「去年『どこまでも続く青い空』ってお題を書いたから、ぶっちゃけ、それを再掲載することもだな」
他にはアレだ。青々とした緑がどうとか、青い青い顔がどうとか、未熟な誰かを青いとか。
某所在住物書きは「青」の用例を調べつつ、
しかし結局普通に「青い色」で書く方が早いと結論付けたあたりで、
ふと、テレビを観たところ、丁度、映像にブルーシートが堂々展開。たしかに、青い、青い……
「そうだ。青い青い緑か」
新緑を「青」と言う日本である。「青い青い」のお題で、そうだ、緑もネタにできるじゃないか。
物書きは考えたが、結局お蔵入り。
素直に「青」を書いた方が早い。
――――――
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所で、異世界から来た厨二ふぁんたじー組織の出先機関、通称「領事館」が、
領事館運営の資金を得る目的で、ゴールデンウィーク限定のヌン活専門店を開いたのですが、
都民から資金を吸い上げる目論見が完全破綻!
逆に大赤字を叩き出してしまったのでした。
お題が「青い青い」なのに大「赤」字。
大丈夫、大丈夫。これからお題回収。
今回のおはなしのはじまりです。
前回投稿分で異世界組織のヌン活専門店の大福の、美味さと甘さと素晴らしさを知ったお題回収役、
次の日も大福を堪能しようとしたところ、
ガッツリ、やっぱり、出禁を食らいまして。
「うわぁぁぁん!ひどい、酷いよぉぉ!」
気合を入れて、正装同然にヌン活専門店の内装にマッチするアンティークコーデをまとって、
清楚なアイラインに控えめアイシャドウをして、
さあ、今日もヌン活、ヌン活!
と、意気込んでいた彼女もまた、異世界の職員。ビジネスネームをドワーフホトといいます。
「すごく美味しい大福だったのに、紅茶との相性だって、バッチリだったのにぃ!
あんまりだよぉ、うわぁぁーん!」
その日もガッツリ、自分の職場とは別の異世界組織が運営する、美味しい美味しいヌン活専門店でヌン活する予定だったドワーフホトは、
その専門店から締め出されて、ガッツリ敵対され、
もはや失意と落胆。絶望のどん底です。
「『美味しいミカン大福見つけたからお土産に買ってくる』って、約束だってしちゃったのにぃ」
どうしよう、どうしよう。
せっかくの親友との大福タイムも、諦めなければなりません。ドワーフホトは大号泣です。
あんまり泣いて泣いて、涙が水たまりになりますので、いずれ青い青い海さえできるでしょう。
「おねーちゃん、おけしょーのおねーちゃん」
ドワーフホトの肩に乗った稲荷の子狐言いました。
「あのね、キツネ、知ってるよ。
おいしいおかし、いっぱい。知ってるよ。
キツネのおともだち、ワガシやさん」
「 え? 」
子狐のお友達が和菓子屋さん?
――数十分後、ドワーフホトと稲荷の子狐は、バスを乗り継いで少し歩いて、
化け狸が人間に化けて営業している、伝統的な和菓子屋さんに来ておりました。
「ありがとう、ありがとう!本当に助かるよ」
ドワーフホトの両手をとって、ずっと握手しておるのは、子狐の親友にして和菓子屋の見習いさん。
去年ようやく自分の作品を、限られたスペースですが、店に置いてもらえるようになりました。
「あのね、実は、初夏に向けてどういうお菓子を作るか、試作しなさいって言われてるんだ!」
いっぱい食べて、意見をちょうだい!
和菓子屋の子狸、目をキラキラさせて、言います。
今まで自分ひとりで作っておったので、アイデアというアイデアが枯渇しておったのです。
そこにお菓子をいっぱい食べていっぱい知恵のあるドワーフホトが来たもので、
ぽんぽこ子狸、それはそれは、もう、それは。
渡りに船、それも泥舟ではなく本当の大船です。
豪華客船が来たような心地でおるのです。
「まず、今まで作ったのを、見てよ」
ぽんぽこ子狸、ドワーフホトに今まで作った、初夏用和菓子の試作品を見せました。
青い波上のねりきり、青くて丸い大福、青い琥珀糖に青い水ようかん。 青い、青い、青い青い。
どうやら「夏」ということで、青い色によって海を表現したかった様子です。
「でも、海ってなかなか、表現しづらくて……」
「ふんふん。なるほど。なるほどぉ」
初夏。初夏ねー。
ドワーフホト、稲荷子狐と一緒に子狸の和菓子を食べながら、これまで食べた「初夏」を辿ります。
「琥珀糖と水ようかん、青すごーくキレイでカワイイと思う。せっかく『初夏』なんだから、この透き通った青でアジサイとかどうかなー」
初夏は海だけじゃないよ。
初夏はきっと、もっといろんなところにあるよ。
ドワーフホトが子狸の、凝り固まった認識を、優しく、穏やかに解してゆきます。
「アジサイはもう、作ったことあるんだ」
アジサイ。アジサイかぁ。
子狸も、これまで作った「初夏」を辿ります。
「でも、そうだな、琥珀糖とか水ようかんとかでは、アジサイ、作ったことなかった」
やってみよう。新しいものが、できるかも。
ぽんぽこ子狸は子狐と、そしてドワーフホトとも一緒になって、新しい試作品の準備を始めます。
「アジサイって、レモンとゆず、どっちだろう」
「うぅーん。白あんと少しのゆずとか、甘めのみたらしにレモンとかも、アリだと思うなぁ」
あーだこーだ、やいのやいの。
ドワーフホトがいっぱい食べて、いっぱい感想をくれるので、子狸の試作制作は絶好調!
そこから生まれた第一号は残念ながら、店主さんから不合格を食らったものの、
それでも、和菓子屋見習いの子狸は、その日の貴重で充実した経験を、いつまでも、いつまでも覚えておったとさ。 おしまい、おしまい。
何食ったって胃もたれしなかった頃、何食ったってすぐ痩せることができた頃。
それらはまさしく甘い記憶の複数形であり、しょっぱい記憶のアレコレであり、温かくて冷たくて脂身の舌触りがなめらかな記憶でもあるのです。
おお、過去よ。箱いっぱいのキューブケーキよ。
あるいは10個以上詰めた手提げの紙箱、某ドーナツチェーン店のエンゼルフレンチだのオールドファッションだのポンなリングだのよ。
すべては、難なく痩せられた時代の、sweet memoriesなのです。
と、いう早々のお題回収は置いといて、
今回のおはなしのはじまり、はじまり。
最近最近の都内某所、某深い杉林の入口近くで、
別の世界に本拠地を置く異世界組織が、
期間限定、資金調達を目論んで、ゴールデンウィークの間だけ、ひっそり、こっそり、ちゃっかり。
店内飲食が可能な、ヌン活専門店を開きました。
名前は勿論、「sweet memories」。
店を開いたのは「世界多様性機構」という組織で、
「ここ」ではないどこか、別の世界で生まれたお菓子を、東京で手に入る食材と東京で可能な調理方法で再現、というコンセプト。
他の世界で実際に、バズったお菓子を並べておるので、そりゃ一部の都民には刺さるのです。
東京には無いお菓子、東京で見覚えのあるお菓子。
「お菓子」と呼べない気がするお菓子に、
「お菓子」の域を逸脱していそうなお菓子。
それらと一緒に紅茶をどうぞ、あるいは日本茶、工芸茶。不思議な味の薬茶もどうぞ。
そんなお店を、多様性機構が開いたのです。
すべては機構の支援拠点、都内の「領事館」の運営資金を、1000円でも2000円でも稼ぐため。
多様性機構には、カネがない!
なるべく安い食材を調達して、なるべく安い調理方法で調理して、原価率の低いものを「イチオシ!」表記、収益率の悪いメニューを小さくこっそり。
なるべく共通の食材で、なるべくパッケージ化されたセットで、多くのメニューが回るように。
そんなヌン活専門店なのでした。
「よし!ゴールデンウィーク前半は黒字だ!」
いいぞ、いいぞ!
多様性機構の領事館の館長さん、ビジネスネームを「スギ」といいまして、
今年開始したこの副業に、ガッツリ、手応えを感じておりました。
「この世界の連中は、俺達のスイーツの『本当の原価率』を知らない。儲かるティーセットばかり頼んでいく!うはははは!」
異世界の技術を使って、とことん原価を下げてさげて、原価100円を2000円で提供。
異世界の技術が使えないメニューは、ほぼほぼ赤字も同然ですが、都民はまったく見向きもしません。
「今年は良い思いが――甘い思いができそうだぜ」
さぁ!ゴールデンウィーク後半戦!
このまま利益率の良い菓子と良い茶だけ、売り抜けて目標はプラス100万だ!
館長のスギさん、部下のアテビとヒノキとヒバを、鼓舞して皆で一致団結!
今年こそは領事館を、財政的余裕とともに運営してゆきたいと、職員一同思っておったのですが。
「あったぁ!コンちゃん、ココだよー!」
甘い思いを胸に秘めた、異世界職員の甘い考えは、
その日の開店早々10分で、見事に、盛大に、打ち砕かれてしまうのでした。
「カラスさんがねぇ、『この期間限定のお店のフルーツ大福と紅茶セットが美味』って!」
一緒にいっぱい、食べようねー!
るんるん笑顔で入ってきた、かわいい子狐抱えた女性が注文したのは、税込み5000円、季節のフルーツ大福餅と高級紅茶のティーセット。
イチバン、利益率の悪い商品です。
イチバン値段の高い商品です。
高級イチゴとブランドもち米と、それから良い紅茶を使ったこのセットは、「フルーツ大福」という伝統菓子自体が「異世界の技術」と低相性。
シンプル過ぎて、原価を下げられないのです。
なんならぶっちゃけ、頼まれるだけ赤字なのです!
「あの、お客様」
冷や汗スギさん、子狐抱えた女性客に、他のティーセットを勧めます――ペット同伴オーケーなので、子狐が居ることは別に良いのです。
「せっかくの異世界ヌン活店です。
他の異世界っぽいスイーツを、お試しになっては」
「だいじょーぶです!」
この、高級フルーツ大福をください!
女性客の意志は揺らぎません。
そして、スギにハッキリ、言いました。
「ここのお店の異世界お菓子の、元ネタ全部、ぜぇーんぶ、食べたことあるので!」
だから、この、フルーツ大福ください!
女性客は確固たる覚悟で、言いました。
それから先は、あえて詳しくは語りません。
ただ女性客と子狐が、1人と1匹して大量に、規格外に高級フルーツ大福だけを注文して、
領事館が数日かけてコツコツ積み上げてきた■■万の純利益を、たった1時間でマイナスに、
ガッツリ、ガクンと、落とし切ったとさ。
「『イタリア風と和風のパスタ』、『ロシアンルーレット風とハロウィン風のいたずら』、『シェフの気まぐれ風と鶏のステーキ』。
言葉を追加すれば、いくらでも改変は可能よな」
は、バレンタインネタに取っておくのも面白いな。 某所在住物書きはスマホの過去投稿分を確認しながら、ぽつり、ぽつり。
似たお題を書いた記憶があるのだ。
あれは「風のいたずら」だった。
「個人的に和風とたらこのパスタは好きだ」
◯◯風とすれば、食い物と相性が良い。
物書きはひらめいて、スマホで検索を始める。
和風、中華風、イタリア風とジャンク風。
ところで最近、体重計の数字が……
――――――
前々回投稿分から続くおはなし。
最近最近の都内某所で、異なる思想を持ち別々の世界に本拠地を置くふたつの異世界組織が、
ひとつは淡々と職務をこなし、
もうひとつは一方的に、もう片方を敵視して、
事実として、対立構造をとっておりました。
前者は「世界線管理局」。
その世界が「その世界」で在り続けられるように、
その世界が他の世界から侵略されないように、
それぞれの世界が独自性・独立性を、ずっと、ずっと保っていられるように。尊重されるように。
保全活動と、運行管理と、調停と取り締まりと収容行為等々をしていました。
後者は「世界多様性機構」。
すべての世界が最先端技術を享受できるように、
すべての世界の知的生命を取りこぼさないように、
滅びそうな世界があれば、その世界に生きる人々が別の新しい世界で新しい生活を送れるように。
滅亡世界を看取る管理局の目をくぐり、滅亡世界の生存者を、他の世界へ密航させたり、
生存者を密航させた発展途上世界に先進世界の技術を持ち込んだりしていました。
で、そんな勝手に敵視されたり、危険視して監視したりし合っている両組織が、日本の東京で何をしておるかといいますと、
多様性機構は東京を、滅亡世界の難民の、密航を起点とした避難シェルターにしたいらしくて、
管理局はそんな機構を、東京から難民もろとも追い出したいらしくて。
そして、なぜかこのふたつの組織の、いざこざに巻き込まれかけておる東京都民(雪国出身)の、
名前を、藤森というのでした。
日本の花が好きな藤森は、技術提供を積極的にしてくれる機構に、絶滅に向かい続けている日本の花々を救ってほしいと思っており、
機構も藤森の要望に結構乗り気。
だけど一応、管理局のハナシも聞きましょう。
機構が隠しているであろう、「機構を盲信するリスク」を、管理局から聞こうとしたのです……
――「という経緯で、藤森、あなたのアパートに私が管理局から派遣されてきたワケだ」
「はぁ。それは、どうも」
藤森がその日、仕事から自分の部屋に戻ってくると、ちゃんとロックもセキュリティーも万全であるハズの部屋は鍵が開いていて、
そして、管理局の局員が、藤森のために温かい飲み物を淹れておりました。
「この世界のロックやセキュリティーなど、私達にはほぼ無いも同然だ」
しれっと藤森の電気ケトルを勝手に使っておる局員が、しれっと藤森のカップを持って言いました。
「私の故郷じゃ量子暗号も多重認証も、ひと昔前、いや、ふた昔さん昔前だ。
まだ異世界渡航技術も確立していないこの世界を、機構は、発展途上世界として開発したいのさ」
はい、どうぞ。
管理局から来た局員は、藤森に1杯、2杯。
小さなカップを差し出します。
中身はエスプレッソとカフェラテと?
「いいや、いいや。エスプレッソではない」
局員は穏やかに、しかし確実に、否定しました。
「エスプレッソ風と、カフェラテ風だ。あくまで『それっぽいもの』でしかない」
さぁ。どうぞ。
改めてカップを差し出された藤森は、
「エスプレッソ『風』とカフェラテ『風』」ってなんだと頭にはてなマークを浮かべながら、
まずカフェラテ風と、それからエスプレッソ風の、
香りを順番にかいで、それから口に少し含んで、
そしてカフェラテで気付きました。
牛乳で作ったカフェラテじゃない。
そもそもエスプレッソがエスプレッソじゃない。
「カフェラテは、生クリームと練乳だ」
ここで局員が種明かし。
「私がこの世界に来て、最初に飲んだのがカフェラテだった。それがとてもとても、美味くて」
作り方を知らない私がそれでもカフェラテを飲みたくて、見た目の似た材料を買って作った最初の「失敗作」が、それだ。
局員はそう言って、笑いました。
「つまり、あなたの故郷は私の世界より進んでいるのに、カフェラテとエスプレッソが無かった?」
「そう。そもそも動物の乳を飲む文化が無かった。
コーヒーはハーブの酒に溶かして飲む薬だったし、常飲嗜好品ですらなかった。
コーヒーはこの世界の『独自性』であり、『独立性』だ。守るべきだし、誇って良いと思う」
「はぁ。なるほど」
コーヒーが薬酒ねぇ。
藤森は再度、カフェラテ風とエスプレッソ風の飲み物の香りをかいで、ひとくちずつ飲みました。
カフェラテにしてはコーヒーが薄く、生クリームの風味が強く、練乳で妙な舌触りがありました。
エスプレッソは、ただの濃すぎるコーヒーでした。
それでもそれが「異世界人がカフェラテとエスプレッソを一生懸命再現しようとした結果」なので、
藤森は、カフェラテ風とエスプレッソ風を、大事に大事に、よく味わって飲みました。
「機構がしようとしているのは、カフェラテとエスプレッソの、いわば根絶だ」
管理局員が言いました。
「彼等は一律に、発展途上の世界を先進世界で塗り潰したがる。途上世界の独自性の芽を摘みたがる。
カフェラテとエスプレッソを、全部私の世界の薬酒に置き換える。それが、世界多様性機構だ」
「先進世界の技術を提供するだけなんだろう?」
「君たちはスマホやタブレットを与えられても、黒電話や電報を使い続けるのか?」
「『きせき』とか、ひらがなのお題だったら、奇跡にせよ輝石にせよ、なんなら鬼籍でも、色々ネタを選ぶ幅もあったんだろうけれど、
ひらがなだったら確実に『奇跡』を選んで途中で詰まってただろうな」
似たお題では以前「岐路」が出た。某所在住物書きはスマホをスワイプ、スワイプ。
人差し指で縦一直線の奇跡を以下略。
なんとか投稿用の文章を書き終えてから、今まで配信されたお題を確認していた。
「書く習慣」を入れて今日で792日。
約800の投稿記事は、インストール当初からいわゆる疑似的な連載風でもって続けてきた。
「……やっぱり日常系だと続けやすいな」
物書きは思った。 連載を長く続けるコツのひとつは、きっと「登場人物の日常を紹介するだけ」の投稿スタイルだ。
――――――
先輩がソシャゲをスマホに入れた。
先輩が私の推しのソシャゲをスマホに入れた。
あのゲームのゲの字もアパートに無いような、
雑誌もマンガも娯楽小説も、写真集も本棚に無いような先輩が、スマホに、ソシャゲを入れた。
しかも先輩が入れたのは、私がここ数年ずーっとお布施してる推しゲーだ。
ああ、せんぱい、先輩。一体全体、何がどうなったの。どういう風の吹き回しなの。
私が先輩に事情を聞くと、真面目な顔した先輩は、
口を少し開いてすぐ閉じて、神妙な顔で唇をきゅっとしめて――つまり「言いたいことは存在するけど言うべきか迷ってます」の癖を明確に見せて、
それから、
「条志という男から勧められたんだ」
「条志」っていうのは私の推しカプの右側だ。
正しくは、推しカプの右側、「ルリビタキ」っていうビジネスネームを使っているキャラクターが、
自分の素性を隠すために名乗る、偽名だ。
わぁ、わぁ。先輩。本当に何がどうなったの。
そんな、「お前の推しに勧められたんだよ」なんてジョーク、誰から吹き込まれたの。
っていうかホントに何がどうなったの。
私騙されないよ、別に同担だって平気だよ、ディスらないよ、地雷も無いし別解釈ウェルカムだよ。
怒らないから正直に言いなさい誰にそそのかされたの何に興味が発生してインストールしたの
って、リセマラもせず(というかリセマラという概念すら知らず)ゲームを始めようとしてる無垢な先輩をまくし立てたら、
なにやら右上に「回答例」って書かれたメモをチラっと見て、私も見て、もう一回メモを見てから
「『俺の爆死がそんなに心配か?』」
メモ内の文章をそのまま読んだような抑揚で先輩が、いつも「私」って言ってるあの先輩が言った。
あのね先輩(誰の入れ知恵だろう)
あのね、先輩(ガチで何が以下略)
――「どうだ、高葉井。最近の調子は」
先輩の暴挙に驚愕してリセマラの重要性を説いて、
インストールからチュートリアルスキップのチュートリアルガチャ、リセマラ終了基準までの軌跡を丹念に丁寧にレクチャーして、図書館の貸出受付窓口対応の仕事に戻ると、
受付窓口に、まさしく先輩が「勧められた」っていう条志ってキャラクターにバチクソよく似た「神レイヤーさん」が、借りた本を返しに来た。
わぁ。条志さんだ。ルリビタキ部長だ。
ルー部長。お疲れ様です
じゃなかった。こんにちは本の返却ですね。はいご利用ありがとうございました。
推しがゲームからそのまま出てきたようなひとが、
推しがそのまま喋ってるような声で、
なんなら推しと同じ口調、同じ抑揚で、
私、高葉井の名前を呼んで、挨拶してくれる。
それだけで私は幸福だ。昇天しそうな心地だ。
「真面目な先輩が、突然あのゲーム始めて、すごく混乱してるとこです」
わざわざ他人に自分の先輩のことを言う必要は無いかもしれないけど、
なんだかその日は「あの先輩が私の推しゲーと同じゲームを入れた」って混乱を、
どうしても、どうしても共有したくて。
「もう、ホントにゲームしない先輩なんです。
なのに『条志という男に勧められた』って」
目の前の「条志」、「ルリビタキ部長」に激似のレイヤーさんは、ファンサのつもりなんだろう、
ああ、まぁ、俺が勧めたからな
だって。 なにそれホントにルー部長が勧めたみたいな声で、仕草で、素っ気なさで。
「で?その真面目なお前の先輩、どうしたって?」
更に先輩のことをルー部長に激似というかそのまんまの声で聞いてくるものだから、
なんだか、ルー部長が本当に実在していて、そのルー部長が先輩にゲームを勧めたような、
そんな、錯覚さえ覚えた。
神レイヤーさんホント神レイヤーさん(語彙力)
「良ければ今度、先輩、紹介します」
レイヤーさんが返しに来た本の返却処理を終えた私は、この「推しそのまんまの見た目と声をしてる神レイヤーさん」の名前も呟きックスのアカウントも知らないことを今更思い出して、
「あの、良ければ、その、連絡先、」
同じ物が好きな者同士、なんなら二次創作にせよコスプレにせよ、オタク文化に理解がある者同士、
ぜひ繋がりを持ちたいと、スマホを見せた。
「連絡先?」
神レイヤーさんは私の申し出に、条志さんというかルリビタキ部長というか、ともかく「ルー部長ならそうするんだろうな」って反応をして、
「私用のSNSは入れていない」
まさしく、「ルー部長ならそうだろうな」って返答を、ルー部長そのまんまの声で、返した。
「ああ、わぁ、わぁぁ」
私は神レイヤーさんの対応に、尊みが爆発して、
「解釈、かいしゃく、完全一致……」
そのまんま、後ろに、完璧な弧状の軌跡を描いて
「はわ、はわぁぁ……」
「おい、大丈夫か高葉井。こうはい? 高葉井!」
その後2時間くらいの記憶が無い。
気がついたら事務室に寝かされてて、
先輩が言うには、私は気絶して、ガチで幸福そうな顔して、バッタン!ぶっ倒れたそうだった。
「『好きじゃないのに』とか『好き嫌い』とかなら、去年のお題で書いた」
好きに「成れない」ではなく、好きに「慣れない」、「馴れない」とするなら、
他者から向けられる継続的な好意だの嫌悪だのに、馴染むことができない誰かのハナシも書ける。
某所在住物書きは「なれない」がひらがな表記であることに着目して、その変換先を探った。
成れない、慣れない、鳴れない。
「好きに鳴れない」とは鳥等々のさえずりか。
「好きと嫌いなぁ」
物書きは天井を見上げた。個人的にそれは、執筆作業に使用している某焚き火アプリであった。
好きになれない理由は広告。時折ヤバい、疑うべき、不明な広告を見ることがある。
――――――
前々回と前回投稿分から続くおはなし。
最近最近の都内某所、某「本物の魔女」が店主をしている某喫茶店に、
ドチャクソに悩める雪国出身者が、バチクソに難しいような、実は至極簡単かもしれないような、
ともかく、単純な二項対立とは言えないハナシを、
真面目に、至極真剣に、悩んでおりました。
雪の人は名前を藤森といい、
藤森は異世界から来たふたつの組織の、それぞれの言い分を聞きました。
カラカラ、から、からり。
藤森が双方のハナシを聞き終わる頃には、不思議な不思議なネズミ車はいつの間にか運動をやめて、
その下で1匹のハムスターが、プカプカ。
出てきてはいけない何か尊厳というか、命というか、心そのもののようなものを吹いていました。
藤森が聞いた異世界組織の言い分の、
ひとつめの組織は「世界多様性機構」。
彼等は滅んだ先進世界の人々全員に手を差し伸べ、
まだ生きている発展途上の世界に送り込み、
途上世界を豊かにするかわりに、途上世界のバランスを崩してしまうリスクを野放しにするのでした。
多様性機構は言いました。
「管理局」の職員を信用してはならぬ。
管理局には、先進世界を滅ぼしかけたドラゴンが、1匹、勤めているのだ。
きっとそのドラゴンは東京をも滅ぼすだろう。
藤森は機構の言い分を聞いて、
機構を、嫌いになれないでおりました。
もうひとつの組織は「世界線管理局」。
彼等は生存している世界のどんな問題にも手出しをせず、介入せず、滅ぶも生まれるも双方見守り、
しかし、その世界が「その世界」の独自性を持ち続けていられるように、
その世界がその世界で在り続けられるように。
保全と保護と、他の世界との調停をしていました。
管理局のドラゴンは言いました。
「機構」にこの世界を渡してはならぬ。
機構はこの世界を、東京を途上世界とみなして、
事実として今まさに、他の滅亡世界の難民たちを、
密航させて、違法に移住させているのだ。
きっとこの機構は東京を混乱させるだろう。
藤森は管理局の言い分を聞いて、
管理局を、好きになれない、嫌いになれない。
ただ少なくとも、彼なりの精一杯に、藤森に対して誠実であろうとしているのは、理解したのでした。
「つまり、あなたがたは、」
藤森は目の前の、世界線管理局のドラゴンが変身した男性に対して、呟きました。
「私達の、この世界の滅びゆく花々を、救ってくれることはないワケだ」
藤森は日本の消えゆく花々を、憂いていました。
絶滅に向かい続けている花々を救いたくて、多様性機構が持つという異世界の技術を頼ったのでした。
機構は手を差し伸べてくれるが、
管理局は手を出さない。
そういうことだな。藤森はドラゴンに――藤森に「条志」と名乗った男性に、問うたのです。
「そうだ」
管理局のドラゴン「条志」はハッキリ言いました。
「俺達『世界線管理局』は、お前たちの世界に不必要に干渉しないし、介入もしない。そうすべきではないというスタンスだ。
たしかに絶滅危惧種を増やす技術も、それを可能にする道具も、多々収蔵しているが、
それを、お前たちに貸与することはない」
それは「お前たち」が、「お前たち自身」の知恵と技術と魂で、成し遂げるべきことだ。
条志はそう付け足しました。
やはり、好きになれない、嫌いになれない。
藤森は思いました。
どちらの言い分も、藤森はよく理解できたし、
どちらの立場も、藤森はよく共感できました。
滅んだ世界の難民を救おう。分かります。
自分の世界の問題は自分たちで。分かります。
だからこそ、相手を、信じてはならない。
藤森には、双方、よく分かるのです。
「それでも、」
藤森は思いました。
「……それでも、私は花が好きだから、
絶滅しそうな花を救ってくれる技術や道具があるなら、それが欲しいし、それにすがりたい」
藤森は日本の在来花が好きでした。
藤森は、それらが消えゆくのを、そのまま見殺しにはしたくありませんでした。
だからこそ、
「条志さん。私はさっき、世界多様性機構の組織を、自分の目で見てきた。
あなたの世界線管理局も、見せてくれないか」
藤森は、双方を平等に、見ようとしました。
で、まさかの展開。
「見たいなら見れば良い。すぐ見れる」
条志が藤森のスマホを、ちょいと借りて、
「お前の後輩、高葉井といったな。あいつ、ゲームやってるだろう」
ゲームストアのアプリを呼び出して、ポンポンポンと文字を打ち、検索して、
「それの中の『ルリビタキ』が、俺だ」
ひとつのソーシャルゲームを、表示しました。
「は?」
「俺達は広報活動と資金獲得のために、こっちの世界でゲームだのグッズだのコラボカフェだのを展開している。あの中の、『ルリビタキ』が、俺だ」
「……は?」
「ゲームを入れればだいたい俺達のことは分かる」
「は……???」
藤森はこれから管理局を好きになれるでしょうか?
その先は今後のお題次第。 しゃーない。