「熱帯雨林気候の一部地域じゃ、あんまり木々が多層構造になり過ぎて、木漏れ日どころか地上に光がほぼ届かないってどこかで観た」
あれは何だったかな。テレビだったかようつべだったか。 某所在住物書きは車の中で、パチパチ、ぱちぱち。キーボードを叩き続けている。
街の中は木が少ない。だいたい街路樹程度しか見かけないので、「木漏れ日」を見つけるのが難しい。
自然公園も、どこそこでは木の老化が進んでおって、複数本の木が伐採予定と聞いた。
意外と「木漏れ日」とは、絶滅危惧種に近づいている概念なのかもしれぬ。
「こもれびねぇ……」
物書きは思う――ひとまず、最近暑い。
――――――
最近は5月でも容赦無く、20℃を超えて夏日など観測する地域が多くなってきました。
昨今の高温に森の木漏れ日と風は理想的な避暑。
ということで、今回はこんなおはなしをご紹介。
最近最近、「ここ」ではないどこか別の世界で、
「世界線管理局」なる厨二ふぁんたじー組織が、
色々な世界の争い事の調停役として、あるいは他の世界と世界を安全に繋ぐ橋渡し役として、
そしてなにより、その世界が「その世界」として独自性を保ち、尊重されるための保全者として。
あんなことやこんなこと、滅んだ世界への渡航規制なんかも、しておるのでした。
そんな世界線管理局は、滅んだ世界からこぼれ落ちた、いわゆる「難民」の保護もしておりまして、
彼等を収容するシェルターは、管理局の異次元技術によって、バチクソに広くてドチャクソに快適。
管理局の建物内で、人工太陽が規則正しく運行し、
山に滝、森に湖、温泉人工火山によって温泉と豊富な鉱石資源とが、それぞれ点在しています。
今はシェルターに6個存在する季節の中の、日本でいうところの5月に相当するあたり。
森林エリアや沢エリアで、様々な世界の山菜が、暖かさを察知して芽吹き始めています。
で、その山林エリアの木漏れ日落ちる、小川がちょろちょろ気持ちよさそうなあたりで、
管理局のドラゴンが一匹、ぐーすぴかーすぴ。
気持ちよさそうに、昼寝などしておりました。
このドラゴンは、炎と光と雷のドラゴン。
このドラゴンは、絶対に太らないドラゴン。
ビジネスネームを、「ルリビタキ」といいます。
木漏れ日の下でぐーすぴかーすぴ、時折寝言を言ったり寝返り打ってヘソ天したりで寝ていると、
自分の中の、作り過ぎた余分なエネルギーを、周囲の土や草や水に分け与えるのです。
『んん……、食えん……もう、くえん……』
むにゃむにゃ、ぐーすぴ。どうやらドラゴンのルリビタキ、幸福な悪夢を見ているようです。
『食えん、もう、いらん……』
むにゃむにゃ、かーすぴ。ドラゴンのルリビタキは、昔々、管理局で「美味い食い物」という概念と遭遇した日を、追体験しているようです。
ルリビタキは光さえあれば、ぶっちゃけそれほど多くの食べ物を必要としないドラゴン。
管理局に身を売るまで、食うことを楽しむなんて、
少しも、ちっとも、してこなかったのです。
それが管理局に移送されて、三食おやつ付き生活がスタートすると、まぁ、食い物の美味いこと。
ほら、お食べ、おたべ、これもオタベ。
ルリビタキはそんな昔の、アレコレ幸福に食わされる夢を、木漏れ日の下で見ておったのです。
『むにゃ。 くえんと、いって、いるだろ……』
美味を知った日の夢を見るルリビタキ。
体がぼんやり、弱く、優しく光り、その光は落ちてきた木漏れ日と混ざります。
光を受け取った山菜は、木の芽は、じわじわ成長を始めまして、段々大きくなってゆきます。
ルリビタキは炎と光と雷のドラゴン。ルリビタキの光は森の花を、山の木を、沢の水草や草原のキノコを、少しずつ、元気にするのです。
が、どうやらその日は「悪夢」のせいで、なにより今朝大量に食わされたタコ焼きのせいで、
山菜たちに供給するエネルギーが云々、かんぬん。
ドラゴンのルリビタキの下に敷かれておった宇宙タラの芽が、ドチャクソに栄養供給を受けまして、
ぐんぐん、ぐんぐん、一気に宇宙タラの大木になり、宇宙タラの花を咲かせて、もっしゃあ!
ドラゴンを木漏れ日どころか日光そのものの直下まで、持ち上げてしまいました。
『んん、 ん? なんだ??』
突然光量が増えて、まぶしくなって、幸福な悪夢から目を覚ましたルリビタキは、
『ここは、どこだ? なぜ俺は木の上にいる?』
自分が木漏れ日の下ではなく、宇宙山菜の大木の上で寝ている事実に頭がついてこなくて、
数分、十数分、ポカン顔をしておったとさ。
5/8/2025, 7:23:03 AM