「点数が届かない、身長が届かない、声が届かない。あとは何だろな、規定や規格に届かない?」
届かないっつっても、まぁまぁ、色々。
某所在住物書きは未消化のネタ保存ボードを見渡して、ぽつり、ぽつり。
今年に入って設置したホワイトボードには、付箋とマグネットを利用して、複数個保存されている。
1個ネタを思いついたら、1個ネタを消化すれば良い。それで保存ネタは溢れない。
この1個/1個ペースに、事実として、物書きの消化率は届いていないのである。
「どうすっかな」
物書きは考える。
「どうすっかな……」
届かない。 物書きはただ、ため息を吐く。
――――――
イチバン痩せていた頃の体重に、届かない……!
と、いう物書きの魂の絶叫は置いといて、さっそく今回のおはなしの始まり、はじまり。
最近最近のおはなしです。「ここ」ではないどこか、別の世界のおはなしです。
「世界線管理局」という厨二ふぁんたじー組織がありまして、あっちで世界AからBへの異世界渡航申請処理、こっちで世界CとDの仲裁、そっちで世界Eの崩壊による世界渡航禁止措置等々、
ともかく色々、世界同士が安全に、安定して、なにより双方が尊重されてお付き合いできるように、
あらゆる仕事を引き受けておったのでした。
滅亡した世界の難民を収容する、バチクソ広大なシェルターなんかもある組織のわりに、
管理局に勤める人間だの獣人だの、竜だの宇宙タコだのは数百、数千、その程度。
この数百数千の局員たちと、それから滅亡世界からの「大勢の」難民たちの、
胃袋を支えている二足歩行のキツネと二足歩行のタヌキが、今回のおはなしのお題回収役。
キツネは赤いスカーフ巻いて、個々のお店を持ち、難民シェルターの職員・難民共用レストランを。
タヌキは緑の腰巻きエプロンつけて、皆でひとつの巨大食堂に集まり、職員専用フードフロアを。
コンコン、ぽんぽこ、任されておりました。
で、そのキツネとタヌキが、今回何に立ち向かっておるかといいますと。
前回投稿分で突然難民シェルター内に爆誕した、大きな大きな、宇宙タラの芽の大木です。
炎と光と雷のドラゴンから多くの栄養を受け取って、人工太陽からたっぷり光を浴びて、
可愛らしい花火のような花と極上の若芽とを同時に生やした宇宙タラの芽の木は、
それはそれは、もう、それは。
天ぷら、ごまあえ、肉巻きに料理の飾り等々、
ありとあらゆる料理にどっさり使えるだけの量を、
バチクソ高いところに、生やしておるのです。
「届かないね」
赤いスカーフの二足歩行ホッキョクギツネが、宇宙タラの芽の大木を見上げて言いました。
ホッキョクギツネは宇宙タラの芽をどっさり採るための、山菜用小刀が握っておりました。
「届かない……」
緑の腰巻きエプロンの二足歩行コウライタヌキが、同じく宇宙タラの芽の大木を見上げて言いました。
コウライタヌキは宇宙タラの芽をどっさり入れるための、山菜用リュックを背負っておりました。
「どないしよう」
「どすべの」
「荷物持ちならするとよ」
「荷物たて、まず登らねば」
「ひとまずお茶とコーヒーでよろしい?これはもう、作戦会議しはるでしょ?」
「異議なし」
「異議なし」
届かない、とどかない。
ニホンホンドギツネもキタキツネも、ニホンホンドタヌキもエゾタヌキも、普段うどんと蕎麦の話題に関しては抗争級のケンカをする間柄ですが、
共通の「宇宙タラの芽を得る」という目的に向かって、一致団結、作戦会議です。
「高所作業用の機材で、上まで、」
「無理だびょん……。ドローン、どんだ?」
「高いところまでは届くだろうけど、問題は、ドローンでどうやってタラの芽を採取するの?」
「お揚げさん炊けましたえ」
「食べる」
「まんじぇ」
「まんじゃーれ」
あーでもない、こーでもない。
パンパスギツネもセチュラギツネも、ウンナンタヌキもウスリータヌキも、皆みんな、突然爆誕した山菜を自分たちの料理に使いたくて、
知恵を出し合い、妖術を提案したり、魔法を紹介したり。一致団結、作戦会議です。
「あれ」
と、ドローンで宇宙タラの大木上空を撮影しておったフェネックが、解決の糸口を見つけました。
「このタラの芽の大木の上で、ドラゴンが寝てる」
それだ! それだ!!
キツネもタヌキも大喜び!
上に誰か居るなら、その誰かにタラの芽を、採ってきてもらえば良いのです!
「さっそくドラゴンに、コンタクトを取ろう!!」
ドラゴンさん、ドラゴンさん。
あなたが寝てるそのあたりの、宇宙タラの芽の若芽をどっさり、採って落としてくださいな。
ぶーん、ブーン。 フェネックはドローンをあやつって、昼寝中のドラゴンに近づきます!
「よし!もう少しだ!」
ぶーん、ブーン。 あと少し、もう少し。
あと少しでドラゴンに、ドローン内蔵の小型マイクからの音声が届く、という距離まで来たところで、
ビタン!ばしん!
ブンブン駆動音が耳障りだったらしいドラゴン、寝ぼけて尻尾でドローンを、叩き落としたのでした。
「ああぁぁぁ!!!」
ああ、ああ。届かない……とどかない。
作戦会議はやり直し。
管理局の調理担当、スカーフのキツネと腰巻きエプロンのタヌキは、それから数十分、1時間、
それぞれ悩みに悩んで知恵を出して、先に晩ごはんの仕込みの時間が無情にも来てしまったので、
一旦、諦めざるを得ませんでしたとさ。
5/9/2025, 4:51:31 AM