かたいなか

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5/6/2025, 4:55:30 AM

「2月3日のお題が『隠された手紙』で、19日付近が『手紙の行方』だった」
アレか、あの日とあの日のお題で書いた手紙の結末について投稿してくださいってお題か。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、
ぽわぽわ、もわんもわん。
当時書いた手紙を開いた結果を想像した。

たしか2月の「手紙」では、神社の子狐が、手紙を自分のドテっ腹に敷いて昼寝をしてしまい、
ゆえに、行方不明になってしまった物語を書いた。
アレのその後を書けと?

「封筒は狐の体温でホカホカだろうけど、便箋ってこの場合、体温、伝わってんのかな」
物書きは更に想像する。
なお狂犬病やエキノコックスは対策済みとする。
「……別のハナシにしねぇか?」

――――――

まずは物語導入。
「ここ」ではないどこか、別の世界で、「世界線管理局」なる厨二ちっくファンタジー組織が、
その世界が「その世界」として尊重され、独自性と独立性を保持していられるように、
あるいは独自性を保ったまま他の世界と対等に交流し続けられるように。
為すべき仕事を、毎日、着実に、確実に。

管理局の法務部執行課には、特殊で不思議な、
鳥の名前をビジネスネームに持つハムスターだけで構成された部署があり、
その部署名を特殊情報部門といった。

「ムクドリからだ」
その特殊情報部門のオフィスに、「こっち」の世界の都内某所から、手紙が1通。
差出人、もとい差出ハムは「ムクドリ」といった。

前回投稿分の物語で、ネズミ車をカラカラ、からから。虚無顔で回していたハムである。

「どれどれ?」
カリカリ、ぴりぴり。
封をかじり、局員ハムが手紙を開くと、
ムクドリの弱々しい字体で、

『のびました』

「あー……、うん、そうか。なるほどな」
何が「のびた」のか。
ムクドリの東京滞在が「延びた」のだ。
何故「のびた」のか。
ムクドリが都内某所で「やらかした」のだ。

導入終了。ここからが本編。
以下は不思議なハムスターが魔女の喫茶店でしでかした、ケーブルかじりとその結果である。

――時刻は戻り、24時間前。
都内某所には「本物」の魔女の老淑女が店主をつとめる、不思議な不思議な喫茶店があり、
そこに手紙の差出者たるハムスターが、
とととと、とててて。裏メニューたる絶品ローストナッツのミックスを求めて来店していた。
ナッツミックスはメニューに無い。しかし、頼めば出てくるのだ。それが素晴らしく美味くて。

「うーん。最高だ」
手紙の差出ハム、ムクドリは日の当たるテーブルの上でミックスナッツを、すなわちしっとりクルミとカリカリアーモンド、それからやわらかマカダミアナッツとを、それぞれ堪能していた。
「おや。あそこにあるのは、なんだろう」

ムクドリは「ムクドリ」なんてビジネスネームのくせに、実際はハムスターなので、
本能として、硬いものをかじりたがるし、それらを求めたがる。歯が伸び続けるせいだ。
ゆえにナッツミックスのようなカチカチかりかりの食材を好んで食すのだが、
ハムスターの飼育経験がある読者であれば、想像がつく、あるいは経験済みかもしれない、

つまり家電のコードもかじるのだ。

「うぅ、かじりたい、きっと噛みごたえが良い」
うずうず、うずうず。
テーブルの上でナッツミックスを堪能していたハム、とっとこムクドリは、カウンターの影に隠された「何かのコード」を発見した。
黒く、掴みやすそうな直径で、かつ近くに家電が見つからないそれは、ムクドリには自分の歯を削るに丁度良い枝か何かに思えた。

ぼとっ、ぽてん。
テーブルから椅子へ、椅子から床へ下りたムクドリは、店員や店主の姿を探して、さがして、
どうやら付近には不在、と認識したので、
とたたたたたた!一直線に、コードへ突撃。
本能なのだ。仕方ないのだ。
人間だって、眠気を我慢できる者など居るものか。

「んん。これもまた、最高だ」
ガリガリ、がりがり。
何のコードか分からぬ黒を、ムクドリは己の本能に従って、つかみ、歯を当て、噛んだ。
「丁度良い。本当に、丁度良い……」
ガリガリ、がりがり。
ムクドリは固いコードカバーを削り、その下のカバーもかじり、もうすぐ絶縁ビニルというところで、

「あらあら、あら。 なにしてるの」
その喫茶店の店主、本物の魔女、
アンゴラに現行犯で見つかった。
「またコードをかじったのね。
お仕置きが、足りなかったのかしら」

老淑女な魔女アンゴラが、きっと何かの調理中であったのだろう、鋭い魔法の光をまとう包丁を片手にニッコリ穏やかに微笑んでいる。
「丁度良いわ」
アンゴラが言った。
「これから近くの稲荷神社で、神社マルシェがあるの。そこに出店する予定よ。
あなた、一緒に来て、手伝ってちょうだい」

ああ、のびた。延長だ。ムクドリは理解した。
ムクドリはこの喫茶店でナッツを食い終えたら、自分の職場に戻る予定であった。
戻る予定日が先延ばしになったのだ。
『のびました』
すなわち、冒頭の手紙の文章は、「帰りが日にち単位で遅くなります」の報告だったのである。
しゃーない、しゃーない。

5/5/2025, 3:57:32 AM

「すれ違う、スレ違う。ゴマを『すれ』、みたいな方なのか機密情報入りUSBを『スれ』、みたいな方の意味のすれ違いなのか。
距離ですれ違ったか心理的にすれ違ったか、言葉の意味が違ったって『すれ違う』もあるわな」
あとはなんだ。「すれ違い通信」?某所在住物書きは去年投稿分を確認しながら、ため息をひとつ。
去年は「スーパーですれ違った職場の先輩が、後輩のためにハロウィンスイーツの下見に来ていた」の話だった。 では今年は?

「……『すれ違う瞳の心理学』?」
突然ぽつり。物語のネタがあまりにも思い浮かばないので、本棚の所蔵タイトルに「すれ違う瞳」をつけて遊び始めたのだ――「すれ違う瞳の戦略図鑑」など、なんとあざとい香りのすることか。
「ふーん……」
意外と面白い。物書きは執筆そっしのけで……

――――――

前回投稿分の続き物。
最近最近の都内某所に、異世界組織から仕事に来ている食いしん坊、もといグルメさんがおりまして、
いろんな美味に触れてきたその女性は、ビジネスネームを「ドワーフホト」といいました。

ところでグルメな異世界職員のドワーフホト、
都内某所の某稲荷神社に住む食いしん坊な稲荷子狐と、食いしん坊という点から仲良し。
前回投稿分でも、前々回投稿分でも、1人と1匹で、美味しい美味しい物語を歩きました。

どうやら今回もドワーフホト、この世界の美味を堪能できるイベントに誘われたようで。

「まるしぇ!まるしぇ!」
それは、稲荷子狐のお家である稲荷神社で、ゴールデンウィークゆえに開催されたグルメマルシェ。
食いしん坊子狐が、ドワーフホトを誘いました。
「おいなりさん、おあげさん、おにく!」
コンコン子狐は狐なので、ジューシーなお肉も甘い野菜も、やわらかい山菜も大好き!
食いしん坊仲間のドワーフホトと一緒に、ぎゃぎゃん、ぎゃぎゃん!尻尾ぶんぶんです。

「縁日ケバブ、さつまいもチップスの稲荷寿司味、たこ焼きにアイスココア、スムージー!」
食いしん坊同盟の同志たる子狐を優しく抱いて、ドワーフホトもマルシェを楽しみます。
美しい花畑をよけて停車するキッチンカーは、全部で5台。テントを使った屋台も見えます。
「カップケーキもあるぅ!ミカンのチーズケーキは、お土産でど〜っさり、買ってかなきゃ!」
ドワーフホトは「その世界」が生み出した幸福と知恵の結晶、その世界の料理が大好き!
グルメ仲間の子狐と一緒に、これください、あれください!口角が上がりっぱなしです。

「むっ。 むむっ」
「あれ、どーしたの、コンちゃん」
「ネズミだ、ネズミだ! ネズミのニオイ!」
「そりゃ、深い森の中の稲荷神社だもん。
野ネズミの1匹も2匹も、いるよぉ」

「ちがう、ちがう!キツネ、しってる。
このニオイ、しらないとこから来たネズミ」
「知らないとこー?」

あー、はい、居るねぇ。
さつまいもチップスのきび砂糖味をポリポリしながら、焦がし醤油やバター等々の良い香りの中を歩いておるドワーフホト、
見知ったアンティークデザインのキッチンカーを視線でチラリ、なぞっておると、
まさしくお題回収、
カラカラ不思議なネズミ車型の専用コーヒー豆焙煎機の中を、無表情で走り続けているハムスターと、すれ違う瞳の虚無っぷりたるや。

ネズミです。たしかに、ネズミです。
実はドワーフホトの部署違いな同僚さん。ビジネスネームを「ムクドリ」といいます。
たしかに「知らない世界から来たネズミ」です。

カラカラ、からから。とっとこムクドリがネズミ車で、自分の能力を開放して、1杯ずつのコーヒー豆をじっくりローストしています。
すれ違う瞳は、何も映していないようです。
「ムッくん、どうしたの、何したの、
いや、『今回』は『何』をかじったの……」

しゅばばっ!
ドワーフホトの腕の中から、稲荷子狐が勢いよく、飛び出してゆきます。
てっきりムクドリに飛びかかると思ったら、別のハムスターを見つけた様子。すっ飛んでゆきます。
「ぎゃーーーー!!」
そのハムスターも、ドワーフホトの同僚でした。
そのハムスターは、ただ稲荷神社の美しい花を、単純に、楽しみたくて来ただけの、ハズでした。

「ネズミ、ネズミ!キツネとあそべッ」
「やめてとめてゆるして!たすけt
あっちょっホントにゆるしt あふん」

ぽぉん! 稲荷子狐の子狐ぱんちに、ハムスターが高くたかく宙を舞います。
この瞳とも、ドワーフホト、すれ違います。
「わぁー。カナリアくん、よく飛んだねぇー」
「感心してないで助けてホトさーん!」

今日も都内某所は平和です。
今日も都内某所は、お題とともに進みます。
ところで、おはなし後半の「ムクドリ」、虚無目でしたが、何があったのでしょう……?

5/4/2025, 3:02:35 AM

「去年『どこまでも続く青い空』ってお題を書いたから、ぶっちゃけ、それを再掲載することもだな」
他にはアレだ。青々とした緑がどうとか、青い青い顔がどうとか、未熟な誰かを青いとか。
某所在住物書きは「青」の用例を調べつつ、
しかし結局普通に「青い色」で書く方が早いと結論付けたあたりで、
ふと、テレビを観たところ、丁度、映像にブルーシートが堂々展開。たしかに、青い、青い……

「そうだ。青い青い緑か」
新緑を「青」と言う日本である。「青い青い」のお題で、そうだ、緑もネタにできるじゃないか。
物書きは考えたが、結局お蔵入り。
素直に「青」を書いた方が早い。

――――――

前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所で、異世界から来た厨二ふぁんたじー組織の出先機関、通称「領事館」が、
領事館運営の資金を得る目的で、ゴールデンウィーク限定のヌン活専門店を開いたのですが、
都民から資金を吸い上げる目論見が完全破綻!
逆に大赤字を叩き出してしまったのでした。

お題が「青い青い」なのに大「赤」字。
大丈夫、大丈夫。これからお題回収。
今回のおはなしのはじまりです。

前回投稿分で異世界組織のヌン活専門店の大福の、美味さと甘さと素晴らしさを知ったお題回収役、
次の日も大福を堪能しようとしたところ、
ガッツリ、やっぱり、出禁を食らいまして。

「うわぁぁぁん!ひどい、酷いよぉぉ!」
気合を入れて、正装同然にヌン活専門店の内装にマッチするアンティークコーデをまとって、
清楚なアイラインに控えめアイシャドウをして、
さあ、今日もヌン活、ヌン活!
と、意気込んでいた彼女もまた、異世界の職員。ビジネスネームをドワーフホトといいます。
「すごく美味しい大福だったのに、紅茶との相性だって、バッチリだったのにぃ!
あんまりだよぉ、うわぁぁーん!」

その日もガッツリ、自分の職場とは別の異世界組織が運営する、美味しい美味しいヌン活専門店でヌン活する予定だったドワーフホトは、
その専門店から締め出されて、ガッツリ敵対され、
もはや失意と落胆。絶望のどん底です。

「『美味しいミカン大福見つけたからお土産に買ってくる』って、約束だってしちゃったのにぃ」
どうしよう、どうしよう。
せっかくの親友との大福タイムも、諦めなければなりません。ドワーフホトは大号泣です。
あんまり泣いて泣いて、涙が水たまりになりますので、いずれ青い青い海さえできるでしょう。

「おねーちゃん、おけしょーのおねーちゃん」
ドワーフホトの肩に乗った稲荷の子狐言いました。
「あのね、キツネ、知ってるよ。
おいしいおかし、いっぱい。知ってるよ。
キツネのおともだち、ワガシやさん」

「 え? 」
子狐のお友達が和菓子屋さん?

――数十分後、ドワーフホトと稲荷の子狐は、バスを乗り継いで少し歩いて、
化け狸が人間に化けて営業している、伝統的な和菓子屋さんに来ておりました。

「ありがとう、ありがとう!本当に助かるよ」
ドワーフホトの両手をとって、ずっと握手しておるのは、子狐の親友にして和菓子屋の見習いさん。
去年ようやく自分の作品を、限られたスペースですが、店に置いてもらえるようになりました。
「あのね、実は、初夏に向けてどういうお菓子を作るか、試作しなさいって言われてるんだ!」

いっぱい食べて、意見をちょうだい!
和菓子屋の子狸、目をキラキラさせて、言います。
今まで自分ひとりで作っておったので、アイデアというアイデアが枯渇しておったのです。

そこにお菓子をいっぱい食べていっぱい知恵のあるドワーフホトが来たもので、
ぽんぽこ子狸、それはそれは、もう、それは。
渡りに船、それも泥舟ではなく本当の大船です。
豪華客船が来たような心地でおるのです。

「まず、今まで作ったのを、見てよ」
ぽんぽこ子狸、ドワーフホトに今まで作った、初夏用和菓子の試作品を見せました。
青い波上のねりきり、青くて丸い大福、青い琥珀糖に青い水ようかん。 青い、青い、青い青い。
どうやら「夏」ということで、青い色によって海を表現したかった様子です。
「でも、海ってなかなか、表現しづらくて……」

「ふんふん。なるほど。なるほどぉ」
初夏。初夏ねー。
ドワーフホト、稲荷子狐と一緒に子狸の和菓子を食べながら、これまで食べた「初夏」を辿ります。
「琥珀糖と水ようかん、青すごーくキレイでカワイイと思う。せっかく『初夏』なんだから、この透き通った青でアジサイとかどうかなー」

初夏は海だけじゃないよ。
初夏はきっと、もっといろんなところにあるよ。
ドワーフホトが子狸の、凝り固まった認識を、優しく、穏やかに解してゆきます。
「アジサイはもう、作ったことあるんだ」
アジサイ。アジサイかぁ。
子狸も、これまで作った「初夏」を辿ります。
「でも、そうだな、琥珀糖とか水ようかんとかでは、アジサイ、作ったことなかった」

やってみよう。新しいものが、できるかも。
ぽんぽこ子狸は子狐と、そしてドワーフホトとも一緒になって、新しい試作品の準備を始めます。
「アジサイって、レモンとゆず、どっちだろう」
「うぅーん。白あんと少しのゆずとか、甘めのみたらしにレモンとかも、アリだと思うなぁ」

あーだこーだ、やいのやいの。
ドワーフホトがいっぱい食べて、いっぱい感想をくれるので、子狸の試作制作は絶好調!
そこから生まれた第一号は残念ながら、店主さんから不合格を食らったものの、
それでも、和菓子屋見習いの子狸は、その日の貴重で充実した経験を、いつまでも、いつまでも覚えておったとさ。 おしまい、おしまい。

5/3/2025, 8:02:30 AM

何食ったって胃もたれしなかった頃、何食ったってすぐ痩せることができた頃。
それらはまさしく甘い記憶の複数形であり、しょっぱい記憶のアレコレであり、温かくて冷たくて脂身の舌触りがなめらかな記憶でもあるのです。

おお、過去よ。箱いっぱいのキューブケーキよ。
あるいは10個以上詰めた手提げの紙箱、某ドーナツチェーン店のエンゼルフレンチだのオールドファッションだのポンなリングだのよ。
すべては、難なく痩せられた時代の、sweet memoriesなのです。

と、いう早々のお題回収は置いといて、
今回のおはなしのはじまり、はじまり。

最近最近の都内某所、某深い杉林の入口近くで、
別の世界に本拠地を置く異世界組織が、
期間限定、資金調達を目論んで、ゴールデンウィークの間だけ、ひっそり、こっそり、ちゃっかり。
店内飲食が可能な、ヌン活専門店を開きました。

名前は勿論、「sweet memories」。
店を開いたのは「世界多様性機構」という組織で、
「ここ」ではないどこか、別の世界で生まれたお菓子を、東京で手に入る食材と東京で可能な調理方法で再現、というコンセプト。
他の世界で実際に、バズったお菓子を並べておるので、そりゃ一部の都民には刺さるのです。

東京には無いお菓子、東京で見覚えのあるお菓子。
「お菓子」と呼べない気がするお菓子に、
「お菓子」の域を逸脱していそうなお菓子。
それらと一緒に紅茶をどうぞ、あるいは日本茶、工芸茶。不思議な味の薬茶もどうぞ。
そんなお店を、多様性機構が開いたのです。

すべては機構の支援拠点、都内の「領事館」の運営資金を、1000円でも2000円でも稼ぐため。
多様性機構には、カネがない!
なるべく安い食材を調達して、なるべく安い調理方法で調理して、原価率の低いものを「イチオシ!」表記、収益率の悪いメニューを小さくこっそり。
なるべく共通の食材で、なるべくパッケージ化されたセットで、多くのメニューが回るように。
そんなヌン活専門店なのでした。

「よし!ゴールデンウィーク前半は黒字だ!」
いいぞ、いいぞ!
多様性機構の領事館の館長さん、ビジネスネームを「スギ」といいまして、
今年開始したこの副業に、ガッツリ、手応えを感じておりました。
「この世界の連中は、俺達のスイーツの『本当の原価率』を知らない。儲かるティーセットばかり頼んでいく!うはははは!」

異世界の技術を使って、とことん原価を下げてさげて、原価100円を2000円で提供。
異世界の技術が使えないメニューは、ほぼほぼ赤字も同然ですが、都民はまったく見向きもしません。

「今年は良い思いが――甘い思いができそうだぜ」
さぁ!ゴールデンウィーク後半戦!
このまま利益率の良い菓子と良い茶だけ、売り抜けて目標はプラス100万だ!
館長のスギさん、部下のアテビとヒノキとヒバを、鼓舞して皆で一致団結!
今年こそは領事館を、財政的余裕とともに運営してゆきたいと、職員一同思っておったのですが。

「あったぁ!コンちゃん、ココだよー!」
甘い思いを胸に秘めた、異世界職員の甘い考えは、
その日の開店早々10分で、見事に、盛大に、打ち砕かれてしまうのでした。
「カラスさんがねぇ、『この期間限定のお店のフルーツ大福と紅茶セットが美味』って!」

一緒にいっぱい、食べようねー!
るんるん笑顔で入ってきた、かわいい子狐抱えた女性が注文したのは、税込み5000円、季節のフルーツ大福餅と高級紅茶のティーセット。
イチバン、利益率の悪い商品です。
イチバン値段の高い商品です。
高級イチゴとブランドもち米と、それから良い紅茶を使ったこのセットは、「フルーツ大福」という伝統菓子自体が「異世界の技術」と低相性。
シンプル過ぎて、原価を下げられないのです。
なんならぶっちゃけ、頼まれるだけ赤字なのです!

「あの、お客様」
冷や汗スギさん、子狐抱えた女性客に、他のティーセットを勧めます――ペット同伴オーケーなので、子狐が居ることは別に良いのです。
「せっかくの異世界ヌン活店です。
他の異世界っぽいスイーツを、お試しになっては」

「だいじょーぶです!」
この、高級フルーツ大福をください!
女性客の意志は揺らぎません。
そして、スギにハッキリ、言いました。
「ここのお店の異世界お菓子の、元ネタ全部、ぜぇーんぶ、食べたことあるので!」
だから、この、フルーツ大福ください!
女性客は確固たる覚悟で、言いました。

それから先は、あえて詳しくは語りません。
ただ女性客と子狐が、1人と1匹して大量に、規格外に高級フルーツ大福だけを注文して、
領事館が数日かけてコツコツ積み上げてきた■■万の純利益を、たった1時間でマイナスに、
ガッツリ、ガクンと、落とし切ったとさ。

5/2/2025, 5:38:05 AM

「『イタリア風と和風のパスタ』、『ロシアンルーレット風とハロウィン風のいたずら』、『シェフの気まぐれ風と鶏のステーキ』。
言葉を追加すれば、いくらでも改変は可能よな」
は、バレンタインネタに取っておくのも面白いな。 某所在住物書きはスマホの過去投稿分を確認しながら、ぽつり、ぽつり。
似たお題を書いた記憶があるのだ。
あれは「風のいたずら」だった。

「個人的に和風とたらこのパスタは好きだ」
◯◯風とすれば、食い物と相性が良い。
物書きはひらめいて、スマホで検索を始める。
和風、中華風、イタリア風とジャンク風。
ところで最近、体重計の数字が……

――――――

前々回投稿分から続くおはなし。
最近最近の都内某所で、異なる思想を持ち別々の世界に本拠地を置くふたつの異世界組織が、
ひとつは淡々と職務をこなし、
もうひとつは一方的に、もう片方を敵視して、
事実として、対立構造をとっておりました。

前者は「世界線管理局」。
その世界が「その世界」で在り続けられるように、
その世界が他の世界から侵略されないように、
それぞれの世界が独自性・独立性を、ずっと、ずっと保っていられるように。尊重されるように。
保全活動と、運行管理と、調停と取り締まりと収容行為等々をしていました。

後者は「世界多様性機構」。
すべての世界が最先端技術を享受できるように、
すべての世界の知的生命を取りこぼさないように、
滅びそうな世界があれば、その世界に生きる人々が別の新しい世界で新しい生活を送れるように。
滅亡世界を看取る管理局の目をくぐり、滅亡世界の生存者を、他の世界へ密航させたり、
生存者を密航させた発展途上世界に先進世界の技術を持ち込んだりしていました。

で、そんな勝手に敵視されたり、危険視して監視したりし合っている両組織が、日本の東京で何をしておるかといいますと、
多様性機構は東京を、滅亡世界の難民の、密航を起点とした避難シェルターにしたいらしくて、
管理局はそんな機構を、東京から難民もろとも追い出したいらしくて。

そして、なぜかこのふたつの組織の、いざこざに巻き込まれかけておる東京都民(雪国出身)の、
名前を、藤森というのでした。

日本の花が好きな藤森は、技術提供を積極的にしてくれる機構に、絶滅に向かい続けている日本の花々を救ってほしいと思っており、
機構も藤森の要望に結構乗り気。

だけど一応、管理局のハナシも聞きましょう。
機構が隠しているであろう、「機構を盲信するリスク」を、管理局から聞こうとしたのです……

――「という経緯で、藤森、あなたのアパートに私が管理局から派遣されてきたワケだ」
「はぁ。それは、どうも」

藤森がその日、仕事から自分の部屋に戻ってくると、ちゃんとロックもセキュリティーも万全であるハズの部屋は鍵が開いていて、
そして、管理局の局員が、藤森のために温かい飲み物を淹れておりました。

「この世界のロックやセキュリティーなど、私達にはほぼ無いも同然だ」
しれっと藤森の電気ケトルを勝手に使っておる局員が、しれっと藤森のカップを持って言いました。
「私の故郷じゃ量子暗号も多重認証も、ひと昔前、いや、ふた昔さん昔前だ。
まだ異世界渡航技術も確立していないこの世界を、機構は、発展途上世界として開発したいのさ」

はい、どうぞ。
管理局から来た局員は、藤森に1杯、2杯。
小さなカップを差し出します。
中身はエスプレッソとカフェラテと?
「いいや、いいや。エスプレッソではない」
局員は穏やかに、しかし確実に、否定しました。
「エスプレッソ風と、カフェラテ風だ。あくまで『それっぽいもの』でしかない」

さぁ。どうぞ。
改めてカップを差し出された藤森は、
「エスプレッソ『風』とカフェラテ『風』」ってなんだと頭にはてなマークを浮かべながら、
まずカフェラテ風と、それからエスプレッソ風の、
香りを順番にかいで、それから口に少し含んで、

そしてカフェラテで気付きました。
牛乳で作ったカフェラテじゃない。
そもそもエスプレッソがエスプレッソじゃない。

「カフェラテは、生クリームと練乳だ」
ここで局員が種明かし。
「私がこの世界に来て、最初に飲んだのがカフェラテだった。それがとてもとても、美味くて」
作り方を知らない私がそれでもカフェラテを飲みたくて、見た目の似た材料を買って作った最初の「失敗作」が、それだ。
局員はそう言って、笑いました。

「つまり、あなたの故郷は私の世界より進んでいるのに、カフェラテとエスプレッソが無かった?」
「そう。そもそも動物の乳を飲む文化が無かった。
コーヒーはハーブの酒に溶かして飲む薬だったし、常飲嗜好品ですらなかった。
コーヒーはこの世界の『独自性』であり、『独立性』だ。守るべきだし、誇って良いと思う」
「はぁ。なるほど」

コーヒーが薬酒ねぇ。
藤森は再度、カフェラテ風とエスプレッソ風の飲み物の香りをかいで、ひとくちずつ飲みました。
カフェラテにしてはコーヒーが薄く、生クリームの風味が強く、練乳で妙な舌触りがありました。
エスプレッソは、ただの濃すぎるコーヒーでした。
それでもそれが「異世界人がカフェラテとエスプレッソを一生懸命再現しようとした結果」なので、
藤森は、カフェラテ風とエスプレッソ風を、大事に大事に、よく味わって飲みました。

「機構がしようとしているのは、カフェラテとエスプレッソの、いわば根絶だ」
管理局員が言いました。
「彼等は一律に、発展途上の世界を先進世界で塗り潰したがる。途上世界の独自性の芽を摘みたがる。
カフェラテとエスプレッソを、全部私の世界の薬酒に置き換える。それが、世界多様性機構だ」

「先進世界の技術を提供するだけなんだろう?」
「君たちはスマホやタブレットを与えられても、黒電話や電報を使い続けるのか?」

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