私、永遠の後輩こと高葉井が図書館の貸し出し受付窓口で仕事をしてたら、
丁度、見覚えのある女の人が、私を見つけて静かに、駆け寄ってきた。
「あ、あのッ、」
閲覧室だからだと思うけど、女の人は私にヒソヒソ、小さな声でお辞儀をしながら、
「一輪挿しのキンツギのこと、ホントに、本当に、ありがとうございました」
それから私に、喫茶店のお持ち帰り焼き菓子が入った小箱を差し出して、私をごはんに誘ってきた。
「よければ、これから一緒に、このお菓子に合うお茶が飲める喫茶店で、おはなしとか、しませんか」
女の人は、名前をたしか、アテビって言った。
アテビさん。
まるで異世界から来たみたいな雰囲気のひと。
アテビさんと出会ってから、ウチの先輩は色々考え込むようになった。
「良いですよ。行きましょう」
私はアテビさんに言った。
「私も言いたいことがあるんです。
丁度良い場所知ってるので、ぜひ、一緒に」
私の知ってるお店の方で、食べましょう。
私はそう言って、時間給もらって帰ることにした。
私がアテビさんを誘ったのは、
以前、私の先輩が私を連れてってくれたお茶っ葉屋さんの飲食スペースだ。
そこは一見さんおことわり、常連さんオンリー、
完全にプライバシーが守られてて、どんな秘密のハナシでもできる完全個室の飲食スペース。
お料理を持ってきてくれるのだって人間じゃない。
狐型の配膳ロボットと、その先導役の子狐だ。
だから、誰にも聞かれず、誰にも勘付かれず、
どんなハナシだって、できる。
「わぁ、」
アテビさんが目を輝かせた。
まるで昔、先輩が最初に私をここに連れてきてくれたときの、私自身みたいだった。
「きれいな場所、ですね」
秘密の場所で、秘密の密会。
子供の頃の夢だ。
まさかそれを、おとなになって、実現するなんて。
「あのねアテビさん」
テキトーにタブレットで料理を頼みながら、
私は、アテビさんに単刀直入に聞いた。
「アテビさんがウチの図書館に来てから、ウチの先輩……藤森って先輩が、ずっと何か考えてるの」
アテビさん、何か、知ってるんじゃない?
私はそう付け足すと、アテビさんの目を見て、
それで、テーブルに座るように、うながした。
アテビさんは、どこまで私に言って良いか、考えてるみたいだった。
「私のせいなのは、たしかです」
そこだけは断言してくれたけど、
ただ、アテビさんが先輩の、何を動かして、どこを困らせてるのか、肝心のそこを、答えてくれない。
「多分、話しても、信じてもらえません」
「どういうこと」
「すごく、こう、なんというか、難しいんです」
「どう難しいの」
「この世界の常識から、離れてるんです」
「どう離れてるの」
「うぅ、 うーん」
「アテビさん、何を隠してるの?
アテビさんと先輩は、何がどうなってるの?」
「うぅ……」
だんまり、だんまり。
私の子供の頃の夢だったハズの秘密の密会は、
遅々として、進まない。
「分かった」
ラチがあかない。
アテビさんは、多分先輩のことを、言えない。
だから「先輩」以外のアプローチから、アテビさんの情報を聞き出すことに、したんだけど、
「アテビさん、アテビさんって、」
「あの、えぇと、高葉井さん」
アテビさんはそんな、しびれを切らした私に、
面と向かって、目を見て、
「私も、言いたいことが、あるんです。
多分高葉井さんが、知りたいことに繋がってます」
それで、ぽつり、ぽつり。話し始めた。
6/24/2025, 9:59:37 AM