「去年『どこまでも続く青い空』ってお題を書いたから、ぶっちゃけ、それを再掲載することもだな」
他にはアレだ。青々とした緑がどうとか、青い青い顔がどうとか、未熟な誰かを青いとか。
某所在住物書きは「青」の用例を調べつつ、
しかし結局普通に「青い色」で書く方が早いと結論付けたあたりで、
ふと、テレビを観たところ、丁度、映像にブルーシートが堂々展開。たしかに、青い、青い……
「そうだ。青い青い緑か」
新緑を「青」と言う日本である。「青い青い」のお題で、そうだ、緑もネタにできるじゃないか。
物書きは考えたが、結局お蔵入り。
素直に「青」を書いた方が早い。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所で、異世界から来た厨二ふぁんたじー組織の出先機関、通称「領事館」が、
領事館運営の資金を得る目的で、ゴールデンウィーク限定のヌン活専門店を開いたのですが、
都民から資金を吸い上げる目論見が完全破綻!
逆に大赤字を叩き出してしまったのでした。
お題が「青い青い」なのに大「赤」字。
大丈夫、大丈夫。これからお題回収。
今回のおはなしのはじまりです。
前回投稿分で異世界組織のヌン活専門店の大福の、美味さと甘さと素晴らしさを知ったお題回収役、
次の日も大福を堪能しようとしたところ、
ガッツリ、やっぱり、出禁を食らいまして。
「うわぁぁぁん!ひどい、酷いよぉぉ!」
気合を入れて、正装同然にヌン活専門店の内装にマッチするアンティークコーデをまとって、
清楚なアイラインに控えめアイシャドウをして、
さあ、今日もヌン活、ヌン活!
と、意気込んでいた彼女もまた、異世界の職員。ビジネスネームをドワーフホトといいます。
「すごく美味しい大福だったのに、紅茶との相性だって、バッチリだったのにぃ!
あんまりだよぉ、うわぁぁーん!」
その日もガッツリ、自分の職場とは別の異世界組織が運営する、美味しい美味しいヌン活専門店でヌン活する予定だったドワーフホトは、
その専門店から締め出されて、ガッツリ敵対され、
もはや失意と落胆。絶望のどん底です。
「『美味しいミカン大福見つけたからお土産に買ってくる』って、約束だってしちゃったのにぃ」
どうしよう、どうしよう。
せっかくの親友との大福タイムも、諦めなければなりません。ドワーフホトは大号泣です。
あんまり泣いて泣いて、涙が水たまりになりますので、いずれ青い青い海さえできるでしょう。
「おねーちゃん、おけしょーのおねーちゃん」
ドワーフホトの肩に乗った稲荷の子狐言いました。
「あのね、キツネ、知ってるよ。
おいしいおかし、いっぱい。知ってるよ。
キツネのおともだち、ワガシやさん」
「 え? 」
子狐のお友達が和菓子屋さん?
――数十分後、ドワーフホトと稲荷の子狐は、バスを乗り継いで少し歩いて、
化け狸が人間に化けて営業している、伝統的な和菓子屋さんに来ておりました。
「ありがとう、ありがとう!本当に助かるよ」
ドワーフホトの両手をとって、ずっと握手しておるのは、子狐の親友にして和菓子屋の見習いさん。
去年ようやく自分の作品を、限られたスペースですが、店に置いてもらえるようになりました。
「あのね、実は、初夏に向けてどういうお菓子を作るか、試作しなさいって言われてるんだ!」
いっぱい食べて、意見をちょうだい!
和菓子屋の子狸、目をキラキラさせて、言います。
今まで自分ひとりで作っておったので、アイデアというアイデアが枯渇しておったのです。
そこにお菓子をいっぱい食べていっぱい知恵のあるドワーフホトが来たもので、
ぽんぽこ子狸、それはそれは、もう、それは。
渡りに船、それも泥舟ではなく本当の大船です。
豪華客船が来たような心地でおるのです。
「まず、今まで作ったのを、見てよ」
ぽんぽこ子狸、ドワーフホトに今まで作った、初夏用和菓子の試作品を見せました。
青い波上のねりきり、青くて丸い大福、青い琥珀糖に青い水ようかん。 青い、青い、青い青い。
どうやら「夏」ということで、青い色によって海を表現したかった様子です。
「でも、海ってなかなか、表現しづらくて……」
「ふんふん。なるほど。なるほどぉ」
初夏。初夏ねー。
ドワーフホト、稲荷子狐と一緒に子狸の和菓子を食べながら、これまで食べた「初夏」を辿ります。
「琥珀糖と水ようかん、青すごーくキレイでカワイイと思う。せっかく『初夏』なんだから、この透き通った青でアジサイとかどうかなー」
初夏は海だけじゃないよ。
初夏はきっと、もっといろんなところにあるよ。
ドワーフホトが子狸の、凝り固まった認識を、優しく、穏やかに解してゆきます。
「アジサイはもう、作ったことあるんだ」
アジサイ。アジサイかぁ。
子狸も、これまで作った「初夏」を辿ります。
「でも、そうだな、琥珀糖とか水ようかんとかでは、アジサイ、作ったことなかった」
やってみよう。新しいものが、できるかも。
ぽんぽこ子狸は子狐と、そしてドワーフホトとも一緒になって、新しい試作品の準備を始めます。
「アジサイって、レモンとゆず、どっちだろう」
「うぅーん。白あんと少しのゆずとか、甘めのみたらしにレモンとかも、アリだと思うなぁ」
あーだこーだ、やいのやいの。
ドワーフホトがいっぱい食べて、いっぱい感想をくれるので、子狸の試作制作は絶好調!
そこから生まれた第一号は残念ながら、店主さんから不合格を食らったものの、
それでも、和菓子屋見習いの子狸は、その日の貴重で充実した経験を、いつまでも、いつまでも覚えておったとさ。 おしまい、おしまい。
5/4/2025, 3:02:35 AM