かたいなか

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前回投稿分と繋がるおはなし。
最近最近の都内某所、某不思議な私立図書館に、風吹き花咲く雪国出身の職員がおりまして、
こいつが、今回のお題回収役その1。
名前を藤森といいました。

「異世界の技術、か」
藤森は心優しく誠実で、花が大好き。
ですが最近、 再開発の多い東京で仕事をしているから特にそう思うのでしょう、
美しい花、貴重な草木、尊いそれらが年々数を減らしてゆくのを、寂しく、思っておりました。

そんな藤森の前に現れたのが前回投稿分で登場した、「アテビ」と名乗る女性でして。
「この世界の技術革新を待っていては、間に合わない花が多過ぎる。 もう一度、もういちどだけ、アテビさんと会うことが、できれば」

別の世界から来たというアテビ、絶滅危惧種のキバナノアマナを前にして、言いました。
私の世界には、花を大きく増やす結晶がある。
アテビが案内してくれた異世界組織の建物、「領事館」で、アテビの上司が言いました。
我々には、絶滅危惧種の花を増やす技術がある。

そうです。
利権と金と経済と成長ばかり求める世界の進歩を、花々は待つ必要が無いのです。
『どこにも行かないで』、
あるいはどれも壊さないで、
または何も汚さないで、それで、良いのです。
ただ先進世界の技術を少し、消えゆく花々のために借りるだけでよろしい。 それだけ。
それだけ、なのです。

「アテビさん……」
小さなため息ひとつ吐いて、藤森は世界多様性機構なる組織の女性の連絡先を、聞いておけば良かったと少しだけ、後悔するのでした。

――さて。 アテビと会ってからそうやって、考え事が多くなったような気がする藤森です。
その藤森を心配する後輩が、お題回収役その2。
後輩だけに、名前を高葉井と言いました。

「最近どうだ。お前の先輩は」
高葉井の推しカプの右側にバチクソ似た「神様(高葉井呼称)」が、完全そっくりな声でもって、
図書館併設の食堂でお昼ご飯を食べる高葉井の真ん前に座って聞いてきました。

「もう、サッパリです」
推しそのまんまの口調と抑揚で尋ねられて、高葉井は瞬間的に尊み成分過剰摂取状態!
だけど高葉井、そこはぐっと、耐えるのです。
「先輩、今日もため息吐いて、外見て。
アテビっていう不思議な子と会ってから、
たまに、自分の悩んでるのを隠してる顔して」

高葉井は2年前、藤森の「悩んでるのを隠してる顔」を、見たことがありました。
それは藤森が昔々の、執念深く所有欲の強い、理想押し付け厨な元恋人に見つかってしまったとき。
それは藤森が高葉井への悪影響を恐れて、元恋人ともども実家の雪国へ帰ろうとしたとき。

高葉井に何も相談せず、元恋人の手から高葉井や他の親友を守るために、遠くへ行く、予定でした。

「今回も、勝手にどこかに、行っちゃうのかな」
高葉井も高葉井で、小さなため息を吐きました。
「先輩、どこにも行かないでほしいのに。
悩んでるなら、私にも、言ってほしいのに」

「言ってやれば良い。『行くな』と。『言え』と」
高葉井の推しにバチクソよく似た「神様(高葉井略)」が、高葉井の肩にポン、ポン。
優しく、でも力強く触れて、言いました。
「人間は、言わないと分からん。お前の言葉でちゃんと、『どこにも行くな』と言ってやれ」

じゃあな。またどこかで。
「神様(略)」がまた、ポンポン、軽く肩を叩いて、小さな小さな微笑を高葉井に向けて、
そして、高葉井から離れてゆきます。

「ぅ、ぅぅ……」
高葉井としては推しに笑ってもらえたようなものなので、完全に、尊み成分のオシシトシンとトートミンが許容値1000%の超絶過剰状態!
「くぅ……っ!」
すぐにでも「神様( )」の手を握って、握手して、それこそ「どこにも行かないで!!」と、「一緒にごはん食べませんか!」と、
言いたいところですが、
なんとか耐えて耐えて、たえて、
それから、重篤な急性尊み中毒で卒倒しそうになるのを、ギリギリで耐えましたとさ。

6/23/2025, 6:38:40 AM