かたいなか

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5/12/2025, 3:11:06 AM

前回投稿分からの続き物。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織がありまして、
今回のお題回収役の収蔵部局員は、ビジネスネームを「ドワーフホト」といいました。

世界線管理局の収蔵部の、主な仕事は「チートアイテムの受け入れと保管」。
滅んだ世界からこぼれ落ちた、すごいチカラを持った道具が、他の世界に流れて悪さをしないように、
あるいは、それを他の「まだ生きている世界」のそれぞれが奪い合って、戦争にならないように。
管理局に収容して、適切に管理するのです。

「うぅぅ。酷いよ。ひどいよぉ」
で、その収蔵部に勤めているドワーフホトが、
前回投稿分で、局主催のダイエットウォークイベントに強制参加させられることが決定したワケで。
「そりゃあ、痩せたいしー、運動しなきゃだしー、スフィちゃんが企画書出してくれたのは、心遣いは嬉しいけどさぁぁ……」

もちょっと、あたしに、事前に相談してくれたって、良いじゃんってさぁ。
ドワーフホトはしくしく、ぐすぐす。
来月強制参加が決定してしまったことについて、まだまだ、しょんぼりしている様子。
というのも、ドワーフホトが指定したイベントの6月某日から某日までの2日間は、
まとめて休みをとっていた5日のうちの2日。
この間にドワーフホト、大好きなスイーツ&グルメツアーを、計画しておったのです。

食べるから体重が増えるのです。
「だってぇ、美味しいものは、美味しいよぉ」
グルメツアーが白紙になったので、その分の体重増加は、無事阻止されたのです。
「そりゃそうだけど、そうだけどさぁぁ……」

うぅ。もう、良いもん。仕事するもん。
意気消沈のドワーフホト、管理局に収容された「滅んだ世界からの遺物」の、収蔵作業に戻りました。
「で、コレが今日収容されてきた船〜?」

その日、ドワーフホトたち収蔵部に搬入されてきたのは、大きな大きな船でした。
「おっきいにも、ほどがあるよぉ」
それは、滅びに向かっていた世界を抜け出し、世界と世界の狭間のあたりを漂流していた船でした。
それは、世界間渡航できるところまで技術レベルの到達していなかった世界が、自分たちの生存する未来をかけて、開発して建造した船でした。

世界の狭間に完全に引っかかっておったので、どの世界にも行けやしない船ですが、
別の世界が他の世界へ異世界渡航する際に、邪魔や障害になるかもしれないので、
管理局が回収して、管理局の世界に持ってきて、収蔵部に収蔵登録と収容を指示したのでした。

「あたし、中、見てくるぅ」
ドワーフホトによく似た人形1号が、とってって、とってって。さっそく収容作業を始めます。
「じゃあ、あたし記録撮影する〜」
人形2号がカメラを持って後ろに続き、
「護衛は〜任せろぉー」
人形3号4号がそれぞれ、拘束銃とパルス銃を持ち、万が一に備えます。

「いってらっしゃーい。おみやげ待ってるぅ」
おや。5号は白いハンカチ振って、お見送り??
「一緒に来るの〜」
「いらないじゃん!あたし!いらないじゃーん!
1号2号3号4号でぇ!足りてるじゃぁぁん!
わぁーん本体のあたし〜助けてぇぇー」

わらわら、ぞろぞろ。
ドワーフホトの人形たちは、皆みんな、楽しそう。
収容されてきた船の、扉とおぼしき構造物の前に進み出て、それぞれの仕事を始めました。

「こんにちはぁ!こんにちはー!」
翻訳機能付きの拡声器でもって、ドワーフホトは船に呼びかけます。
「こちらは、世界線管理局ですぅ!
こちらは、あなたがたの、敵ではありませぇん!
入局・収容手続きをしたいのでぇ、この声が聞こえたら、応答おねがいしまぁーす!」

すると……?

『おお、おお!素晴らしい!成功だ!』
世界と世界の間に挟まっておった船から、返事と大きな歓声とが、それぞれ湧き上がったのです!
『諸君!我々はとうとう、成し遂げたのだ!
「未来への船」を、まさしく、完成させたのだ!
技術レベルから推測して、ここは数千年先の未来に違いない。 バンザイ、ばんざい!』

おやおや、船に乗っていた方々、
世界から世界への並行移動を、過去から未来への垂直移動と、勘違いしてしまっている様子。
まぁ、しゃーないといえば、しゃーないのです。
彼等は自分たちの命のために、今まで成功していなかった技術を、急ピッチで完成させたのです。
それが時間ではなく空間を飛び出していたなど。

「生きてたー」「有人船だったぁ」
人形たちは、さっそく、難民シェルターを管理している空間管理部の難民支援課に、
連絡を、とったは良いものの……、

「おお!美しい!ここが数千年後の世界」
「世界線管理局ですって。大きな組織だこと」
「俺の子孫とか親戚とか、まだ生きてるのかな」
「神よ。ありがとうございます!助かった!」
ぞろぞろぞろ、わらわらわら。
もともと大きな船ではありましたが、
その船の中の、いったいどこにこれほど乗っておったのだと、ツッコミを入れたくなる量の知的生命体が、小さな人間も大きなタコも、次から次から次の次と、一気に下船してきたのです!

「わぁぁぁぁ!!いっぱい乗ってたぁ!」
どうしよう、どうしよう!
予想の2倍も3倍も、なんなら5倍くらいの乗船者に、ドワーフホトはびっくり!
それから48時間かけて、ようやく、すべての乗船者を難民シェルターに収容しましたとさ。

5/11/2025, 8:32:43 AM

静かなる森の中で、ちゃんと整備されたウッドテーブルに、ケーキスタンドとティーセットを持ち込んでヌン活。なかなか絵になる状況ですね。
という夢だの理想だのは置いといて、今日のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界に、「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、
そこの局員であるところのドラゴンは、静かなる森も見渡す限りの草原も、はるかなる高原も大好き。
緑ゆたかな場所で、ポカポカ陽気を浴びながら、日向ぼっこと昼寝を両立することを好みます。

管理局に身を売ったドラゴンは、ビジネスネームを「ルリビタキ」といいました。
ドラゴンのルリビタキは今日も今日とて、なによりお題がお題でありますので、
管理局内に作られた人工の静かなる森の中で、
先日のお題のように、木漏れ日を浴びながら、穏やかに昼寝をしておりました。

「部長さぁん!ルリビタキ部長さーん!」
そんなルリビタキのもとに駆け込んできたのが、管理局収蔵部の「ドワーフホト」。
「助けて!おねがい!部長さぁん!」
前回投稿分のおはなしに出てきた気がする名前ですが、まぁまぁ、気にしない。

『なんだ……気持ち良く寝ているところに』
ペチペチ、ぺちぺち!
首だの肩だの、あちこち叩かれて、若干寝ぼけていそうなドラゴンが目をこじ開けます。
よほど眠いのでしょう。牙がズラっと並ぶ口を大きく開けて、ポカポカあたたかい乾いた吐息で、
ふわわ、わわぁ。大きなあくびを吐きました。
『例の敵対組織でも、押し掛けてきたのか』

「違うの、聞いてよー!スフィちゃんがぁ!」
『お前の友人が餅か大福でも喉に詰まらせたか』
「あたしのこと!広報さんに売ったぁぁ!!」

『 はァ? 』

「お願い、ホントに、助けて部長さぁん」
お前の友人がお前を広報に売った??
なんだそりゃ?
ドラゴンのルリビタキ、2度目の大きいあくびをして、眠たい頭を持ち上げました。
ドワーフホトには「スフィンクス」という、付き合いの長い経理部の大親友がおりました。
そのスフィンクスが、ドワーフホトを売った?
どういうことでしょう?

「これぇ!」
ビシッ!ドラゴンの目の前に、ドワーフホトの個人端末が突きつけられます――あんまり近過ぎて、ぶっちゃけ、ドラゴンの視点のピントが合いません。
「スフィちゃん、あたしが『最近また体重増えちゃった』って言ったらぁ、勝手に企画課さんにイベントの企画書持ち込んで、通っちゃったのぉ!!」
なにより端末が小さくて、ドラゴンのまんまじゃ端末の画面の文章が読めません。

『ちかい』
「そーでしょ!そーでしょぉ!いくらなんでも、開催日、近過ぎるよぉ! でもそれ以上にさぁ」
『そうじゃない。近過ぎて画面が見えない』

「部長さん老眼?」
『お前は眼前5センチくらいに書類置かれてその内容でも文字でも読めるのか?』
「頑張って読むぅ」
『気合の問題じゃなくてだな?』

ああ。もういい。お前の目線に合わせる。
3度目の大あくびをしたドラゴンは、面倒くさそうではありますが、人間に化けてドワーフホトから端末を受け取りました。
「はぁ。ウォーキングチャレンジ?」
端末に表示されていたのは、「みなぎる活力で夢を描け!ドワーフホトのウォーキングチャレンジ」なるウォーキングイベントでした。

「『ゼッタイ逃げられないように、ゼッタイ結果が出るように運動の日程組んでやった』ってぇ」
スフィちゃん、そんなこと言うんだよ。
ドワーフホトが言いました。
「『企画通ったから、これで大勢のお前のファンと一緒にダイエットできだろ』ってぇぇ。
しかも、6月だよ、来月だよ。早いよ。酷いよぉ」
わぁん。部長さん、法務のチカラでなんとかして。
ドワーフホトは必死に、それはそれは必死に、
人間に化けたルリビタキに、頼み込むのでした。

「はぁ。 うん」
スワイプ、スワイプ、スワイプ。
昼寝のために静かなる森へ来ていたハズのルリビタキは、その静かなる森の中で、自分の職場が企画したダイエットウォークイベントの告知を見ます。
「まぁ頑張れ」
どうやら既に、イベント開催のアナウンスも為されて、参加者募集まで始まっているようです。
これでは、ルリビタキにできることは無いのです。

「頑張れ、じゃなくてさぁぁー!」
やだよぉ!あたし、コスメコラボなら引き受けるけどダイエットイベントとか無理だよぉぉ!
ドワーフホトは、ずっとずっと、だいたい十数分くらい、ルリビタキに泣きついておったとさ。
しゃーない、しゃーない。

5/10/2025, 9:49:56 AM

私、後輩こと高葉井の推しゲーの公式様が、
まさかの団体とコラボして、まさかのイベントの開催を告知して、参加者を募集し始めた。
それはすなわち、医療と健康、それから少し美容。
来る夏に備えて、なにより体重減少により糖尿病と腎臓病と高血圧のリスクを下げるために、
某キャンプ施設で良質なタンパク質と水分を摂取してから、つまりバーベキューを楽しんでから、
某自然公園まで、皆で歩いて筋肉を作りましょう、
っていう、完全に運動特化のイベント。

イベント名は「みなぎる活力で夢を描け!ドワーフホトのウォーキングチャレンジ」。
「ドワーフホト」っていうのは、私の推しゲーのキャラで、食いしん坊というかグルメというか、ともかく食べるのが大好き。

キャラの背景と設定から、コスメアイテムとのコラボグッズに何度も顔を出してるけど、
今回は、彼女の「一応減量の努力はしてる」っていう設定に、スポットが当たったらしい。
ガイドラインを守って申請を出せば、コスプレ参加も可能。SNSには早くも「ドワーフホトで行きます」とか、「あわせしましょう」とかチラホラ。

ガイドラインにガッツリ書かれてるから、推しカプや推しシチュの解釈違いによる衝突はご法度。
皆で互いを尊重して、互いの独自性を保って。
楽しく、全力で、運動しましょう。
と、いう趣旨らしい。

特別ゲストは、ドワーフホトの声優さんと、「キリン」っていうマッチョキャラの声優さん。
キリンさんは比較的マイナーで、ドワーフホトっていうキャラとの絡みは少ないんだけど、
自分の理想、自分の夢を描けるイラストレーターさんの中には、「キリホト」っていうジャンルで、ほんわか筋トレエピソードを物語化してる人も居る。

何度も言うけど、ドワーフホトとキリンの絡みは少ない(大事なこと二度宣言)

『さぁ、高葉井ちゃん!一緒に行くよぉー!』
本当に推しゲーの、ドワーフホトっていうキャラが私と一緒にダイエットウォーキングするなら、きっとこんなカンジなんだろう。
私は自分の頭の中に、イベントの舞台を設置して、
私とドワーフホトと、それから推しキャラの「ルー部長とツー様」、ルリビタキとツバメっていうキャラを配置して、よーい、どん。
『目指せ、夏に向けたスッキリボディー!
いっちにぃ、いっちにぃー!』

頭の中で、夢を描け、夢を撮れ。
イベントに当選してないし、応募もまだだけど、
二次創作で鍛えられた脳内では、もう私と(ルー部長とツー様と)ホトさんとで、
青空の下、互いにおしゃべりを楽しみ(つつ、ルー部長とツー様のタッグをスマホ撮影し)ながら、
歩いて、たまに走って、時折休んで。

『あのねぇ、ホントはスフィちゃんも、一緒に走ろって呼んだんだよぉ』
ああ、ホト様、あいかわらずおっとりしてて。
『なのにねー、スフィちゃん、直前になってぇ、「行けなくなった」って、かわりにルリビタキ部長とツバメさんと、キリン主任連れてきたのぉ』
そうなんですね。そうなんですね。
ありがとうございます(主に妄想)

「ああ、よき……」
ドワーフホトのメジャーな相棒さんは、きっと、急なお仕事が入っちゃったんだね。
私は想像に浸って、幸福に脳内の推しを追っかけて、ため息なんかひとつ、ふたつ。
「ガチでツー様とルー部長も、一緒に来ないかな」

ああ、ツー様、ルー部長、ええよ、ええよ。
私の脳内で描く夢は、それから十数分、あるいは数十分くらい続いた。

5/9/2025, 4:51:31 AM

「点数が届かない、身長が届かない、声が届かない。あとは何だろな、規定や規格に届かない?」
届かないっつっても、まぁまぁ、色々。
某所在住物書きは未消化のネタ保存ボードを見渡して、ぽつり、ぽつり。
今年に入って設置したホワイトボードには、付箋とマグネットを利用して、複数個保存されている。

1個ネタを思いついたら、1個ネタを消化すれば良い。それで保存ネタは溢れない。
この1個/1個ペースに、事実として、物書きの消化率は届いていないのである。
「どうすっかな」
物書きは考える。
「どうすっかな……」
届かない。 物書きはただ、ため息を吐く。

――――――

イチバン痩せていた頃の体重に、届かない……!
と、いう物書きの魂の絶叫は置いといて、さっそく今回のおはなしの始まり、はじまり。

最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなしです。
「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、あっちで世界AからBへの異世界渡航申請処理、こっちで世界CとDの仲裁、そっちで世界Eの崩壊による世界渡航禁止措置等々、
ともかく色々、世界同士が安全に、安定して、なにより双方が尊重されてお付き合いできるように、
あらゆる仕事を引き受けておったのでした。

滅亡した世界の難民を収容する、バチクソ広大なシェルターなんかもある組織のわりに、
管理局に勤める人間だの獣人だの、竜だの宇宙タコだのは数百、数千、その程度。
この数百数千の局員たちと、それから滅亡世界からの「大勢の」難民たちの、
胃袋を支えている二足歩行のキツネと二足歩行のタヌキが、今回のおはなしのお題回収役。

キツネは赤いスカーフ巻いて、個々のお店を持ち、難民シェルターの職員・難民共用レストランを。
タヌキは緑の腰巻きエプロンつけて、皆でひとつの巨大食堂に集まり、職員専用フードフロアを。
コンコン、ぽんぽこ、任されておりました。

で、そのキツネとタヌキが、今回何に立ち向かっておるかといいますと。
前回投稿分で突然難民シェルター内に爆誕した、大きな大きな、宇宙タラの芽の大木です。

炎と光と雷のドラゴンから多くの栄養を受け取って、人工太陽からたっぷり光を浴びて、
可愛らしい花火のような花と極上の若芽とを同時に生やした宇宙タラの芽の木は、
それはそれは、もう、それは。
天ぷら、ごまあえ、肉巻きに料理の飾り等々、
ありとあらゆる料理にどっさり使えるだけの量を、
バチクソ高いところに、生やしておるのです。

「届かないね」
赤いスカーフの二足歩行ホッキョクギツネが、宇宙タラの芽の大木を見上げて言いました。
ホッキョクギツネは宇宙タラの芽をどっさり採るための、山菜用小刀が握っておりました。

「届かない……」
緑の腰巻きエプロンの二足歩行コウライタヌキが、同じく宇宙タラの芽の大木を見上げて言いました。
コウライタヌキは宇宙タラの芽をどっさり入れるための、山菜用リュックを背負っておりました。

「どないしよう」
「どすべの」
「荷物持ちならするとよ」
「荷物たて、まず登らねば」
「ひとまずお茶とコーヒーでよろしい?これはもう、作戦会議しはるでしょ?」

「異議なし」
「異議なし」

届かない、とどかない。
ニホンホンドギツネもキタキツネも、ニホンホンドタヌキもエゾタヌキも、普段うどんと蕎麦の話題に関しては抗争級のケンカをする間柄ですが、
共通の「宇宙タラの芽を得る」という目的に向かって、一致団結、作戦会議です。

「高所作業用の機材で、上まで、」
「無理だびょん……。ドローン、どんだ?」
「高いところまでは届くだろうけど、問題は、ドローンでどうやってタラの芽を採取するの?」
「お揚げさん炊けましたえ」

「食べる」
「まんじぇ」
「まんじゃーれ」

あーでもない、こーでもない。
パンパスギツネもセチュラギツネも、ウンナンタヌキもウスリータヌキも、皆みんな、突然爆誕した山菜を自分たちの料理に使いたくて、
知恵を出し合い、妖術を提案したり、魔法を紹介したり。一致団結、作戦会議です。

「あれ」
と、ドローンで宇宙タラの大木上空を撮影しておったフェネックが、解決の糸口を見つけました。
「このタラの芽の大木の上で、ドラゴンが寝てる」

それだ! それだ!!
キツネもタヌキも大喜び!
上に誰か居るなら、その誰かにタラの芽を、採ってきてもらえば良いのです!
「さっそくドラゴンに、コンタクトを取ろう!!」

ドラゴンさん、ドラゴンさん。
あなたが寝てるそのあたりの、宇宙タラの芽の若芽をどっさり、採って落としてくださいな。
ぶーん、ブーン。 フェネックはドローンをあやつって、昼寝中のドラゴンに近づきます!
「よし!もう少しだ!」
ぶーん、ブーン。 あと少し、もう少し。
あと少しでドラゴンに、ドローン内蔵の小型マイクからの音声が届く、という距離まで来たところで、

ビタン!ばしん!

ブンブン駆動音が耳障りだったらしいドラゴン、寝ぼけて尻尾でドローンを、叩き落としたのでした。
「ああぁぁぁ!!!」
ああ、ああ。届かない……とどかない。
作戦会議はやり直し。
管理局の調理担当、スカーフのキツネと腰巻きエプロンのタヌキは、それから数十分、1時間、
それぞれ悩みに悩んで知恵を出して、先に晩ごはんの仕込みの時間が無情にも来てしまったので、
一旦、諦めざるを得ませんでしたとさ。

5/8/2025, 7:23:03 AM

「熱帯雨林気候の一部地域じゃ、あんまり木々が多層構造になり過ぎて、木漏れ日どころか地上に光がほぼ届かないってどこかで観た」
あれは何だったかな。テレビだったかようつべだったか。 某所在住物書きは車の中で、パチパチ、ぱちぱち。キーボードを叩き続けている。
街の中は木が少ない。だいたい街路樹程度しか見かけないので、「木漏れ日」を見つけるのが難しい。

自然公園も、どこそこでは木の老化が進んでおって、複数本の木が伐採予定と聞いた。
意外と「木漏れ日」とは、絶滅危惧種に近づいている概念なのかもしれぬ。
「こもれびねぇ……」
物書きは思う――ひとまず、最近暑い。

――――――

最近は5月でも容赦無く、20℃を超えて夏日など観測する地域が多くなってきました。
昨今の高温に森の木漏れ日と風は理想的な避暑。
ということで、今回はこんなおはなしをご紹介。

最近最近、「ここ」ではないどこか別の世界で、
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織が、
色々な世界の争い事の調停役として、あるいは他の世界と世界を安全に繋ぐ橋渡し役として、
そしてなにより、その世界が「その世界」として独自性を保ち、尊重されるための保全者として。
あんなことやこんなこと、滅んだ世界への渡航規制なんかも、しておるのでした。

そんな世界線管理局は、滅んだ世界からこぼれ落ちた、いわゆる「難民」の保護もしておりまして、
彼等を収容するシェルターは、管理局の異次元技術によって、バチクソに広くてドチャクソに快適。
管理局の建物内で、人工太陽が規則正しく運行し、
山に滝、森に湖、温泉人工火山によって温泉と豊富な鉱石資源とが、それぞれ点在しています。
今はシェルターに6個存在する季節の中の、日本でいうところの5月に相当するあたり。
森林エリアや沢エリアで、様々な世界の山菜が、暖かさを察知して芽吹き始めています。

で、その山林エリアの木漏れ日落ちる、小川がちょろちょろ気持ちよさそうなあたりで、
管理局のドラゴンが一匹、ぐーすぴかーすぴ。
気持ちよさそうに、昼寝などしておりました。

このドラゴンは、炎と光と雷のドラゴン。
このドラゴンは、絶対に太らないドラゴン。
ビジネスネームを、「ルリビタキ」といいます。
木漏れ日の下でぐーすぴかーすぴ、時折寝言を言ったり寝返り打ってヘソ天したりで寝ていると、
自分の中の、作り過ぎた余分なエネルギーを、周囲の土や草や水に分け与えるのです。

『んん……、食えん……もう、くえん……』
むにゃむにゃ、ぐーすぴ。どうやらドラゴンのルリビタキ、幸福な悪夢を見ているようです。
『食えん、もう、いらん……』
むにゃむにゃ、かーすぴ。ドラゴンのルリビタキは、昔々、管理局で「美味い食い物」という概念と遭遇した日を、追体験しているようです。

ルリビタキは光さえあれば、ぶっちゃけそれほど多くの食べ物を必要としないドラゴン。
管理局に身を売るまで、食うことを楽しむなんて、
少しも、ちっとも、してこなかったのです。
それが管理局に移送されて、三食おやつ付き生活がスタートすると、まぁ、食い物の美味いこと。

ほら、お食べ、おたべ、これもオタベ。
ルリビタキはそんな昔の、アレコレ幸福に食わされる夢を、木漏れ日の下で見ておったのです。

『むにゃ。 くえんと、いって、いるだろ……』
美味を知った日の夢を見るルリビタキ。
体がぼんやり、弱く、優しく光り、その光は落ちてきた木漏れ日と混ざります。
光を受け取った山菜は、木の芽は、じわじわ成長を始めまして、段々大きくなってゆきます。
ルリビタキは炎と光と雷のドラゴン。ルリビタキの光は森の花を、山の木を、沢の水草や草原のキノコを、少しずつ、元気にするのです。

が、どうやらその日は「悪夢」のせいで、なにより今朝大量に食わされたタコ焼きのせいで、
山菜たちに供給するエネルギーが云々、かんぬん。

ドラゴンのルリビタキの下に敷かれておった宇宙タラの芽が、ドチャクソに栄養供給を受けまして、
ぐんぐん、ぐんぐん、一気に宇宙タラの大木になり、宇宙タラの花を咲かせて、もっしゃあ!
ドラゴンを木漏れ日どころか日光そのものの直下まで、持ち上げてしまいました。

『んん、 ん? なんだ??』
突然光量が増えて、まぶしくなって、幸福な悪夢から目を覚ましたルリビタキは、
『ここは、どこだ? なぜ俺は木の上にいる?』
自分が木漏れ日の下ではなく、宇宙山菜の大木の上で寝ている事実に頭がついてこなくて、
数分、十数分、ポカン顔をしておったとさ。

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