かたいなか

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「2月3日のお題が『隠された手紙』で、19日付近が『手紙の行方』だった」
アレか、あの日とあの日のお題で書いた手紙の結末について投稿してくださいってお題か。
某所在住物書きは過去投稿分を確認しながら、
ぽわぽわ、もわんもわん。
当時書いた手紙を開いた結果を想像した。

たしか2月の「手紙」では、神社の子狐が、手紙を自分のドテっ腹に敷いて昼寝をしてしまい、
ゆえに、行方不明になってしまった物語を書いた。
アレのその後を書けと?

「封筒は狐の体温でホカホカだろうけど、便箋ってこの場合、体温、伝わってんのかな」
物書きは更に想像する。
なお狂犬病やエキノコックスは対策済みとする。
「……別のハナシにしねぇか?」

――――――

まずは物語導入。
「ここ」ではないどこか、別の世界で、「世界線管理局」なる厨二ちっくファンタジー組織が、
その世界が「その世界」として尊重され、独自性と独立性を保持していられるように、
あるいは独自性を保ったまま他の世界と対等に交流し続けられるように。
為すべき仕事を、毎日、着実に、確実に。

管理局の法務部執行課には、特殊で不思議な、
鳥の名前をビジネスネームに持つハムスターだけで構成された部署があり、
その部署名を特殊情報部門といった。

「ムクドリからだ」
その特殊情報部門のオフィスに、「こっち」の世界の都内某所から、手紙が1通。
差出人、もとい差出ハムは「ムクドリ」といった。

前回投稿分の物語で、ネズミ車をカラカラ、からから。虚無顔で回していたハムである。

「どれどれ?」
カリカリ、ぴりぴり。
封をかじり、局員ハムが手紙を開くと、
ムクドリの弱々しい字体で、

『のびました』

「あー……、うん、そうか。なるほどな」
何が「のびた」のか。
ムクドリの東京滞在が「延びた」のだ。
何故「のびた」のか。
ムクドリが都内某所で「やらかした」のだ。

導入終了。ここからが本編。
以下は不思議なハムスターが魔女の喫茶店でしでかした、ケーブルかじりとその結果である。

――時刻は戻り、24時間前。
都内某所には「本物」の魔女の老淑女が店主をつとめる、不思議な不思議な喫茶店があり、
そこに手紙の差出者たるハムスターが、
とととと、とててて。裏メニューたる絶品ローストナッツのミックスを求めて来店していた。
ナッツミックスはメニューに無い。しかし、頼めば出てくるのだ。それが素晴らしく美味くて。

「うーん。最高だ」
手紙の差出ハム、ムクドリは日の当たるテーブルの上でミックスナッツを、すなわちしっとりクルミとカリカリアーモンド、それからやわらかマカダミアナッツとを、それぞれ堪能していた。
「おや。あそこにあるのは、なんだろう」

ムクドリは「ムクドリ」なんてビジネスネームのくせに、実際はハムスターなので、
本能として、硬いものをかじりたがるし、それらを求めたがる。歯が伸び続けるせいだ。
ゆえにナッツミックスのようなカチカチかりかりの食材を好んで食すのだが、
ハムスターの飼育経験がある読者であれば、想像がつく、あるいは経験済みかもしれない、

つまり家電のコードもかじるのだ。

「うぅ、かじりたい、きっと噛みごたえが良い」
うずうず、うずうず。
テーブルの上でナッツミックスを堪能していたハム、とっとこムクドリは、カウンターの影に隠された「何かのコード」を発見した。
黒く、掴みやすそうな直径で、かつ近くに家電が見つからないそれは、ムクドリには自分の歯を削るに丁度良い枝か何かに思えた。

ぼとっ、ぽてん。
テーブルから椅子へ、椅子から床へ下りたムクドリは、店員や店主の姿を探して、さがして、
どうやら付近には不在、と認識したので、
とたたたたたた!一直線に、コードへ突撃。
本能なのだ。仕方ないのだ。
人間だって、眠気を我慢できる者など居るものか。

「んん。これもまた、最高だ」
ガリガリ、がりがり。
何のコードか分からぬ黒を、ムクドリは己の本能に従って、つかみ、歯を当て、噛んだ。
「丁度良い。本当に、丁度良い……」
ガリガリ、がりがり。
ムクドリは固いコードカバーを削り、その下のカバーもかじり、もうすぐ絶縁ビニルというところで、

「あらあら、あら。 なにしてるの」
その喫茶店の店主、本物の魔女、
アンゴラに現行犯で見つかった。
「またコードをかじったのね。
お仕置きが、足りなかったのかしら」

老淑女な魔女アンゴラが、きっと何かの調理中であったのだろう、鋭い魔法の光をまとう包丁を片手にニッコリ穏やかに微笑んでいる。
「丁度良いわ」
アンゴラが言った。
「これから近くの稲荷神社で、神社マルシェがあるの。そこに出店する予定よ。
あなた、一緒に来て、手伝ってちょうだい」

ああ、のびた。延長だ。ムクドリは理解した。
ムクドリはこの喫茶店でナッツを食い終えたら、自分の職場に戻る予定であった。
戻る予定日が先延ばしになったのだ。
『のびました』
すなわち、冒頭の手紙の文章は、「帰りが日にち単位で遅くなります」の報告だったのである。
しゃーない、しゃーない。

5/6/2025, 4:55:30 AM