない途上世界の現地住民ひとりを連れて、
管理局に、答えを探しに行くことにしたのでした。

機構職員は、ビジネスネームを「アテビ」、
東京都民は名前を後輩もとい高葉井といいました。

「わぁ、すごい、ホントに管理局だ」
一緒に管理局に行きましょうと言われた高葉井。
アテビに連れられて、収蔵庫みたいなところからこっそり潜り込んで、アテビの組織の敵であるところの管理局に着きました。
「すっご、すっご。ゲームで見たとおり」

管理局は資金集めや情報発信の目的で、
「こっち」の世界ではいわゆる「マルチメディアミックスな元同人ゲーム」、
「だいぶガチャが優しいソシャゲ」、
「コスメや事務用品等々のコラボグッズが完全に普段遣いできるガチ仕様」のシリーズを展開中。
なので高葉井、異世界の組織に来た認識がありません。完全に「管理局を再現しました」みたいなアトラクション施設にでも招待された気でいまず。

そりゃそうです。
だって異世界も世界間航行も滅亡世界も、
全部ぜんぶ、アニメやゲームの世界のハナシ。
それが実在するなんて、誰も、だれも。

「私達の侵入は、もう管理局にバレてます」
高葉井と一緒に透明マントをかぶって、抜き足。
「『図書室』だけ、行ければ良いんです」
管理局員を避けながら廊下を、差し足。
「図書室には、管理局のほぼほぼ全部の情報が、集まっているそうです。それを、見たい」

なぜ、管理局が私達機構を取り締まるのか、
なぜ、たとえば東京のような途上世界に、先進世界の技術を持ち込んではいけないのか、
アテビはそれが知りたくて、
アテビはその場所に行きたくて、
道案内役として、「ゲームとしての管理局」を熟知している高葉井を、連れてきたのでした。

「あのさ、アテビさん、普通に受付に行って、見学申し込むのはダメなの?」
「無理です。私は、管理局と敵対している、機構の組織の職員なんです。捕まっちゃいます」
「ただの観光施設でしょ、ここ?」
「違うんです。ここは『世界線管理局の』。
本当に、本物の、異世界関係の違法とか航路とかを管理する、大きな組織の中なんです」

「管理局って、ただのソシャゲだよ?元々同人ゲーだったのが、有名になっただけだよ?」
「だから、 違うんです。それから……、
ここには今、高葉井さんの先輩が、藤森さんが、管理局の手によって、連れてこられています」
「んんんんんん????」

なんか、よく分かんない。
異世界渡航をしたことがない高葉井には、アテビの言葉が完全に、ちんぷんかんぷん。
行きたい場所があるなら予約とれば良いのに。
なんでわざわざ、こんなことするんだろう……

と、高葉井が色々考えておった、そのときです!

「そこの女性ふたり、止まりなさい」
敵意の無い敵対組織の人間が管理局に侵入したとの通報を受けて、管理局の法務部局員が、
アテビと高葉井を、見つけてしまったのです!

アテビたちを見つけた局員が、淡々と静かに、どんな温度も無く言った最後の声は、これでした。

「法務部執行課、特殊即応部門のツバメだ。
1人は『東京』の現地住民として、そっちは世界多様性機構の構成員だな。ここに来た目的は?」

さぁ、逃げなきゃ、逃げなきゃ。
アテビは高葉井の手を引っ張って――

6/26/2025, 9:58:54 AM

愛情、愛憎、友愛、情愛。
愛と言っても色々な種類があるようです。
愛は食卓にもあるし、そのひと手間にも、あいらびゅーがあるのです。
今回はお菓子とお茶と、大量の厨二要素を仕込んだおはなしをご用意しました。

最近最近、「ここ」ではないどこか、別の世界に、
「世界線管理局」という大きな組織がありまして、
その名のとおり、いろんな世界の違法な渡航を取り締まったり、滅んだ世界への航路を封鎖したり、
あるいは、世界Aが世界Bを技術的に侵略したり、大量に移民を流入させたりするのを、阻止したり。

要するに、すべての世界が「自分の世界」として、独立して、自立して、尊重されるように。
世界に関する色々な仕事をしておるのでした。

で、そんな世界線管理局の「小さな愛」ですが、
丁度、収蔵部収蔵課なる部署の、数ある収蔵庫の中のひとつで、収蔵部の局員が、
キレイなクロスをテーブルに敷いて、1杯のお茶を用意しておりました。

茶っ葉をブレンドしている女性局員は、ビジネスネームを「ドワーフホト」といいました。

「おいし〜お茶を、淹れましょー、とんとん、
もてなしのお茶、淹れましょー、たんたん」
ティースプーンで目分量、しゃっしゃパッパとティーポットに、入れて熱湯を落とすドワーフホト。
「あっためた〜ポットの中は、
小さな愛が、とんたんた、とんたんた〜」

その日、ドワーフホトは幸福でした。
というのも今朝、ドワーフホトが管理している担当の収蔵庫に、敵対組織から高級お菓子のスイーツボックスが届いたのでした!

法務部に通報したら、お菓子が取り上げられてしまいますので、自分でトラップや毒の有無を調べて、
けっきょく、完全に、確実に、まったくの無害であることが判明しましたので、
中身をつぶさに確認して、なかなかの量のプチケーキが入っておりましたので、
収蔵庫からテーブルを引っ張り出して、美しいクロスを選んで敷いて、
そして、お茶の用意を始めたのでした。

なんでも現在、管理局に、「攻撃意志の無い敵対組織の構成員」が、忍び込んでおるそうです。
きっと、ドワーフホトの収蔵庫を侵入経路にして、忍び込んだのでしょう。
お菓子が大好きなドワーフホトのことを知っていて、ドワーフホトがお菓子に気を取られている間に、
ドワーフホトの収蔵庫を通って、管理局に入ったのでしょう。

毒も罠も魔法も薬品も何も検出されないプチケーキを置いておくあたり、忍び込んだ「敵対組織の構成員」は、本当に、攻撃意志が無い模様。
であればドワーフホト、今回ばかりは見逃します。
それがドワーフホトの、小さな友愛なのです。

「法務部の即応部門さんに見つかってぇ、あたしの収蔵庫に逃げてきたらー、
そのときは、隠してあげても、やぶさかでな〜い」

いつでも逃げてきて良いよ、
でも早くしなきゃ、お茶もお菓子も食べちゃうよ。
ポットをお湯で満たしたドワーフホトは、キレイな宝石の砂の砂時計をくるりんぱ。
茶っ葉がお湯の色を染めてゆくのを、鼻歌うたいながら、見つめておりました。

ところで「攻撃意志の無い敵対組織の構成員」って結局誰だったのでしょう?
それはほら、「小さな愛」とは関係無さそうなので、
次に配信されるお題次第ということで。
しゃーない、しゃーない。

6/25/2025, 5:26:55 AM

前回投稿分の同時間帯、最近最近の都内某所、某不思議な私立図書館から始まるおはなし。
お題回収役の名を藤森といい、風吹き花咲く雪国の出身。昨今の希少植物の減少を寂しがっていた。
このおはなしはフィクションかつファンタジーで、
ゆえに、姿を消し続ける花々の保全手段を、
藤森はまさかの、異世界の技術に見出した。

というのも先日藤森の前に異世界人が現れて、
その異世界人の世界には希少な花を増やす方法も、
この世界の環境問題を一気に解決する技術も、
全部ぜんぶ、既に存在しておるそうで。
ただその「別の世界の技術」を勝手に導入すると「管理局」という組織に法律違反で捕まるらしい。

本来ならば未だ異世界渡航技術など存在せぬ東京。
異世界転生も異世界渡航も、すべてはゲームや漫画の中にのみ存在するエンターテイメントで、
異星人は居ても、異次元人は存在しても、
世界の壁を越えて、別の世界からこの世界に、必要以上に干渉することは、違法なのだという。

藤森が出会った異世界人は、その法を破って東京に現れて、そして、藤森と出会ったのだ。

で、ここからが本題にして、お題回収。
藤森が今日も職場の私立図書館から、少し気温の下がる夜の頃に帰宅して、
そして、防音防振の整った自宅アパートに到着、
鍵を開けて部屋に入ると、

「やぁ、藤森、ひさしぶり!」
カリカリカリ、かりかりかり!
藤森の朝食たるナッツ入りグラノーラの袋を勝手に明けて、ハムスターがカボチャの種を失敬。
「相変わらず酷い顔してるね。
空はこんなにも澄み渡ってキレイなのに、随分とまぁ、曇りに曇った顔しちゃってさ」
ハムスターは藤森の顔を見て、日本語を話した。

ハムスターは「管理局」なる組織の局員。
ビジネスネームを(ハムスターのくせに)、「カナリア」というのだという。
藤森が異世界人と接触してしまったので、
その異世界人から危害や被害を加えられないよう、
あるいは藤森自身が、異世界人にそそのかされて法に違反しないように、監視しているという。

断じて藤森が食っているミックスナッツグラノーラを気に入って入り浸っているワケではない。
多分。 たぶん。

「お久しぶりですカナリアさん。……空?」
「だって、空だよ。夜空だって、空だろ?
空はこんなにも、過剰な光さえ無けりゃたくさん星が見えてただろうコンディションなのに、
君ときたら、どうだい。ひとりで悩んじゃって」
「放っておいてくれ。あなたには関係ない」
「そう言うなよ。僕だって仕事なんだ。

ところで今日はそんな僕からお土産がね。
ほら!最近100均で見つけてきたヒマワリのt

待って待ってまって保健所に連絡しないで!
冗談だよ!僕だって君の主食がヒマワリやカボチャじゃないことなんて知ってるよ!待って!
チュー!ちゅー! ぎーぎー!」

こんばんは。動物愛護センターですか。
ポケットからスマホを取り出し、ポンポン、ぽんぽん、タップしてスワイプして耳に当てた藤森を、
ミックスナッツの海でカボチャの種だのココナッツの皮だの、アーモンドだのを堪能していたハムスターが必死に引き止めている。
「ちゃんと、君に利益のあるお土産だってば!
ねぇ藤森ー!君と僕の仲だろ!藤森ー!」

わーわー、ぎゃんぎゃん。
藤森の右足から腰、背中から肩へ。
とっとこ伝って駆け登って、日本語話すハムスターが必死に懇願している。

「ね、一旦、一旦!スマホしまって、僕のハナシ聞いて、ね!聞きたいだろセカンドオピニオン」
「どこから逃げたか知らないハムスターを保護しまして、……あぁ、すいません、息子が『自分で世話する』と言っているだけです」
「僕が君の息子はちょっと無理があるでしょって!

こら!藤森!噛むぞ!花粉ばらまくぞ!
君のこと、スギ花粉症患者にしちゃうぞッ」
「はい、では、そちらを確認してから。
それで見つからなければ、また。 失礼します。

 ……で?私に有益な、何だって?」

ひどいや、ひどいや。カナリアは少々不機嫌気味。
ちょっと冗談したからって、ちょっと君のグラノーラを食い散らかしたからって、
僕のこと、簡単に保健所に通報したりしてさ。
ぽつぽつ、ごにょごにょ。
独り言を言っては、どこからともなく、首かけ式のカードホルダーを取り出して、藤森にかけた。

「これは?」
藤森が聞いた。
「僕たちが『異世界の技術を導入するのは危険』って、『言う』より直接見せた方が早いだろ」
カナリアはまだ、通報にスネているようであった。

「異世界渡航技術の確立してない世界に、異世界の先進技術を勝手に導入するのは違法なんだ」
カナリアは言った。
「なんで違法なのか、紹介する申請が通ったから、
藤森、君のこと、管理局に招待してあげるよ」

その後のことは、「空」のお題の外なので、今回は詳しくは描写しない。
次回のお題次第では、すべては夢オチ。
あるいは次のお題次第では、藤森は不思議なハムスターに連れられて、以下略、以下略……。

6/24/2025, 9:59:37 AM

私、永遠の後輩こと高葉井が図書館の貸し出し受付窓口で仕事をしてたら、
丁度、見覚えのある女の人が、私を見つけて静かに、駆け寄ってきた。

「あ、あのッ、」
閲覧室だからだと思うけど、女の人は私にヒソヒソ、小さな声でお辞儀をしながら、
「一輪挿しのキンツギのこと、ホントに、本当に、ありがとうございました」
それから私に、喫茶店のお持ち帰り焼き菓子が入った小箱を差し出して、私をごはんに誘ってきた。
「よければ、これから一緒に、このお菓子に合うお茶が飲める喫茶店で、おはなしとか、しませんか」
女の人は、名前をたしか、アテビって言った。

アテビさん。
まるで異世界から来たみたいな雰囲気のひと。
アテビさんと出会ってから、ウチの先輩は色々考え込むようになった。

「良いですよ。行きましょう」
私はアテビさんに言った。
「私も言いたいことがあるんです。
丁度良い場所知ってるので、ぜひ、一緒に」
私の知ってるお店の方で、食べましょう。
私はそう言って、時間給もらって帰ることにした。

私がアテビさんを誘ったのは、
以前、私の先輩が私を連れてってくれたお茶っ葉屋さんの飲食スペースだ。
そこは一見さんおことわり、常連さんオンリー、
完全にプライバシーが守られてて、どんな秘密のハナシでもできる完全個室の飲食スペース。

お料理を持ってきてくれるのだって人間じゃない。
狐型の配膳ロボットと、その先導役の子狐だ。
だから、誰にも聞かれず、誰にも勘付かれず、
どんなハナシだって、できる。

「わぁ、」
アテビさんが目を輝かせた。
まるで昔、先輩が最初に私をここに連れてきてくれたときの、私自身みたいだった。
「きれいな場所、ですね」

秘密の場所で、秘密の密会。
子供の頃の夢だ。

まさかそれを、おとなになって、実現するなんて。

「あのねアテビさん」
テキトーにタブレットで料理を頼みながら、
私は、アテビさんに単刀直入に聞いた。
「アテビさんがウチの図書館に来てから、ウチの先輩……藤森って先輩が、ずっと何か考えてるの」
アテビさん、何か、知ってるんじゃない?
私はそう付け足すと、アテビさんの目を見て、
それで、テーブルに座るように、うながした。

アテビさんは、どこまで私に言って良いか、考えてるみたいだった。
「私のせいなのは、たしかです」
そこだけは断言してくれたけど、
ただ、アテビさんが先輩の、何を動かして、どこを困らせてるのか、肝心のそこを、答えてくれない。
「多分、話しても、信じてもらえません」

「どういうこと」
「すごく、こう、なんというか、難しいんです」
「どう難しいの」
「この世界の常識から、離れてるんです」

「どう離れてるの」
「うぅ、 うーん」
「アテビさん、何を隠してるの?
アテビさんと先輩は、何がどうなってるの?」
「うぅ……」

だんまり、だんまり。
私の子供の頃の夢だったハズの秘密の密会は、
遅々として、進まない。

「分かった」
ラチがあかない。
アテビさんは、多分先輩のことを、言えない。
だから「先輩」以外のアプローチから、アテビさんの情報を聞き出すことに、したんだけど、
「アテビさん、アテビさんって、」

「あの、えぇと、高葉井さん」
アテビさんはそんな、しびれを切らした私に、
面と向かって、目を見て、
「私も、言いたいことが、あるんです。
多分高葉井さんが、知りたいことに繋がってます」
それで、ぽつり、ぽつり。話し始めた。

6/23/2025, 6:38:40 AM

前回投稿分と繋がるおはなし。
最近最近の都内某所、某不思議な私立図書館に、風吹き花咲く雪国出身の職員がおりまして、
こいつが、今回のお題回収役その1。
名前を藤森といいました。

「異世界の技術、か」
藤森は心優しく誠実で、花が大好き。
ですが最近、 再開発の多い東京で仕事をしているから特にそう思うのでしょう、
美しい花、貴重な草木、尊いそれらが年々数を減らしてゆくのを、寂しく、思っておりました。

そんな藤森の前に現れたのが前回投稿分で登場した、「アテビ」と名乗る女性でして。
「この世界の技術革新を待っていては、間に合わない花が多過ぎる。 もう一度、もういちどだけ、アテビさんと会うことが、できれば」

別の世界から来たというアテビ、絶滅危惧種のキバナノアマナを前にして、言いました。
私の世界には、花を大きく増やす結晶がある。
アテビが案内してくれた異世界組織の建物、「領事館」で、アテビの上司が言いました。
我々には、絶滅危惧種の花を増やす技術がある。

そうです。
利権と金と経済と成長ばかり求める世界の進歩を、花々は待つ必要が無いのです。
『どこにも行かないで』、
あるいはどれも壊さないで、
または何も汚さないで、それで、良いのです。
ただ先進世界の技術を少し、消えゆく花々のために借りるだけでよろしい。 それだけ。
それだけ、なのです。

「アテビさん……」
小さなため息ひとつ吐いて、藤森は世界多様性機構なる組織の女性の連絡先を、聞いておけば良かったと少しだけ、後悔するのでした。

――さて。 アテビと会ってからそうやって、考え事が多くなったような気がする藤森です。
その藤森を心配する後輩が、お題回収役その2。
後輩だけに、名前を高葉井と言いました。

「最近どうだ。お前の先輩は」
高葉井の推しカプの右側にバチクソ似た「神様(高葉井呼称)」が、完全そっくりな声でもって、
図書館併設の食堂でお昼ご飯を食べる高葉井の真ん前に座って聞いてきました。

「もう、サッパリです」
推しそのまんまの口調と抑揚で尋ねられて、高葉井は瞬間的に尊み成分過剰摂取状態!
だけど高葉井、そこはぐっと、耐えるのです。
「先輩、今日もため息吐いて、外見て。
アテビっていう不思議な子と会ってから、
たまに、自分の悩んでるのを隠してる顔して」

高葉井は2年前、藤森の「悩んでるのを隠してる顔」を、見たことがありました。
それは藤森が昔々の、執念深く所有欲の強い、理想押し付け厨な元恋人に見つかってしまったとき。
それは藤森が高葉井への悪影響を恐れて、元恋人ともども実家の雪国へ帰ろうとしたとき。

高葉井に何も相談せず、元恋人の手から高葉井や他の親友を守るために、遠くへ行く、予定でした。

「今回も、勝手にどこかに、行っちゃうのかな」
高葉井も高葉井で、小さなため息を吐きました。
「先輩、どこにも行かないでほしいのに。
悩んでるなら、私にも、言ってほしいのに」

「言ってやれば良い。『行くな』と。『言え』と」
高葉井の推しにバチクソよく似た「神様(高葉井略)」が、高葉井の肩にポン、ポン。
優しく、でも力強く触れて、言いました。
「人間は、言わないと分からん。お前の言葉でちゃんと、『どこにも行くな』と言ってやれ」

じゃあな。またどこかで。
「神様(略)」がまた、ポンポン、軽く肩を叩いて、小さな小さな微笑を高葉井に向けて、
そして、高葉井から離れてゆきます。

「ぅ、ぅぅ……」
高葉井としては推しに笑ってもらえたようなものなので、完全に、尊み成分のオシシトシンとトートミンが許容値1000%の超絶過剰状態!
「くぅ……っ!」
すぐにでも「神様( )」の手を握って、握手して、それこそ「どこにも行かないで!!」と、「一緒にごはん食べませんか!」と、
言いたいところですが、
なんとか耐えて耐えて、たえて、
それから、重篤な急性尊み中毒で卒倒しそうになるのを、ギリギリで耐えましたとさ。

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